第百八話「感情の波を読む」
シルヴァンの観測記録は、ガロウのものとは切り口が違った。
ガロウは炉の魔力の流れを数値で記録していた。シルヴァンは同じデータを持ちながら、それを感情の変動として解釈していた。魔力の波と封じられた存在の状態の相関を、百年かけて積み上げていた。
二つの記録を合わせると、封じられた存在の感情の波に周期性があることが見えてきた。
約三十年に一度、大きな波が来ている。そしてその波が来たとき、直後に何らかの異常現象が王国内で起きているという記録が残っていた。
「この波が来ていたとき、炉の状態はどうでしたか」と蒼は炉に確認した。
「封印に負荷がかかっています。ただし封印が破れたことは過去になかった。波が来るたびに、私が安定させてきた」
「今後も波は来ますか」
「来ます。次の大きな波は、二年後の対話の前後になる可能性があります」
────────────────────────
エムとシルヴァンのデータを分析した結果を照合した。
「感情の波が来たとき、接続が乱れる可能性があります」とエムは言った。「それに対処するには、波のタイミングを事前に把握して、そのときの接続の深度を調整する必要があります」
「調整できますか」
「補助炉経由の接続なら、深度のコントロールがしやすい。そこが主炉直接接続より有利な点です」
蒼は頭の中で計画を更新した。補助炉で練習を続けながら、感情の波のパターンを理解して、本番の接続深度を適切にコントロールする。そのための準備が、あと二年弱ある。
「やれます」と蒼は言った。
────────────────────────
その頃から、訓練の中に新しい要素が加わった。
接続しながら、意図的に感情の強い状況を作り出すことだった。補助炉と繋がった状態で、強い感情を感じる場面を経験する。それを繰り返すことで、感情の波に飲み込まれない体制を作る。
最初の試みはリーナが協力してくれた。接続状態の蒼に、普段言わないようなことを言う、という方法だった。
「何を言えばいいんですか」
「俺が動揺するようなことなら何でも」
「難しいことを頼みますね」とリーナが少し困った顔をした。それから少し考えて言った。「蒼さんが死んだら、私は困ります」
接続が揺れた。
「接続が乱れました」と蒼は言った。
「そうですか」とリーナが言った。表情が変わらなかった。




