↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
PR
48/112

# 第4話 はじめまして、じゃないですにゃん

# 第4話 はじめまして、じゃないですにゃん




 教室の窓ぎわに、その人はいた。


 本を読んでいる。


 膝の上に、開いたまま。


 ミミは、荷物を持ったまま、そこで止まった。


「──ご主人様」


 教室が、しん、とした。


 三十人ぶんの視線が、いっぺんにこっちを向いた。


「え」


「あ」


「にゃ」


 窓ぎわの人が、顔を上げる。


「……おれ?」


「…………」


 ミミは、荷物を落とした。


「転入生。名前は」


「ミミ、ですにゃん」


「ミミさん。えっと、その、耳は」


「体質ですにゃん」


「体質」


「体質ですにゃん」


 クラス委員の子が、それ以上聞かないことに決めた顔をした。


 ミミも、それ以上言わないことにした。


 言えることが、なかった。


 どうして「ご主人様」と呼んだのか、自分でもわからない。


 でも、あの窓ぎわの人を見た瞬間、口が、勝手に動いた。


「ミミさん、文化祭、明日なんだけどさ」


「はいですにゃん」


「うち、喫茶店やるんだけど、衣装係が足りなくて」


「やりますにゃん!」


「ほんと!? あの、それで、着る人も足りなくて」


「…………」


「体型、ちょうどよくて」


「…………」


 窓ぎわで、ページをめくる音がした。


 ◇


 部室の扉は、内側から鍵がかからない。


「そこ、立っててくださいにゃん」


「なんで俺なんだ」


「ほかに、だれもいませんにゃん」


「……わかった」


 扉のむこうで、その人が言った。


 名前は、まだ聞いていない。


 聞かなくても、知っている気がする。


 衣装は、紙袋に入っていた。


 出して、広げて、ミミは固まった。


「……あの」


「なんだ」


「これ、なんですかにゃん」


「見えない」


「悪魔ですにゃん」


「悪魔」


「サキュバス、って書いてありますにゃん」


 紙袋のタグに、下手な字でそう書いてあった。


 黒。ひらひら。しっぽが、ついている。


 ミミには、もう、しっぽがある。


「……二本になりますにゃん」


「なんの話だ」


「なんでもないですにゃん!」


 スカートを広げてみる。


 短い。


 もういちど広げてみる。


 やっぱり、短い。


「あの」


「なんだ」


「これ、丈が、たりてないですにゃん」


「……そういう衣装なんだろう」


「たりてないですにゃん!」


 そのとき、廊下から足音がした。


 女子の声。二人ぶん。


「あれ、部室あいてる?」


 扉の取っ手が、動いた。


 ミミは、着替えの、いちばん途中だった。


「にゃっ」


「──入るな」


 扉の外で、声がした。


「え、なに、なんでいるの」


「見張りだ」


「見張り?」


「そういうことになっている」


「見張りって、なんの?」


「…………」


「ねえ、なんの見張り?」


「…………」


「……ふーん」


 足音が、遠ざかっていった。


 部室のなかで、ミミは、息を止めていた。


 心臓が、うるさい。


 しばらくして、扉のむこうから声がした。


「行った」


「……ありがとうございますにゃん」


「早くしろ」


「はいですにゃん」


 ◇


「できましたにゃん」


 扉が、開いた。


「…………」


「どうですかにゃん」


「…………」


「あの、なんか言ってほしいですにゃん」


「……前後が、逆だ」


「にゃーっ!?」


 着なおして、もういちど、扉が開いた。


 窓から、夕陽が入っていた。


 黒い靴。


 白い靴下。


 膝が、見えている。


 その上は、夕陽と影で、よく見えなかった。


 スカートの裾を、片手で押さえていた。


 押さえても、足りていなかった。


「…………」


 その人は、本を持ったまま、動かなかった。


 ページは、さっきから一枚もめくられていない。


「ご主人様」


「……その呼びかた、やめないか」


「やめられませんにゃん」


「なんでだ」


「なんでですかにゃん」


 ミミは、くるりと回ってみせた。


 スカートが、遅れて回った。


「にゃはは。悪魔ですにゃん。こわいですにゃん」


「……こわくはない」


「こわがってくださいにゃん」


「無理だ」


「なんでですかにゃん。ミミ、悪魔ですにゃん」


「悪魔は、そんなに尻尾を振らない」


「にゃっ」


 尻尾が、止まった。


 止めようとして、よけいに動いた。


 衣装の胸元に、飾りが縫いつけてあった。


 まるい、金色の飾り。まんなかに、細かい模様。


 ミミは、それを指でなぞった。


 ……見たことがある。


 どこかで。


 石の床に、描いてあった。


「灯れ、にゃん」


 言った瞬間だった。


 飾りが、ぼっ、と光った。


 部室じゅうの蛍光灯が、いっぺんに明るくなった。


 窓ガラスが、びりびり鳴った。


「──っ」


 その人が、ミミの前に立った。


 背中で、光をさえぎるように。


「消せ」


「消えろ、にゃん!」


 ぜんぶ、消えた。


 夕陽だけが、残った。


「…………」


「…………」


「……いま、なにをした」


「わかりませんにゃん」


「わからないのか」


「わかりません。でも」


 ミミは、自分の手のひらを見た。


「……前にも、やった気がします」


 その人は、なにも言わなかった。


 ただ、着ていたブレザーを脱いで、ミミの肩にかけた。


 顔が、近かった。


 髪に、息がかかるくらい。


 ……なにも、起きなかった。


 その人は、そのまま離れた。


「帰るぞ」


「はいですにゃん」


 ◇


 昇降口で、ミミは鞄から包みを出した。


「あの、これ」


「なんだ」


「おべんとうですにゃん」


「……昼は終わったぞ」


「食べてほしいんですにゃん」


「なんで俺に」


「……なんとなく、二人ぶん、作っちゃったんですにゃん」


「今朝、お前は転入生だっただろう」


「そうなんですにゃん」


 自分でも、おかしいと思っている。


 今朝、台所で、手が勝手に二人ぶん作っていた。


 ひとつは、玉子焼きを甘くして。


 もうひとつは、しょっぱくして。


 どうして、そうしたのか、わからない。


 その人は、包みを受けとった。


 開けて、しばらく見て、それから食べはじめた。


「……甘いな」


「にゃっ、そっちは、ミミのですにゃん!」


「もう食った」


「ぜんぶ食べてくださいにゃん!」


「食う」


「もうひとつも、ですにゃん!」


「なぜ二種類ある」


「……わかりません」


「お前、さっきからそればかりだな」


「……はい」


 その人は、二つとも、ぜんぶ食べた。


 玉子焼きの甘いほうを、最後に残していた。


 ミミの尻尾は、ずっと、ぱたぱた鳴っていた。


 下駄箱を開けた。


 封筒が、一通、入っていた。


 名前は、書いていない。


 開けると、なかは白紙だった。


 なにも、書いていない。


 でも。


 紙が、濡れていた。


 封筒を、裏返してみる。


 封筒のほうは、かわいていた。


 濡れているのは、なかの紙だけだった。


 窓の外は、ずっと晴れている。


 今日は、いちども、雨が降っていない。


 ミミは、封筒を、そっと鞄にしまった。


 ……雨の、匂いがした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 おべんとう、ぜんぶ食べてもらった … +40

 見張りをしてもらった ……………… +18

 ブレザーを、かけてもらった ……… +15

 「ご主人様」を、やめろと言われた … −20

 こわがって、もらえなかった ……… −12

 衣装、前後を逆に着た(自業自得)… −20


 本日の合計 ……………………… +21

 つうさん ……………………… 59 P

 ランク ……… ★★☆☆☆「たぶん好かれてますにゃん」


  ★がひとつ、増えましたにゃん!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの。


 ミミ、あの人の名前、まだ聞けてないですにゃん。


 聞かなくても、知ってる気がするから、こわいんですにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 まっくらですにゃん。


 まどの外に、星が、いっぱいですにゃん。


 ここ、おそらより、もっと上みたいですにゃん。


 ご主人様は、ねむってますにゃん。


 ……二百年、ねむってるって、書いてありますにゃん。


  第5話「今日のご報告ですにゃん」


 ミミ、ひとりで、起きてますにゃん。

──────────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。