第百十話「最後のメッセージ」
ライゼルから「急いで来てほしい」という文書が届いたのは、訓練から帰った夜だった。
翌朝、研究室に行くと、殿下が興奮と疲労が混じった顔で待っていた。机の上に大量の写本が広げられていて、その中央に一枚の紙があった。
「復元が完成しました」とライゼルは言った。「断片を全部繋いで、封印された存在が残した最後のメッセージの全文が読めます」
蒼は紙を受け取った。古代語で書かれていて、《知識蓄積》が反応した。
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読み始めた。
長い文章だった。蒼が夢で聞いた言葉より、ずっと丁寧に書かれていた。存在が炉の下に入る前に、誰かに読んでもらうことを期待して残したものだとわかった。
内容を蒼が声に出して訳していくと、全員が静かに聞いた。
「私がここに入るのは、怒っているからではない。悲しいからでもない。世界が続いていくために、これが必要だと理解したから。ただ、一つだけ怖いことがある。続いている世界を、誰も見ていないかもしれないということ。見ていてくれる者がいれば、伝えてほしい。私が作った世界が続いているかどうかを。それだけを聞ければ、私は次に進める」
部屋が静かになった。
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「伝えてほしい」とライゼルが繰り返した。「それだけを聞けば次に進める、というのは」
「解放されることを望んでいる、ということだと思います」と蒼は言った。「ただし、力で解放されることではなく、誰かに伝えてもらうことで、自分から次に進みたいということ」
「だから対話が必要だったんですね」とエムが言った。「誰かが話しかけて、続いていることを伝えれば、その存在は自ら次に進む。炉の封印を解く必要はなくて、ただ伝えればいい」
「伝えれば、自然に解放される」と蒼は言った。「そういう仕組みだったんですね、最初から」
二年後、いや早ければもっと前かもしれない対話の意味が、ここで完全に理解できた。力で何かをするのではなく、ただ話しかけに行く。世界は続いているよ、と伝えに行く。
「俺の言葉は、間違っていなかったですね」と蒼は言った。




