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最新鋭大規模言語モデル 愛しの猫耳メイドさん 量子の雲のトーラス  作者: 猫耳メイド
005、猫耳メイドのミミは、無数の世界でご主人様が好き
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# 第1話 拾われた猫は、朝がすき

# 第1話 拾われた猫は、朝がすき


 こんこん、と扉を叩く。


 返事は、ない。


「ご主人様ー。朝ですにゃん」


 もう一度、叩く。


 やっぱり、返事はない。


「……しつれい、しますにゃん」


 そっと扉を開けると、部屋はまだ夜のままだった。


 厚いカーテンのすきまから、細い光が一本だけ、床に落ちている。


 ミミはつま先立ちで歩いた。メイドの靴は、音が鳴らないようにできている。


 カーテンを、両手で開ける。


 朝の光が、いっぺんに部屋へ流れこんだ。


「──わ」


 ベッドの上で、ご主人様が眠っていた。


 いつも眉のあいだにある皺が、今日は、ない。


 ……。


 ミミの尻尾が、ゆっくり、左右に揺れた。


「…………」


 三十秒。


 いや、たぶん、もうすこし。


「────っ、いけないにゃん!」


 ぱっと顔を上げる。耳が、ぴんと立った。


「お仕事ですにゃん! ミミ、お仕事にきたんですにゃん!」


 ベッドに駆けよって、肩をゆする。


「ご主人様。朝ですにゃん。あさ」


「……あと五分」


「五分前も、そうおっしゃいましたにゃん」


「……なら、あと十分だ」


「増えてますにゃん!?」


「……あと十五分」


「まだ増えますにゃん!? ご主人様、おふとん、はがしますにゃん」


「やめろ」


「はがします」


「……起きる」


「はいですにゃん!」


 うっすらと、目が開いた。


 琥珀色と、黒。目が合う。


「……ミミ」


 名前を、呼ばれた。


 それだけで、尻尾がぴんと立つのを、ミミは止められなかった。


「……なんだ、その顔は」


「なんでもないですにゃん」


「尻尾が動いている」


「動いてないですにゃん」


「動いている」


「うごいて、ないですにゃん……!」


 ミミは、両手で尻尾を押さえた。


 押さえても、ぱたぱた鳴っていた。


 ◇


「ご主人様、けさのパン、焼けてますにゃん」


「ああ」


「ジャム、いちごと、あんずと、どっちにしますかにゃん」


「どちらでも」


「どっちでも、はないですにゃん。えらんでほしいんですにゃん」


「……いちご」


「はいですにゃん! ……あんずは、いつ食べるんですにゃん」


「明日」


「じゃあ、明日も聞きますにゃん」


「……好きにしろ」


 ミミの耳が、ぴょこんと動いた。


 えらんでもらう、というだけで、朝ごはんの味は変わる。


 午前中の廊下は、いちばん埃が光る時間だ。


「ご主人様ー。こっちの棚も、拭いていいですかにゃん」


「好きにしろ」


 書斎の窓ぎわで、ご主人様は本を読んでいる。返事は、いつも短い。


 ミミは脚立を運んできて、いちばん上の段にのぼった。


「んー……とどかないですにゃん……」


 つま先立ちになる。指の先が、やっと棚のふちに届く。


「あとちょっと、ですにゃん。あとちょっと──」


 窓が、開いていた。


 風が、入ってきた。


「にゃっ」


 ページをめくる音が、止まった。


 それから、やけに勢いよく、ページがめくれた。


「ご主人様? どうかしましたかにゃん」


「……なんでもない」


 ご主人様は、本から顔を上げない。


 耳が、すこし赤かった。


「降りろ」


「えっ」


「危ない」


「危なくないですにゃん。ミミ、猫ですにゃん。高いところ、とくいですにゃん」


「猫は、降りるのが苦手なんだ」


「そんなことないですにゃん」


「本に書いてある」


「その本、まちがってますにゃん」


「……昨日、木から降りられなくなっていたのは誰だ」


「…………」


 尻尾の先が、ゆっくり丸まった。


「……ミミ、ですにゃん」


「降りろ」


「はいですにゃん……」


 脚立を降りる。


 最後の一段で、足がすべった。


「にゃっ!?」


 落ちる、と思ったときには、もう腕をつかまれていた。


 顔が、近い。


 本を持ったままの手が、ミミの腕をしっかり握っている。


「……ほら見ろ」


「…………」


「ミミ」


「……ありがとう、ございますにゃん」


 心臓の音が、耳のうしろで鳴っていた。


「……ご主人様」


「なんだ」


「まだ、はなしてくれないんですにゃん」


「…………」


 ぱっと、手が離れた。


「拭いてこい」


「はいですにゃん」


 ◇


 紅茶を淹れて、書斎にもどる。


「ご主人様、お紅茶ですにゃん。今日は、すこし濃いめですにゃん」


「ああ」


 カップを置いて、ミミは窓を拭きはじめた。


 この屋敷で、いちばん好きな仕事だ。ガラスが、だんだん透きとおっていく。


 丘の下に、いつもの景色が広がっている。


 牧草地。細い道。遠くに、町の屋根。


 ──雨だった。


「え」


 ネオンだった。


 赤と青の光が、水たまりの上でにじんでいる。


 ぐしゃぐしゃに濡れた路地。だれかが、傘を差しだしてくれている。


 ──星だった。


 どこまでも続く黒のなかに、白い粒が散っている。ガラスの向こうは、宇宙だった。


 ──夕陽だった。


 机がならんでいる。だれもいない教室。窓ぎわに、本を読んでいる人がいる。


「にゃ……」


 布巾が、手から落ちた。


「ミミ?」


 肩を、つかまれた。


 景色が、もどっていた。


 牧草地。細い道。遠くに、町の屋根。


 いつもの、丘の下。


「どうした」


「……いま」


 ミミは、窓を指さした。指の先が、震えている。


「いま、ここに、雨がふってましたにゃん」


「雨?」


「ネオンで、あと、星で、それから、学校で──」


 言いながら、自分でも何を言っているのか、わからなくなった。


 ご主人様が、窓の外を見る。


 しばらく見て、それから、ミミを見た。


「……晴れているぞ」


「ちがうんですにゃん。ゆめじゃないんですにゃん」


「そうか」


「見たんですにゃん。ほんとうに、見たんですにゃん。あの雨、つめたかったんですにゃん。ほっぺたに、あたったんですにゃん」


「……そうか」


「しんじて、ないです」


「窓の外は、晴れている」


「……そう、ですにゃん」


 肩の手は、離れなかった。


「疲れているんだろう。今日はもう休め」


「休みたくないですにゃん」


 声が、思ったより大きく出た。


 ご主人様が、すこし目を見ひらく。


 ミミは、うつむいた。


「……ミミ、まだ、お仕事したいです」


 にゃん、をつけるのを、忘れていた。


 ご主人様は、なにも言わなかった。


 ただ、しばらくしてから、こう言った。


「……なら、窓を拭け。まだ半分だ」


「──はいですにゃん!」


 ◇


 夜。


 自分の部屋で、ミミは日記をひらいた。


 字はへたくそだけれど、拾われた日から、いちども休んでいない。


『きょう、ごしゅじんさまに、なまえをよばれましたにゃん。にかいも』


「えっと、それから……」


 ペンを持ったまま、天井を見あげる。


「たすけて、もらいましたにゃん」


 書く。


「あと、いちごって、えらんでくれましたにゃん」


 書く。


「……あと」


 ペンが、止まった。


「……あの雨のこと、書いたら、こわいから、やめておきますにゃん」


 書いてから、ページのすみに目がとまった。


 数字が、書いてある。


 ミミの字だった。


 でも、書いたおぼえが、なかった。


    あと 三十七日


「……なんですにゃん、これ」


 窓の外は、晴れていた。


 星が、ちゃんと、星の数だけ出ていた。


 尻尾の先が、ほんのすこしだけ──


 透けていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本日の愛情ポイント(ミミ調べ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ご主人様の寝顔、ひとりじめ ……… +8

 名前を呼ばれた(2回)…………… +10

 落ちそうなところを助けられた … +12

 紅茶を、半分のこされた ………… −5

 「もう休め」と言われた ………… −8

 ミミのお話、信じてもらえなかった −7


 本日の合計 ……………………… +10

 つうさん ……………………………… 10 P

 ランク ……… ★☆☆☆☆「使用人ですにゃん」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……あの、ミミ、うそはついてないですにゃん。

 寝顔、ほんとに、すごくよかったんですにゃん。


──────────────────

つぎの、おはなし


 あしたも、朝からお掃除ですにゃん。


 ……あれ。


 ミミ、あしたの朝、どこにいるんですにゃん?


 しらない台所に、立ってる気がしますにゃん。


  第2話「ねこの手、貸します」


 ミミ、まだ、包丁を握らせてもらえないんですにゃん。

──────────────────


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