姫と陛下の試練 2
「姫様。辺境伯家から、また薔薇が届くそうですわ」
「まあ……そうなの? 楽しみね」
「……あの子は姫様の好みを熟知しておりますから」
目を伏せ苦笑いで、メイド長は私に告げました。
あの子……私の部屋に虫を放ち解雇されたドSメイド。
陛下も話してくれましたが、あの子は本当に反省をしていました。良い意味でも悪い意味でも、彼女は私を本当に愛していました。そして、純粋に私の幸せを願ってくれていたのです。
ドS王太子が亡くなった以後、三か国の辺境伯の緊張が高まりました。改めてもう一度、三か国の王家と辺境伯の親睦を深めることになったのです。
その中で、私の祖国の辺境伯はあの子を重用しました。
――当然と言えば当然です。
私が推薦状を書き、あの子が解雇された事実を隠し辺境伯家へ送り出したのですから。さらに私は嫁ぎ先でも祖国でも溺愛されていて、そんな私の好みをあの子は誰よりも分かっていたのですから。
辺境伯から見れば、あの子が陛下に呼ばれアドバイスをしたから私達は結ばれた。そう思っても仕方がありませんし、陛下も私も彼女に感謝していると思ってると考えているでしょう。
「姫様。今日は珍しい薔薇のようですよ」
「辺境伯領にしかない薔薇だそうですわ」
「辺境伯家の庭師が植え替えに来てくれるそうです」
政務が早めに終わるとメイド達が教えてくれました。
「王宮の庭に植え替えてくれるの? 素敵ね」
「姫様、せっかくですから見学しましょうか?」
私はメイド長の提案に頷きました。
「作業の邪魔にならない様に、少人数で行きましょう」
王宮の庭なら騎士は必要ないわね。私はそう判断して気心の知れたメイド達と庭に向かいました。
◇◇◇◇◇◇◇
王宮の庭に近付くと、辺境伯の庭師と王宮の庭師の会話が聞こえました。
「陛下が側室を迎えるって本当か?」
「え? まさか……」
「王妃は素晴らしい方だか……でもなあ……」
「結婚3年経って、お世継ぎがいないのは……なあ?」
……側室?
まさか、そんな……陛下が私以外の女性を……迎える?
私達に気づかない庭師達は会話を続けます。
「にわかには信じがたいな」
「王宮の者は、全員が信じないだろうよ」
「だけど、元王妃付きのメイドが言ってたらしいぞ」
「元王妃付きのメイド?」
……メイド……まさか、あの子が?
……どうして……あの子が?
あの子は反省して……私の幸せを……? なのに……?
……それとも……私が知らない所で……話が?
私の頭は疑問符だらけになってしまいました。
そして、ぐるぐると地面が揺れ目の前も暗くなり……。
「姫様!!」
メイド達の声が遠くに聞こえる。
なのに、庭師達が言っていた言葉だけが何度も何度も頭に響く。真っ暗な中、その声だけが。……ああ、でも……子供がいないのは我が国だけ……そうね……私が知らない間に……陛下はそれを私に知られない様に……だから……王宮では噂になってなくて……辺境伯では……。
それなら……私は王妃として……。
ああ……どうしたら……。
◇◇◇◇◇◇◇
「……め……ひめ……姫っ!! 気づいたか?」
王宮の庭にいたはずの私は、ベッドに寝かされていました。そして、心配そうに私を見つめる……私の愛しい陛下がいらっしゃいました。
「……へいか……」
私の目からは自然と涙が溢れてしまいました。
これまでずっと、王妃らしく冷静でいられたのに。
「……姫。大丈夫か? 庭で倒れたと聞いて驚いた」
倒れた……なるほど……。
私の涙を拭く、陛下の顔を見ます。
純粋に私の体調だけを心配されている。
倒れた原因を知らないのだと直感で分かりました。
「……大丈夫ですわ、貧血だと思います。」
「そうか、医師は問題無いと言っていたが……姫が泣くほど辛いなら……もう一度、診察を……」
陛下はそう言うと、立ち上がろうとなさいました。
「本当に大丈夫です。涙は陛下の顔を見て気が緩んで」
「そうなのか? 無理はするなよ?」
「はい」
陛下は、私の頭を優しく撫でて下さいます。
そんな陛下の変わらぬ愛情に胸が熱くなりつつ、頭では冷静に考えていました。
王宮の庭で側室の話をしたのは、辺境伯家の庭師。
それを言ったのが『あの子』だとしたら。
あの子も辺境伯家も我が祖国側の人間です。
今日、庭まで一緒に行ったのは祖国から付いてきてくれたメイド達。そうなると、陛下に真実を言う前に私の判断を待っているはず。私が倒れた後、庭師に口止めしてくれたと考えるのが自然でしょう。
ドS王太子の死の真相。
これを知っているのは三か国の王と王妃・宰相・辺境伯。それ故に、三か国の王家と辺境伯の友好を強化すべきとなったはず。そうなると……三か国の均衡を守るためには三か国共に世継ぎがいる状態にすること。
そう考えてもおかしくはないわね。
……陛下も私の父母も私を愛して下さっている。
けれど、王と王妃の責任、三か国の友好と均衡。
そちらの方が大事だというのも事実。
それなら、私の知らない水面下で動いているのかもしれない。最近は、あの子も我が国に色々贈り物をしてくれている。その中で、あの子が側室の話を聞いたのかもしれない。
けれど……それをあの子が吹聴するかしら?
それとも、陛下に守られている私には聞こえないだけで。
公然の秘密として知られているのかしら?
だから、あの子はそれを肯定しただけ?
……もしかして陛下は。
本当に私との子を望まないのかしら?
ご自身の母君と同じ目に合わせたくないから?
けれど、それはそれで政治的にどうなのかしら?
陛下は名君と呼ばれている方。
私情を選ぶかしら?
それとも、全てを解決する策を考えていらっしゃる?
……でも。
私が絶対に子供を産めない訳でも、産後死ぬと決まった訳でもないのに。
◇◇◇◇◇◇◇
「姫、大丈夫か?」
「ええ、食事もちゃんと出来ましたでしょ?」
就寝の時間になり、ベッドでは陛下が優しく私を抱きしめてくれます。
「……倒れたと聞いた時……心臓が止まるかと思った」
その言葉に、私は顔を上げました。
すぐ近くにある陛下の顔、そして瞳が潤んでいて。
「……陛下……」
「……恐ろしかった、とても……人生で一番……」
私の顔を見つめ、私の存在を確かめる様に陛下は頬をソッと撫でてくれました。その手が……少し震えているように思います。
「……陛下……」
「姫……無理だけは絶対にするな……私の為に……」
我慢しがちな私に、陛下は効果的な言葉を告げました。
こんなにも私を愛してくれている陛下の為なら何でもしてあげたい。けれど、同じくらい心配をかけたくない。色々な思いで胸が一杯になりました。
結局、私が陛下に言えた言葉は……。
「陛下、愛しています……たくさん激しく愛して……」
「……今日は止めた方がいいのではないか?」
どこまでも優しい陛下。
けれど、陛下の優しさよりも……今は、陛下の愛を身体で感じたいのです。私も陛下に対して効果的な言葉を使いました。
「お願い……陛下……私を愛しているなら……して?」
「……そうか。分かった」
陛下は、愛おしそうに優しく口付けてくれました。
そして、大切に大切に愛してくれたのです。
けれど……陛下は、私の中に本当の愛を注いではくれなかったのです。
だからなのでしょうか?
あんなことになってしまったのは。
やっと、2話をお届け出来ました。
時間が掛かり過ぎて、コミカライズ最終回記念にもなってしまいました。9月19日土曜日0時から、コミカライズ最終回25話配信予定です♪
まだ、1話から3話が誰でも無料でお読みいただけますので↓よりお読み頂けたら嬉しいです♡
そして、番外編の方は次回最終回になります˖✧˖°




