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つむぎさんとよしよしの効率

 火曜日。


 午後三時。


「……やった」


 相馬奏士は頭を抱えていた。


『珍しい顔してるね』


 とAIナビィが反応する。


「やった」


『何を?』


「やらかした」


 新しい試験計画の資料。


 奏士は効率化のため、過去のフォーマットを自動化し、入力も簡略化した。


 その結果。


 重要な試験条件を一項目、前回のまま残してしまった。


 幸い、実験前に若手の田辺が気付いてくれた。


「相馬さん、これ前の条件のままですよ?」


「……」


「危なかったっすね」


「……すまない」


 実害はない。


 だが。


 ミスはミスだった。


 定時。


 珍しく自己研鑽もせず、奏士は重い足取りで帰宅した。


『まだ引きずってる?』


「当たり前だ」


『誰でもミスするよ』


「効率化を急ぎすぎた」


『ふむ』


「確認工程を削った」


『ふむ』


「愚かだ」


『自己評価厳しいね』


「事実だ」



「あ、オジィ!」


「……おう」


 廊下にはつむぎがいた。


 茶トラは奏士の顔を見るなり足元に寄ってくる。


「元気ないね?」


「そうか」


「元気ない」


「そうか」


「失敗した?」


「……した」


「そっか」


 つむぎはそれ以上聞かなかった。


 ただ。


「よしよし」


 ぽんぽん。


「やめろ」


 ぽんぽん。


「子供扱いするな」


 ぽんぽん。


「聞け!」


 つむぎは笑った。


「失敗したんでしょ?」


「した」


「じゃあ、よしよし」


「なんでだ」


「必要だから」


「必要ない」


「あるよ」


 ぽんぽん。


「やめろ」


「よしよし」


「やめろ」


「よしよし」


「だから!」


『奏士』


「なんだ」


『逃げてないね』


「……」


『いつもなら『別に大丈夫だ』って言うのに』


「……」


 つむぎは少し困った顔をした。


「足りない?」


「何が」


「よしよし」


「量の問題なのか!?」


「もっと?」


「いらん!」


 ぽんぽん。


 ぽんぽん。


 ぽんぽん。


「……」


「よしよし」


「……」


「頑張った?」


「……頑張った」


「えらい」


「……」


「失敗した?」


「ああ」


「じゃあ次頑張ろ」


「軽いな」


「うん!」


「軽すぎる」


「だって、終わったことだもん」


「……」


「今、しょんぼりしてるオジィを、よしよしするのが大事」


「なんでそんなにこだわる」


「好きだから」


「何が」


「よしよし」


「概念!?」


『面白い趣味してるね』


「ナビィ!」


 つむぎは真剣な顔になった。


「オジィ、いつも頑張ってるでしょ?」


「普通だ」


「いっぱい頑張る人は、いっぱいよしよししないといけないって教わってるの」


「そういうものか?」


「うん」


「誰が決めた」


「わたし!」


「雑!」


 つむぎは満足そうにうなずいた。


「今日は百回よしよし」


「そんなに!?」


「今十五回」


「数えてるのか!」


「うん!」


「やめろ!」


 茶トラまで足に擦り寄ってくる。


「お前もか」


「猫ちゃんもよしよししてる」


「それは違うだろ」


『奏士』


「なんだ」


『ちょっと元気出てる』


「……」


『顔がさっきより柔らかい』


「……」


『よしよし効率、高そうだね』


「そんな指標あるか!」



 夜。


 部屋に戻る。


「……ナビィ」


『なに?』


「失敗した」


『うん』


「確認を怠った」


『うん』


「反省する」


『うん』


「でも」


『うん』


「まあ、次だな」


『うん』


「……」


『なんで頭触ってるの?』


 奏士は無意識に、つむぎにぽんぽんされた頭を触っていた。


「癖だ」


『へぇ』


「癖だ」


『よしよしの余韻?』


「違う!」


『はいはい』


 最適化の鬼・相馬奏士。


 今日の教訓。


 確認工程は削ってはいけない。


 そして。


 なぜかよく分からないが。


 よしよしにも、案外悪くない効能があるらしい。

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