↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
PR
49/107

# 第5話 今日のご報告ですにゃん

# 第5話 今日のご報告ですにゃん




 カメラのランプが、赤く光った。


「本日のご報告ですにゃん」


 ミミは、背すじを伸ばして頭を下げた。


「航行、順調ですにゃん。船内、異常なしですにゃん」


「本日は、七万三千四十日目ですにゃん」


「ご主人様の生命維持、正常ですにゃん」


「つぎに目をさますのは……えっと」


 端末を、のぞきこむ。


「……十九年後ですにゃん」


「…………」


「以上、本日のご報告でしたにゃん」


 ランプが、消えた。


 だれも、見ていない。


 この映像を再生する人は、まだ眠っている。


 七万三千四十日、ずっと。


 ◇


「検品ですにゃん」


 だれにともなく、そう言った。


 貨物庫の箱を、順番に開けていく。


「工具、よし。たね、よし。おくすり、よし」


「……つぎの箱は、なんですかにゃん」


 開ける。


 なかは、布だった。ちいさい布が、たくさん。


「……なんですにゃん、これ」


 タグを読む。


「みずぎ」


 この船に、海はない。


「…………」


「……ちゃんと着られるか、確認しないと、いけませんにゃん」


「うん。しないと、いけませんにゃん」


「これは、おしごとですにゃん」


「ぜんぜん、たのしくないですにゃん」


「……ぜんぜん」


 ミミは、カメラを持ってきた。


「追加の、ご報告ですにゃん。積荷の検品を、いたしますにゃん」


「一着目ですにゃん」


 紺色。肩の紐が、太い。


「かたいですにゃん。うごきにくいですにゃん」


「……ここ、なまえを書くところが、ありますにゃん」


「学校の、みずぎですにゃん」


「…………」


「……なんで、ミミ、これ知ってるんですか」


 着たことなんて、ないのに。


「評価は、五点満点で、二点ですにゃん」


 カメラの前で、くるりと回る。


「でも、ちょっと、なつかしいですにゃん」


「二着目ですにゃん」


 ピンク。ワンピース。裾のフリルが、三段。


「かわいいですにゃん! フリルが、三段ですにゃん!」


 その場で、三回まわった。


 フリルが、遅れて三回まわった。


「四点ですにゃん! しっぽを出す穴がないので、マイナス一点ですにゃん」


「三着目ですにゃん」


 黒。レース。


 電灯に、かざしてみる。


 ……向こうが、透けた。


「…………」


「これ、こわれてますにゃん」


 もう一度、かざす。


 やっぱり、透けた。


「不良品ですにゃん。返品ですにゃん」


 それでも、着てみた。


 鏡の前に、五秒だけ立った。


「…………」


「……評価は、しません」


 すぐに、脱いだ。


「四着目ですにゃん」


 箱の底から出てきたのは、白かった。


 ちいさい。とても、ちいさい。


 紐が、四本。


「……あの」


 両手で、広げてみる。


 広げても、広がらなかった。


「これ、布が、たりてないですにゃん」


「ぜんぜん、たりてないですにゃん」


「サイドの、この紐、ほどけますにゃん。ほどけたら、どうするんですにゃん」


 カメラの赤いランプが、光っている。


「……ご主人様は、寝てますにゃん」


「だれも、見てませんにゃん」


「……ちょっとだけ、ですにゃん」


「では、本日のランキングを、発表しますにゃん」


「第三位、ピンクのフリルですにゃん。かわいいですにゃん」


「第一位は、紺色ですにゃん。なんだか、安心しますにゃん」


「第二位は……」


「…………」


「……第二位は、ないしょですにゃん」


「以上、本日の検品報告でしたにゃん」


 ◇


 着替えている途中で、船が揺れた。


 最初は、軽く。


 二度目は、大きく。


 三度目で、床がなくなった。


「にゃっ!?」


 体が、浮いた。


 箱が浮く。水着が浮く。干していた洗濯物が、いっぺんに浮いた。


 船内が、布だらけになる。


 白いシーツが、目の前を横切っていった。


 その向こうで、赤いランプが点滅をはじめた。


『緊急事態。第三区画に損傷』


「にゃっ」


『乗員の緊急覚醒を開始します』


「だめですにゃん! まだ十九年ありますにゃん!」


『緊急覚醒を開始します』


「聞いてくださいにゃん! ミミ、いま、ふくが、その」


『開始します』


「にゃーっ!?」


 冷凍区画の扉が、開いた。


 白い霧が、床を這っていく。


 蓋が、ゆっくり持ち上がった。


 ミミは、そこに立っていた。


 浮いている洗濯物の、まんなかで。


 紐、四本で。


「……ミミ」


 二百年ぶりの、声だった。


 かすれていた。


「……お、おかえりなさいませ、ですにゃん」


「なんだ、その格好は」


「検品ですにゃん!」


「検品」


「検品ですにゃん!!」


「…………」


「見ないでくださいにゃん!」


「……見ていない」


「見てましたにゃん!」


「なんで起きてるんですにゃん!」


「お前が起こした」


「起こしてないですにゃん! 船が、勝手にですにゃん!」


「……船はお前だろう」


「にゃっ」


 ご主人様は、自分の毛布を引きはがして、投げた。


 ミミは、それを顔からかぶった。


「……第三区画だ。行くぞ」


「はいですにゃん!」


 損傷は、外壁の細い裂け目だった。


 ミミが外に出て、ふさぐ。


『左だ。もう二十センチ』


「はいですにゃん」


『……手が震えているぞ』


「震えてないです」


『震えている』


「宇宙が、さむいんですにゃん」


 嘘だった。


 こわかった。


 二百年この船を守ってきて、はじめて、こわいと思った。


 守るものが、起きているからだ。


『ミミ』


「……はい」


『落ちるなよ』


「落ちません」


 三時間かかって、裂け目はふさがった。


 ◇


 重力が、戻った。


 浮いていた洗濯物が、いっせいに床へ落ちた。


 水着も、落ちた。


 ミミは、見なかったことにした。


「ご主人様」


「なんだ」


「おつかれさまでしたにゃん」


「ああ」


「……あの」


「なんだ」


「いっしょに、お昼寝しませんかにゃん」


 言ってしまってから、うつむいた。


 この船に、昼はない。


 夜も、ない。


 ご主人様は、カプセルの縁に手をかけていた。


「……体が、もたない」


「……はいですにゃん」


「十九年後だ」


「はい」


 にゃん、が、出てこなかった。


 蓋が、閉じていく。


 白い霧が、ゆっくり満ちる。


 閉じるまぎわに、ご主人様が、なにか言った。


 聞こえなかった。


 その夜、ミミは記録装置の前に座った。


 早送りする。


 検品のところは、飛ばした。


 事故のところも、飛ばした。


 カプセルが閉じるところで、止める。


 音量を、いちばん大きくする。


「……もういちど」


 再生する。


 ご主人様の唇が、動いた。


『──ちゃんと、見ていた』


 ミミは、しばらく動かなかった。


 それから、両手で顔を押さえた。


 尻尾が、床を、ぱたぱた叩いていた。


「……十九年、ながいですにゃん」


 窓の外で、星が、いつもどおりに流れていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 二百年ぶりに、会えた ……………… +50

 名前を呼ばれた(三回)………… +15

 「落ちるなよ」って言われた …… +22

 毛布を、かけてもらった ………… +12

 お昼寝、ことわられた …………… −30

 また十九年、ひとりになった …… −50


 本日の合計 ……………………… +19

 つうさん ……………………… 78 P

 ランク ……… ★★☆☆☆「たぶん好かれてますにゃん」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの。


 さいごの「ちゃんと、見ていた」は、


 ぜったい、検品のことじゃないですにゃん。


 ぜったい、ちがいますにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 あさですにゃん。


 ミミ、スーツを着てましたにゃん。


 たかい、ビルの、いちばん上ですにゃん。


 ご主人様は、三日、寝てないみたいですにゃん。


  第6話「社長、たおれますにゃん」


 ……あと十九日で、この会社、なくなるみたいですにゃん。

──────────────────




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。