第百七話「老研究員の来訪」
管理局の正門を出た朝、老人は門の前に立っていた。
白いローブを着ていたが、よく見るとそれはローブではなく、長い白い外套だった。百歳を超えているはずだが、見た目は七十代程度に見えた。ガロウより体の動きがしっかりしていた。目が穏やかで、敵意はなかった。
「天宮蒼さんですか」と老人は言った。
「そうです」
「シルヴァン・カードといいます。話がしたいと思って来ました」
────────────────────────
管理局の面会室に通した。リーナとクルトが同席した。
シルヴァンは座ると、すぐに話し始めた。回りくどさがなかった。
「ガロウとは百年以上前に別れましたが、彼が炉の解放を試みていることはずっと把握していました。止める力はなかったので、結果を見るしかなかった。ただし封印が維持されたと聞いて、会いに来ました」
「なぜですか」
「七年後の調整について、俺が知っていることを伝えたかったからです」
「七年後の件はどこから」
「炉の研究を続けてきたからです。場所はここではなかったですが、炉の状態を独自に観測する方法を持っていました。ラーデンの観測とは別に、です」
────────────────────────
シルヴァンが語った内容は、蒼が把握していたものと一部重なり、一部は新しかった。
特に重要だったのは、封じられた存在の性質についてだった。
「その存在は、対話を望んでいます。しかし対話が始まったとき、感情の強さによっては接続が不安定になる可能性があります」
「感情の強さ、ですか」
「その存在は長い間孤独でした。二年以上、誰とも話せなかった。初めて対話する相手が来たとき、感情が溢れる可能性がある。その感情の波に飲み込まれると、接続を維持するのが難しくなります」
「どうすれば対処できますか」
「感情を否定せず、ただ受け止めること。波に逆らうと飲み込まれる。波と同じ方向に動けば、乗り越えられる」
────────────────────────
話し合いが終わって、シルヴァンが立ち上がった。
「協力してもらえますか」と蒼は聞いた。
「できることはします。ただ私は動けない」と老人が笑った。「百年分の老いが、今になって一気に来ています。あと一年あるかどうかわからない」
「それでも来てくれた」
「来たかったので来ました。ガロウが最後に誰かに話していたと聞きました。俺も同じことをしたかった」
「百年分の観測記録はありますか」
「あります。どこに送ればいいですか」
「ロスタン師のところに送ってください」
シルヴァンが頷いて、帰っていった。
リーナが言った。「また一人、来ましたね」
「来てくれました」




