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第89話

「おっ日暮さんやん」


「お疲れ様!回収作業?」


 その後も調査を続けるが大きな進展は得られず、僕の推理を裏付ける情報も得られないまま。椛と色々議論をしながら、どうしたものかと歩いていると、他の実行委員の投票用紙回収業務を目撃することになった。つまり、時刻はもう15時になってしまったということ。残り時間は刻一刻となくなっていく。


「せや。今回は変なことなってないと良いけどなあ」


 生徒は投票箱の鍵を開けて、中の投票用紙をドサッと取り出す。表裏が混合されているが……


「多いね」


 椛の呟きに回収作業中の委員も首肯する。やはり白紙の割合は多いみたいだ。しかもそれだけではない様子。


「ええ気分はせえへんな。うわ、またゴミ入れられとるやないか」


 学祭の途中で拾ったのか、箱の内部には投票用紙だけでなく紙吹雪やらティッシュやらが入れられている。箱の投票口は長方形、紙を数枚重ねて入れられるだろうかという大きさなので、紙コップだとか大きいものはない。とはいえ、大きさなんぞ二の次であり、そもそもゴミが入っていること自体、気分がいいものではない。……ん?ちょっと待て。


「今、またって言ったか」


「言ったで」


 僕の質問に呆れ交じりのため息とともに答える委員。「また」ということは投票箱の中にゴミが入れられていたのはこれが初めてではないということ。そんな話、聞いてないんだが。


「椛、ゴミの件初耳なんだが」


「え?ごめん!てっきり聞いてるものだと」


 椛曰く、前回の回収業務の時からごみの騒ぎはあったらしい。だが投票箱に、例えば飴の包み紙や、紙吹雪などが入れられること自体は過去の文化祭をみても珍しい事でもないそうだ。学祭には小学生、あるいはそれよりも小さな子どもも来るし、多少は仕方がないというスタンスだという。


 本来であれば、その話をもう少し掘り下げても良いところなのだろうが、今回はそれに加えて「白票」の件があった。インパクトがそっちに吸われてしまい、ごみの件は各自回収した用紙を持ち寄った際の情報共有に留められてしまったということなんだろう。実際、文化祭の成功という観点で言えばごみの件よりも白票の方を重点的に調査するべきだ。だが、このごみの件が白票事件と無関係とは思えない。


「ちょっと見せてくれ」


 分別されたごみの方を改めて確認する。机の上に広げられている物は紙吹雪、ティッシュ、薄いカイロ、テープの切れ端、飴やガムの包み紙、折り紙、段ボールの端っこなどなど……


「なあ、このゴミって他の投票箱でも似たような感じか?」


「ん?どないやろ、詳しいことは分からへんな」


 ……これは多分、確認する必要がある。


「椛、視聴覚室に戻ってもいいか」


「え?うん、いいけど」


 僕は回収作業を続ける委員に軽く頭を下げて、すぐさま視聴覚室へと向かった。







 視聴覚室の扉を開けようと指を取っ手にかけた瞬間、ガラッとひとりでに戸が開く。僕は反射的に手を引っ込めた。


「うわっ!びっくりした」


「こっちのセリフだ相生、指挟むかと思ったぞ。急ぎか?」


 ちょうど外と内で扉を開けるタイミングが一緒になってしまったようで、今まさに部屋から出てこようとしていた相生が大きなリアクションをする。驚いたのはむしろ僕の方なのだが。勢いよく扉を開けすぎだろう。京都の観光バスか?あのバス、停車する前に扉開くし、扉閉めるより早く発進するからな。


「急ぎだったんだけど……今その必要がなくなったというか」


 相生は何やら煮え切らないようなことを言うと、とりあえず僕と椛に入室を促す。それに従って足を踏み入れると、なぜか相生も部屋の中に留まっていた。外に用があったんじゃないのか?


 どうも引っかかる横の相生の動きに内心疑問符を浮かべながらも、僕は目的の人物に声をかけようと意識を室内へ向ける。その時、部屋中央の卓上にある、一枚のビニール袋に視線が引っ張られた。


「ん?なんだそれ」


 何か感じるところがあったのか、本来切り出そうと思っていたこととは裏腹に袋に対しての疑問を口にする。その声を合図にしたかのように僕の目的の人物、三橋が口を開いた。


「見れば分かりますよ」


 神妙な面持ちでそう告げられる。その物言いが気になったのは椛も同じだったようで、先に袋へと駆け寄って中を覗き込んだ。


「え!?」


「なんなんだ、さっきから」


 驚きの声を上げる椛に続いて、僕も袋の中身を確認する。そこに入っていたのは……


「行方不明と言われていた投票用紙です」


 僕や椛、他の実行委員が散々探し回っていた投票用紙たちだった。


「なんだ見つかったのか。どこにあったんだ?」


 とりあえずは安堵、でいいのだろう。僕は思ったことをそのまま何気なく口にする。しかし僕のその質問に、ぴりっと空気が張り詰めた。怒らせてはいけない相手に喧嘩を売ってしまったような。絶対タブーな領域に足を踏み込んでしまったような。


 その答えは背後から。明るい口調で、しかし淡々と告げられた。


「君の教室のロッカーだよ」


「……は?」

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