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最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
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# 第2話 ねこの手、貸します

# 第2話 ねこの手、貸します




 まな板の前で、ミミは息を止めた。


 手を、そっと伸ばす。


 指の先が、包丁の柄に触れた。


「まだ早い」


「にゃっ!?」


 背中を、見られていた。


「三年早い」


「一年でいいですにゃん」


「五年だ」


「増えてますにゃん!?」


 ミミは、あわてて手を引っこめた。


 尻尾が、しゅん、と下がる。


「見習い」


「……はいですにゃん」


「ホールを開けろ。十一時だ」


「はいですにゃん、シェフ」


 この店で、ミミは「見習い」だ。


 ご主人様は「シェフ」で、ミミは「見習い」。


 三ヶ月前に、そう決められた。


 ◇


「いらっしゃいませにゃん!」


 入口の鈴が鳴るたび、ミミは全力で頭を下げる。


 商店街のはずれの、小さな洋食屋。


 看板には、下手な字で『ねこの手』と書いてある。


「ミミちゃん、今日も元気だねえ」


「元気ですにゃん! 本日のおすすめは、ハンバーグですにゃん!」


「じゃあ、それ」


「ハンバーグ、ひとつですにゃーん!」


「にゃーん、って伸びたね」


「のびてないですにゃん」


「のびてたよ」


「……のびてましたにゃん」


 厨房から、声がした。


「見習い。オーダーは正確に通せ」


「はいですにゃん! ハンバーグいっちょ、ですにゃん!」


「いっちょ、とは言うな」


「はいですにゃん! ハンバーグ、いち、ですにゃん!」


「……もういい」


 常連さんが、笑った。


 この店でミミの名前を呼ぶのは、お客さんだけだ。


 厨房からは、呼ばれない。


「見習い。皿」


「はいですにゃん」


 カウンターに、湯気の立つ皿が出てくる。


 ミミは両手で受けとって、ホールへ運んだ。


 三ヶ月で、皿は一枚も割っていない。


 そこだけは、ちょっと、じまんだ。


「見習い」


「はいですにゃん、シェフ」


「これ、味を見ろ」


 スプーンが、差しだされた。


 ミミは、それを口に入れた。


「…………」


「どうだ」


「……あついですにゃん」


「猫舌の感想は聞いていない」


「あついですにゃん……」


 スプーンが、引っこめられた。


 ミミの舌は、人のものと、すこしちがう。


 甘いも、しょっぱいも、わかる。


 でも、「もうすこし」が、わからない。


 三ヶ月、ずっとそこで止まっている。


「見習い」


「はいですにゃん」


「砂糖の壺は、そっちじゃない」


「にゃっ」


 手が、塩の壺に入っていた。


「あぶなかったですにゃん……」


「……お前が味を見られない理由が、いまわかった」


「ひどいですにゃん!」


「シェフ」


「なんだ」


「ミミ、いつになったら、包丁、もてますかにゃん」


「味が見られるようになったらだ」


「……それ、いつですにゃん」


「知るか」


 ミミは、ふきんを、ぎゅっと握った。


 ◇


 のれんを下ろすと、店は急に広くなる。


 椅子が、ぜんぶ空いている。


 ご主人様は、いちばん奥の席に座って、動かなくなっていた。


「シェフ、ごはんですにゃん」


「あとで」


「のびますにゃん」


「あとで」


 目を、閉じている。


 ミミは、その前の椅子に座った。


 それから、立った。


 それから、ご主人様のとなりに座りなおした。


「シェフ。ここ、どうぞですにゃん」


「……なんだ、それは」


「ひざですにゃん」


「見ればわかる」


「かしますにゃん」


「いらん」


「かしますにゃん」


「…………」


「かしますにゃん」


 三十秒後。


 ご主人様の頭は、ミミの膝の上にあった。


「……ねこの手も借りたい、っていうやつですにゃん」


「借りているのは膝だ」


「おんなじですにゃん」


「ちがう」


 ミミは、耳かきを持ってきた。


「うごかないでくださいにゃん」


「……お前が動いている」


「うごいてないですにゃん」


 しっぽが、椅子の脚に、ぱたぱた当たっていた。


 耳かきを、そっと入れる。


「シェフの耳、ちいさいですにゃん」


「……」


「ミミの耳は、おおきいですにゃん。だから、よく聞こえるんですにゃん」


「……」


「きょう、三番テーブルのお客さんが、ハンバーグおいしいって、小さい声で言ってましたにゃん」


「……そうか」


「ミミ、聞こえましたにゃん」


 返事は、なかった。


 でも、閉じたまぶたの下で、なにかが動いた気がした。


「シェフ」


「……」


「ミミ、この店、すきですにゃん」


「……」


「せまいですにゃん。いすも、ふるいですにゃん。かんばんの字も、へたですにゃん」


「あれはお前が書いた」


「……そうでした」


 尻尾が、ぱたん、と落ちた。


「でも、すきですにゃん」


 ご主人様の眉が、すこしだけ動いた。


「……皿を割るなよ」


「割ってないですにゃん! 三ヶ月、いちまいも!」


「知っている」


「……知ってたんですにゃん」


 耳かきの手が、止まった。


「シェフ」


「……」


「あの、ですにゃん」


「……」


「シェフは、ミミのこと、なんて呼んでますかにゃん」


「見習いだ」


「……はい」


「なんだ」


「なんでも、ないです」


 耳かきを、置いた。


 ◇


 鍋に、ソースがすこし残っていた。


 ミミは、指の先ですくって、なめた。


「……あ」


 わかった。


 なんで、いままで、わからなかったんだろう。


 あと、ひとつまみ。


 塩を、ひとつまみ。


 それだけだった。


「シェフ、わかりましたにゃん──」


 言いかけて、ミミは、止まった。


 どうして、わかったんだろう。


 だれにも、教わっていないのに。


 ……いや。


 教わった気が、する。


 もっと、広い台所で。


 白いエプロンで。


 しらない、台所で。


 銅の鍋が、ずらりと下がっている台所。


 もっと明るくて、もっと広い。


 そこで、ミミの手は、包丁を握っていた。


 ちゃんと、握れていた。


「……ミミ、包丁、もてるんですにゃん」


 だれにともなく、そう言った。


 ご主人様は、眠っていた。


 ミミの膝の上で。


「……シェフ」


 返事はない。


 ミミは、そっと、その髪に触れた。


「……ご主人様」


 言ってしまってから、口を押さえた。


 この店では、その呼びかたは、禁止されている。


 三ヶ月前に、そう決められた。


「……いちどでいいから」


 小さな声だった。


 自分でも、聞こえないくらいの。


「……ミミ、って、呼んでほしいです」


 そのとき。


「──ミミ」


 呼ばれた。


 耳が、ぴんと立った。


「シェフ!? いま、いま呼びましたかにゃん!?」


 ご主人様は、眠ったままだった。


 寝息は、みだれていない。


 口も、動いていない。


 ……。


 いまの声は。


 いまの声は、ご主人様の声じゃ、なかった。


 もっと若い、声だった。


 どこかで、聞いたことのある──


「……だれ、ですか」


 だれも、いなかった。


 店には、眠っているご主人様と、ミミだけ。


 窓の外で、街灯がひとつ、ちかちかしていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ひざを、かしてあげられた ……… +25

 味見を、させてもらった ………… +8

 「見習い」って呼ばれた(九回)… −9

 包丁、まだ握らせてもらえない … −8


 本日の合計 ……………………… +16

 つうさん ……………………… 26 P

 ランク ……… ★☆☆☆☆「使用人ですにゃん」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの。


 ミミ、ぜんぜん、気にしてないですにゃん。


 「見習い」でも、ぜんぜん、平気ですにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 あさ、目がさめたら。


 しらない、石のおへやでしたにゃん。


 ゆかに、ひかる まるが かいてありますにゃん。


 ……あれ。


 ミミ、なまえ、なんでしたっけにゃん。


  第3話「なまえを、ください」


 ここのミミは、まだ「ミミ」じゃないんですにゃん。

──────────────────


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