表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/93

第91話

「まず、僕たちの間で認識の齟齬がない様にすり合わせをしておきたい」


「と言いますと?」


 三橋の言葉に僕は続ける。


「投票された用紙に多くの白票がまぎれていた。この事実が発覚したのは今日の正午、つまり文化祭2日目最初の回収業務の後ってことで間違いないよな?」


 始めのステップとして、時系列に沿って事件の流れを確認することが必要だ。僕の中で一本筋の通った結論が出ているとはいえ、大きな見落としがあってはそれが覆りかねない。ここにいる全員の頭の中を今一度整理するという点でも無駄にはならない工程である。


「うん。その時私はこの部屋にいたし、間違いないよ」


 相生からの確認も取れたことで、僕はそこを深堀する。


「それ、最初はどんな反応だったんだ?僕は最後の方に来たから、委員のみんなの第一印象を知らないんだ」


 記憶が正しければ、僕は招集がかかって視聴覚室に到着した最後の人間だったはず。そのため、それ以前に何があったのかというのは把握していない。思えば僕は第一発見者が誰かすら知らないのだ。ミステリ物では第一発見者が犯人というのは使い古された王道パターンですらあるというのに。ま、今時そんなありきたりなプロットを使おうものなら読者、視聴者から落胆の声が寄せられること間違いなしだと思うが。


 相生が「うーん」と顎に指を当て回想すること数秒、「確か……」とゆっくり話始めた。


「最初の子はファイルに票を入れて持ってきて、それをここで机の上に広げたんだっけ。で、やたら白が目立つもんだから、『あれ?』って感じだった。状況が良く分かってないというか。実際、私も同じ反応だったし」


「その時はたいして気に留めてなかったと」


「まあ、悪質な悪戯だなってくらい。でも、その次に持ってきた班も白票ばっかりだったから、これは流石におかしいと思ったんだよ」


「校内放送で招集をかけたのもそのタイミングか?」


 そう尋ねると、相生は首を横に振る。


「全回収班の半分が持ってきてくれたあたりかな。今にして思えば、もっと早めに声をかけた方が良かったと思ってるけど」


 相生は自嘲気味に笑う。今回の事件、2日目の総括リーダー的ポジションにいた自分にも責任の一端があると思っているのだろう。だが、もし万が一勘違いで「人を集めたは良いが何もなかった」というのを避けたくなる気持ちも十分に理解できる。


「どうせ全部の箱で同じだったんだから一緒だ。そう自分を責めるな」


 僕の言葉に、相生は目を丸くした。


「意外だね。世良町君を疑ってるのに、慰めてくれるなんて」


「この状況、相生の仕事は疑うことみたいなもんだし。疑われてない実行委員のが少ないだろ。むしろ警戒しすぎて疲れてるんじゃないか?回収業務にあたってる実行委員とか」


「まあ、余計な心労なのは否定しないよ」


 相生は苦笑いを浮かべる。白票の件、相生もすり替えの線を疑ったはずだ。そして、中身をすり替えるという手が使われていた場合、それが可能なのは鍵を持っている回収業務担当の実行委員のみ。必然的に組織内の人間を疑わなければならず、精神疲労が蓄積するのも無理ないことだ。


「世良町君。犯人はその回収業務担当の方なのですか?」


「いや。回収班は自分たちの仕事をきっちりしっかりこなしてると思うぞ」


「では、こちらのビニール袋の投票用紙は一体どのタイミングですり替えられたのですか?」


 三橋の疑問は最も。ビニール袋の中にある投票用紙たちは本来はこの中には入っていたもの。その用紙たちがこうして僕のロッカー、すなわち箱の外から見つかったのならば、当然どこかですり替えられたはずであり、それが可能なのは箱の鍵を持った実行委員以外に考えられない。


 だがそれは、このビニール袋に入った投票用紙が()()であった場合の話だ。


「結論から言おう。そこのビニール袋に入ってる投票用紙は全部偽物だ」


「偽物?では、本物はどこに?」


「あるだろ、部屋の奥に山ほど」


 僕はそう言って視聴覚室の奥を指さす。そこには、回収されてろくに集計もされないまま山積みになった白票たちの姿。


「何?つまり犯人なんて最初からいなくて、本当に生徒が白票を入れたって言いたいの?世良町君」


 不満げな声で相生が言う。ここまで必死に準備してきて、警戒のアンテナを張って疲弊し、僕の話を聞いた挙句、「生徒の不満」で白票を投じられたのが結論。そんなの当然面白くなく、納得いくはずもない。


 無論、僕の用意した答えはそれとは違うものだ。


「白票が入れられたんじゃない。白票に変化させられたんだ」


「……は?」 


 何を言ってるんだこいつ、という目で「バカにしてんのか」とも取れる様な声を漏らす相生。


「えっと、ごめん。私、ついていけてないんだけど」


「私もです、日暮さん」


 椛と相生も首を傾げている。確かに、現状「頭おかしいのか」と思われる要素しかない。箱は施錠され、一度入れられた用紙には基本的に触れることすらできない。唯一、回収業務にあたる実行委員は触れる機会があるが、彼らも犯人ではない。僕はそう言っているのだから。


「ここで納得のいく説明をするためにも、僕はさっき、すり合わせをしたいって言ったんだ。相生、回収用紙がこの部屋に集まった時に関して、僕に言い忘れてることがないか?」


「言い忘れてること?」


「ああ。それがこの事件解決の鍵だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ