第百十三話「なぜ強さが必要か」
「炉に確認したいことがあります」と蒼は地下に降りて言った。
「なんだ」
「対話は戦いではないのに、なぜ身体的な強さと《限界突破》の蓄積が必要なんですか。ヨルダさんは観測者で、戦士ではなかった。エムさんやアリエルさんの力は素養によるもので、強さとは別です。俺だけが、強くなることに意味があるのはなぜですか」
炉が少し間を置いた。「良い質問だ。答えよう」
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「封じられた存在と対話するとき、向こうの感情の波に飲み込まれる可能性があると、シルヴァンが言っていた。その波は、ただの感情ではない。世界を作った存在の感情だ。規模が人間とは全然違う」
「それに対処するために強さが必要だということですか」
「精神的な強さが必要だ。ただし精神的な強さは、身体的な限界を書き換えることと連動している。《限界突破》で身体の限界を繰り返し超えてきたお前は、精神の限界も同時に書き換えてきた。その蓄積が、感情の波に飲み込まれないための基盤になる」
「《両刃の閃覚》が出たのも、その蓄積の結果ですか」
「そうだ。複数の情報を同時に処理できるようになるということは、混沌の中でも冷静でいられるということでもある。対話の場で何が起きても、判断を失わない力だ」
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「もう一つ聞かせてください。対話の本番まで、あと何をすれば準備が整いますか」
「三つある」と炉は言った。「一つは、《両刃の閃覚》を安定して使えるようにすること。今は感情が揺れたときだけ発動する。常時発動できるようになれば、対話中も安定する」
「二つ目は」
「補助炉経由の接続の深度を、現在の三倍にすること。今の深度では、封じられた存在の言葉の全部は届かない」
「三つ目は」
「お前の言葉を、声に出して練習すること。頭の中にあるだけでは不十分だ。実際に声に出して伝えることで、接続が安定する」
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その日から、三つの課題に集中した。
《両刃の閃覚》の安定発動は、感情共鳴発動の練習を続けることで近づいていった。補助炉の接続深度は、毎日少しずつ上げていった。そして言葉の練習は、夜一人で声に出すことを習慣にした。
あなたが作ったこの世界は、続いています。
一人で部屋の中で言うと、少し恥ずかしかった。しかし繰り返すうちに、声に力が入るようになっていった。
ある夜、声に出しているとリーナが部屋を覗いた。「何をしていますか」
「言葉の練習です」
「聞いてもいいですか」
「どうぞ」
蒼は声に出した。全文を読んだ。
リーナが聞き終えて言った。「大丈夫です」
「大丈夫というのは」
「その言葉は、ちゃんと届くと思います」




