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最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
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# 第6話 社長、たおれますにゃん

# 第6話 社長、たおれますにゃん




 地上、二百八十メートル。


 窓の外に、雲があった。


 下に。


「ご主人様ー、けさの数字ですにゃん」


「置いておけ」


「読みますにゃん。日経、上がってますにゃん。ダウ、下がってますにゃん。ユーロは、よこばいですにゃん」


「……お前、意味をわかって読んでいるのか」


「ぜんぜんわかりませんにゃん」


「だろうな」


「ご主人様、朝ごはんは」


「いらん」


「三日、食べてませんにゃん」


「食べた」


「ゼリーは、ごはんじゃないですにゃん」


「栄養は同じだ」


「ちがいますにゃん!」


 ミミは、ゼリーの空き袋を、机の上に八個ならべた。


「八個ですにゃん」


「……片づけろ」


「証拠ですにゃん」


 ミミは、この会社でただひとりの社員だ。


 秘書で、経理で、掃除で、お茶くみで、あとは何でも屋。


 名刺には「秘書」と刷ってある。


 スーツは、去年ご主人様が選んだ。


 ……すこし、きつい。


 しゃがむときは、いつも、気をつけている。


 この階には、ほかにだれもいない。


 ワンフロアぜんぶが、ご主人様の会社だ。


 机が二つと、椅子が二つ。


 あとは、ぜんぶ、空いている。


「ご主人様」


「なんだ」


「今夜、ほんとうに、やるんですにゃん?」


「やる」


「……百億ドルですにゃん」


「知っている」


 三日、寝ていない人の目だった。


 ◇


「……あの、ご主人様」


「なんだ」


「これ、なんですかにゃん」


「衣装だ」


「うさぎですにゃん」


「バニーガール、という」


「うさぎですにゃん!」


「今夜の会場は、そういう店だ。先方の指定だ」


「…………」


「嫌なら断る。取引ごと」


「…………」


「ミミ」


「……着ますにゃん」


 会場は、地上三百メートルのラウンジだった。


 ガラスの向こうに、街の灯が、ぜんぶ入っていた。


「はじめましてですにゃん! ミミですにゃん!」


 スーツの人たちが、いっせいに振り返った。


「……猫?」


「猫ですにゃん」


「本物?」


「本物ですにゃん。ひっぱらないでくださいにゃん」


 だれかが、笑った。


 それから、みんなが笑った。


 ミミは、なにが起きているのか、わかっていなかった。


 ただ、まっすぐ立って、ぜんぶの人に、順番に頭を下げただけだ。


「お飲みものですにゃん」


「氷、いる?」


「いれますにゃん! ミミ、氷、とくいですにゃん!」


「ねえ、その耳、動くの?」


「動きますにゃん」


「動かして」


「はいですにゃん」


 ぴょこ、と動かした。


 拍手が、起きた。


「しっぽも?」


「しっぽは、勝手に動くんですにゃん」


「いまも?」


「……いまは、動いてないですにゃん」


 動いていた。


 一時間後。


 会場のまんなかにいたのは、ミミだった。


 名刺が、十二枚たまっていた。


 ぜんぶ、ミミがもらったものだ。


「ご主人様、これ、どうしますかにゃん」


「持っておけ」


「ミミの、ですかにゃん」


「お前が取ってきた」


 だれも、ご主人様を見ていなかった。


 ……ご主人様だけが、ミミを見ていた。


 控え室で、シャンパンクーラーが倒れた。


「にゃっ!?」


 氷水が、ぜんぶ、かかった。


 白いブラウスが、肌に貼りついた。


 その下の、黒。


 レースの、へり。


 脚の、上のほう。


 細いベルトの、留め具が、ひとつ。


 その先は、見えなかった。


 だれかが、息をのむ音がした。


「──おい」


 上着が、飛んできた。


 ミミの頭から、かぶさった。


「にゃっ」


「そのまま出るな」


「はいですにゃん」


「……前を、閉めろ」


「はいですにゃん」


「……もっとだ」


「はいですにゃん!」


「ご主人様」


「なんだ」


「上着、ぬれちゃいましたにゃん」


「かまわん」


「……あったかいです」


「……行くぞ」


 取引は、そのあと、十分で決まった。


 先方が、ペンを置いて言った。


「あんたのところの猫が気に入った」


「猫じゃないですにゃん。ミミですにゃん」


 また、笑いが起きた。


 グラスが、いっせいに上がった。


 そのなかで、ご主人様が、はじめて笑った気がした。


「──猫耳メイドの、その瞳に乾杯」


「え」


「かんぱい」


「……なんですかにゃん、それ」


「知らなくていい」


「知りたいですにゃん」


「あとで教える」


「ぜったいですにゃん!」


 あとで、ミミは自分で調べた。


 古い映画の、台詞だった。


 意味を知って、しばらく、画面の前で固まった。


「……ご主人様」


 言おうとして、やめた。


 言ったら、たぶん、二度と言ってもらえない。


 ◇


 エレベーターは、静かだった。


 五十階を過ぎたあたりで、ご主人様が壁にもたれた。


「ご主人様?」


「……問題ない」


 六十階で、ずるずると、座りこんだ。


「ご主人様!?」


「三日、寝ていない」


「知ってますにゃん! ずっと言ってましたにゃん!」


「……声が、大きい」


「大きくしますにゃん!」


 オフィスのソファまで、ミミが運んだ。


 軽かった。


 この人、こんなに軽かっただろうか、と思った。


 濡れたままのブラウスで、水を持ってきた。


 毛布をかけた。


 靴を脱がせた。


 それから床に座って、ソファの縁に、顎をのせた。


「ご主人様」


「……」


「百億ドル、すごいですにゃん」


「……」


「でも、ミミ、うれしくないですにゃん」


「……」


「ご主人様がたおれるほうが、こわいです」


 返事は、なかった。


 しばらくして、手が、動いた。


 ミミの頭の上に、乗った。


「にゃ」


 そのまま、二回。


 ゆっくり、撫でられた。


「……よくやった」


「…………」


「ミミ」


「…………」


 なにも、言えなかった。


 三年、待っていた。


 なにを待っていたのか、自分でもわからないまま、三年。


 涙が、床に落ちた。


「……ご主人様」


「……なんだ」


「ミミ、ちゃんと、やれてましたかにゃん」


「……」


「ミミ、猫だから、へんな目で見られますにゃん。ご主人様の、じゃまになってないですかにゃん」


「……逆だ」


「え」


「お前がいなければ、今日の取引はなかった」


「…………」


「……あの」


「なんだ」


「もういっかい、してほしいですにゃん」


「……ん」


 もう、寝ていた。


 ◇


 夜が明けるまで、ミミはそこに座っていた。


 朝、机を片づけていて、書類の束のいちばん下から、自分の履歴書が出てきた。


 三年前に、自分で書いたものだ。


 開いた。


 白紙だった。


 名前も、住所も、なにも書いていない。


 ……書いた覚えは、ある。


 ペンが切れかけていたことまで、覚えている。


 書類の隅に、赤いペンで、小さく数字が書いてあった。


    あと 十九日


 ミミの字だった。


 いつ書いたのか、覚えていない。


 でも、これを書いたのは、ミミだ。


 それだけは、わかった。


 窓の外の雲は、朝の色になっていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 頭を、撫でてもらった ………… +100

 「よくやった」って言われた …… +50

 瞳に乾杯(意味は不明)………… +30

 うさぎの服を着させられた …… −40

 氷水を、かぶった ……………… −35

 ご主人様が、たおれた ………… −72


 本日の合計 ……………………… +33

 つうさん ……………………… 111 P

 ランク ……… ★★★☆☆「両想い(自称)」


  ★が、みっつになりましたにゃん。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの。


 +100 は、盛ってないですにゃん。


 ぜんぜん、盛ってないですにゃん。


 むしろ、たりないくらいですにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 あさ、目がさめたら。


 草の上でしたにゃん。


 空が、ひろいですにゃん。ビルが、ひとつもないですにゃん。


 ご主人様が、地図をひろげてますにゃん。


  第7話「おふろ、ひろいですにゃん」


 ……おでかけですにゃん! はじめての、おでかけですにゃん!

──────────────────


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