第百九話「感情と限界突破」
接続中に感情が揺れて、そこから《限界突破》が発動した、という経験をした翌日、蒼はエムにその話をした。
「面白い発見です」
「意図的に再現できれば、炉の対話中に意識が飲み込まれそうになったとき、感情を逆手に取って《限界突破》を発動させられる可能性があります」
「理論上はそうなります。ただし、感情が強すぎると接続が切れる。感情の強さと《限界突破》の発動タイミングの調整が難しい」
「練習あるのみですね」
「そうです。ただし」とエムが少し間を置いた。「一人では練習が難しい。感情の波を作るためには、強い感情を引き出せる人間が必要です」
「リーナさんに引き続き頼むしかないですね」
「それ以外にもあります」とエムが蒼を見た。「蒼さん自身が大切に思っているものへの感情が、一番強い波を作ります。それを接続中に感じ続けながら、《限界突破》を発動させる練習が、本番に近い状況になります」
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その夜の訓練で、蒼は補助炉に接続しながら、今まで出会ってきた人たちのことを順番に思い浮かべた。
ゴードに助けられた夜。リーナが魔物を斬り伏せた瞬間。炉の地下でエムとアリエルが光を放ちながら炉に触れていた場面。ヴァーン老人が最後に笑った顔。ヨルダの目が静かだった病床。ガロウが「一人ではなくなった」と言ったとき。
接続が揺れた。揺れながらも、切れなかった。
そこで《限界突破》が発動した。
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《限界突破》 感情共鳴発動
精神限界 深度突破
炉との接続安定化
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今までとは違う発動だった。揺れながら、同時に深くなる。矛盾しているようで、感覚としては理解できた。揺れることを受け入れながら、その揺れを力に変えた。
「見ていましたか」と蒼は補助炉から離れながら言った。
「見ていました」とエムが答えた。「接続が揺れながら深くなった。珍しい現象です」
「使えますか」
「本番で使える可能性が、かなり高くなりました」とエムが少し表情を動かした。彼女が感情を見せる場面は少ないので、蒼にはそれが大きな評価に見えた。
「まだ時間があります。もっと洗練させます」




