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最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
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# 第9話 においますにゃん

# 第9話 においますにゃん



 霧の街は、朝から夜みたいだ。


「ご主人様ー、拾ってきましたにゃん!」


 事務所の扉が、勢いよく開いた。


「……なんだ、それは」


「ボタンですにゃん!」


「聞いていない」


「あと、これと、これと、これですにゃん」


 机の上に、並べた。


 ボタン。マッチ。髪どめ。ちいさい鍵。あと、なぜか、栗。


「栗は」


「おいしそうでしたにゃん」


「捨てろ」


「やですにゃん」


 ミミは、この探偵事務所の助手だ。


 鼻がよくて、耳がよくて、現場でいろいろ拾ってくる。


 ご主人様は、椅子から動かない。


 ミミの報告だけで、事件を解いてしまう。


「依頼は、香水だ」


「こうすい」


「盗まれた。持ち主は、名を出したがらない」


「どんな香水ですにゃん」


「……『魅了』という」


「みりょう」


「嗅いだ者は、正気を失うそうだ」


「うそですにゃん」


「おれも、そう思う」


 ◇


 三日で、見つかった。


 ミミの鼻が、街のはしまで追いかけた。


「こっちですにゃん! こっちですにゃん!」


「走るな」


「においますにゃん! すごく、においますにゃん!」


「鼻を近づけるな」


「はいですにゃん」


 近づけていた。


 犯人は、質屋の裏にいた。


 ミミが飛びかかって、押し倒して、上に座った。


「つかまえましたにゃん!」


「……重い」


「重くないですにゃん!」


「立て」


「もうちょっとですにゃん」


「なんのだ」


「……たのしいですにゃん」


「立て」


 瓶は、無事だった。


 事務所に戻って、机に置いた。


 置いた、つもりだった。


 尻尾が、当たった。


 落ちた。


 割れた。


「…………」


「…………」


「にゃ」


 ◇


 匂いが、部屋に広がった。


 甘い。重い。花じゃない。もっと、近い匂い。


「ご主人様、窓を」


「……ミミ」


「はいですにゃん」


「顔が、赤い」


「そんなこと、ないですにゃ……」


 語尾が、伸びた。


 ミミは、机に手をついた。


 体が、熱い。


 でも、苦しくはない。


 むしろ、すごく、気持ちがいい。


「……ご主人様ぁ」


 自分の声が低くなっているのが、わかった。


 わかっているのに、止まらなかった。


「……離れろ」


「やですにゃん」


 机を回って、椅子の横に立つ。


 しゃがんで、肘掛けに、顎をのせた。


「ミミ、いま、なんでも言えますにゃん」


「言うな」


「言いますにゃん」


「ミミ」


「頭、撫でてほしいですにゃん」


「…………」


「名前、呼んでほしいですにゃん」


「…………」


「おひるね、いっしょにしてほしいですにゃん」


「…………」


「ごはん、ぜんぶ食べてほしいですにゃん」


「……全部、聞いている」


「ぜんぶ、言っちゃいますにゃん」


「ミミ」


「だって、いつもは、言えないんですにゃん」


「ご主人様」


「なんだ」


「……しっぽ」


 ミミは、自分の尻尾を両手で持った。


 持って、差しだした。


「さわって、ほしいですにゃん」


「…………」


「ずっと、言えなかったやつですにゃん」


 ご主人様は、しばらく動かなかった。


 それから、机の引き出しを開けた。


 出てきたのは、ブラシだった。


「……いつから、持ってたんですにゃん」


「三年前からだ」


「にゃ」


「渡す機会が、なかった」


 ミミは、床に座った。


 ご主人様が、うしろに座った。


 ブラシが、尻尾の先に触れる。


「にゃっ」


 毛が、いっせいに逆立った。


「痛いか」


「……痛くないですにゃん」


 ゆっくり、梳かれた。


 先から、中ほどへ。


 中ほどから、もっと上へ。


 ミミの耳が、うしろに倒れた。


 声が、出なかった。


「ミミ」


「……はい」


「毛が、絡んでいる」


「……三年、だれにも、さわらせてないですにゃん」


 ブラシが、止まった。


 それから、また動いた。


 もっと、ゆっくり。


 付け根に、近づいてくる。


 ミミは、床に爪を立てた。


「……ご主人様」


「なんだ」


「そこ、だめですにゃん」


「やめるか」


「……やめないでほしいですにゃん」


 自分の声じゃないみたいだった。


 ブラシが、付け根に、触れた。


 背中を、なにかが走った。


 ミミは、床に突っ伏した。


「…………」


「ミミ?」


「……いま、しゃべれませんにゃん」


 尻尾だけが、ゆっくり、揺れていた。


 どのくらい、そうしていたのか、わからない。


「ご主人様」


「なんだ」


「……いま、しあわせですにゃん」


「そうか」


「……ずっと、こうしてたいですにゃん」


 返事は、なかった。


 でも、手は、止まらなかった。


 時計の音が、遠かった。


 永遠に、続けばいいと思った。


 ブラシが、置かれた。


「終わりだ」


「やですにゃん」


「終わりだ」


 ミミは、振り向いた。


 ご主人様の顔が、近かった。


 息が、あらい。


 目が、いつもとちがった。


「……ご主人様も、においを、吸いましたにゃん?」


「……吸った」


「じゃあ」


 その袖を、つかんだ。


「じゃあ、いいですにゃん」


「よくない」


「ミミ、いま、ぜんぶ言えますにゃん。だから」


 喉が、動いた。


 いちばん奥にある、いちばんこわいやつが、上がってきた。


「ミミ、ご主人様の──」


 口を、ふさがれた。


 手のひらだった。


「言うな」


「…………」


「それは、いま言う言葉じゃない」


 ご主人様の手が、震えていた。


 それから、その人は、自分の腕に、歯を立てた。


 血が、にじむくらい、強く。


「にゃっ!?」


「……戻った」


「もどらなくていいですにゃん!」


「戻る」


 抱きしめられた。


 息ができないくらい、強く。


「寝ろ」


「やですにゃん」


「寝ろ」


「……はい」


 ミミは、そのまま眠った。


 ◇


 朝、窓を開けた。


 霧は、晴れていた。


 ご主人様は、いつもの椅子で新聞を読んでいる。


 腕に、包帯が巻いてあった。


「……おはようございますにゃん」


「ああ」


「…………」


「…………」


 ミミは、ぜんぶ覚えていた。


 言ったことも、言われたことも、さわられたところも、ぜんぶ。


 ご主人様も、たぶん、覚えている。


 でも、どちらも、なにも言わなかった。


 お茶を淹れて、机に置く。


 置くとき、気づいた。


 ブラシが、出しっぱなしになっていた。


 しまわれて、いなかった。


「……ご主人様」


「なんだ」


「これ、また、してくれますかにゃん」


「……気が向いたらな」


 ミミの尻尾が、ぱたん、と鳴った。


「ご主人様」


「なんだ」


「……その腕、いたいですかにゃん」


「いたくない」


「うそですにゃん」


「……うそだ」


 その日の夕方、ミミは鏡を見ていた。


 耳の先が、うすくなっている。


 向こうが、すこし、透けていた。


 手の甲の数字を、見る。


    あと 一日


 ……一日。


 昨日まで、四日だった。


 昨夜、望みを、口にしただろうか。


 ……たくさん、した。


 ミミは、鏡から目をそらした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 しっぽを、ブラッシングしてもらった … +150

 ブラシ、三年前から持ってた ……… +100

 抱きしめてもらった ……………… +80

 おねだり、ぜんぶ言えた ………… +40

 でも、ぜんぶ、聞き流された …… −60

 口を、ふさがれた ………………… −70

 ご主人様が、けがをした ………… −120

 また してくれるか、わからない … −89


 本日の合計 ……………………… +31

 つうさん ……………………… 166 P

 ランク ……… ★★★★☆「もう家族ですにゃん」


  ★が、よっつになりましたにゃん。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの。


 ミミ、あした、なにか、わすれちゃう気がしますにゃん。


 だから、ここに、書いておきますにゃん。


 きのうは、いちばん、しあわせでしたにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 あめですにゃん。


 ずっと、あめの街ですにゃん。


 ミミ、こわれてるみたいですにゃん。


 ねじが、はずれてますにゃん。


 ……ご主人様が、なおしてくれてますにゃん。


  第10話「おかえりなさいませ、にゃん」


 ……あと、いちにち、ですにゃん。

──────────────────


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