表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/93

第88話

 由愛と別れた後、僕と椛は引き続き複数個所で聞き込みや投票箱の調査を行ったが、目立った収穫はなかった。だが、僕にはずっと引っかかっていることがある。


「考え事?」


 僕の顔を覗き込むようにして尋ねてくる椛に、歩みを止める。


「分かるのか?」


「意外と分かりやすいよ、匠君」


 そんなことないと思うんだが、実際当てられているから何も言えない。表情豊かというのは人に好かれる要因であるが、人付き合いで損する面も当然ある。生憎と僕はプラスの方向で活かせる自信がないので、今後はもっと気を付けることにしよう。


 僕はこほん、とわざとらしく咳払いをしてから口を開いた。


「少し思うところがあってな」


「それって、白票事件のこと?」


「ああ」


「聞いてもいい?」


 僕はその問いに自分でも思考を整理しつつ、少し椛に身を寄せて話し始めた。この喧騒の中、少々の声は聞こうとしない限りかき消されてしまうだろうが、声量を抑えるに越したことはない。他人にはあまり聞かれたくないし。


「どうした?」


「う、ううん。何でもないよ」


 落ち着かない様子の椛に違和感を覚えるも、その言葉を信じて話を続ける。


「まず、状況を整理したい。目下最大の問題は、集計した用紙の大半が白紙だったことだ」


「……原因として考えられるのは、主に2つだね。まず、誰かが白紙を大量に入れたっていう悪戯のパターン。そして、実際に生徒間で白紙投票が行われたパターン」


「ああ。だが、後者に関しては聞き込みなどから考えるに可能性は低そう。ここまで同じ考えか?」


「うん」


 椛と認識をすり合わせながら考えをまとめていく。


「となると、誰かが白紙を大量に入れたんじゃないかってなるが……そこがおかしい」


「おかしい?」


「ああ。白票が大量に入れられたところで、記入票が減るわけじゃない。だが視聴覚室で見た回収用紙、そもそも記入された物が少なすぎとは思わなかったか?割合じゃなくて数が、だ」


「言われてみれば、そうかも」


 白票の多さに印象が引っ張られたが、数が多いと予想されていた2日目の昼回収にしては、そもそもの有効票が少ない。仮にあの場で白票を全て廃棄した場合、残る有効票が微小すぎるのだ。「誰かが白票を大量に入れた」だけではあの光景の説明がつかない。


「待って、ということは有効票がなくなったってこと?」


「あくまで僕の考え、だけど」


 ただ単に白票が入れられたというわけではなく有効票がなくなった、或いは、すり替えられたと考えるほうが適切ではないだろうか。


 仮に本来の投票数が100だったとしよう。


パターンA(ただ単に白票が追加された場合):白票200、有効票100

パターンB(有効票の半数が消された、すり替えられた場合):白票100、有効票50(100-50)


 どちらの場合も白票の割合は2/3、約66パーセント。どちらのパターンにせよ、目にする白票の割合としてのインパクトは変わらない。加えて、母数が増えるごとに両パターンの視覚的な差は感じにくくなるし、実際に僕たちが視聴覚室で見た票数はもっと多かった。


 僕達が見たのはパターンAではなく、パターンBだったのではないだろうか。


「でも、どうやって?」


「そう、問題はそこなんだ。投票箱はすべて施錠されていて、鍵を持つのは実行委員のみ。加えて、今いくつか見て回ったところ破壊された鍵や不良品はなかった」


「……」


 となると、考えられる可能性は1つ。


「匠君、実行委員の誰かがこの事態を引き起こしたって思ってるの?」


 少し震える様な声で椛が言う。ここまで一生懸命に準備に取り組んできた仲間たち。その中に白票事件の犯人がいるのではないか、そんな僕の考えに優しい椛はひどく動揺している様だった。


「なんでそんなこと……」


「それもまた問題だな。仮に実行委員の誰かだとしても動機が分からない。ただの愉快犯と言われた方が納得いく」


 2学期に入ってから今日まで、ほぼ毎日のように実行委員の仕事をしていた。よほどの捻くれ者でない限り、多少なりともこの文化祭へ思い入れがあるはず。それを壊すような真似をする理由に皆目見当もつかない。


「だけど、ある程度絞ることはできる。人をな」


「……2日目の当番の人ってこと?」


「白票事件は今日起こってるからな。今日の回収当番がすり替えたと考えるのが自然だ」


 通常通りに箱を開錠し、票を回収。視聴覚室に運搬するまでに白票にすり替える。無理なく実行できるだろう。


「まって、匠君。それだとおかしいよ」


 椛は少し考えた後、そう切り出した。


「回収業務は2人1組。流石にどっちかがすり替えてたらもう一人が気付くよ。それに、回収された用紙の一部じゃなくて大半が白だったんだから、すり替えは少なくとも投票箱の半数以上で行われてないと数が合わない」


 その指摘に僕は数秒思案してから口を開いた。


「これが事実だったとすると、到底単独犯とは思えない、か」


 確かにそうだ。視聴覚室で見たように回収された全投票用紙の8割近い数をすり替えるのは単独では不可能と言って良い。そもそも投票箱の鍵だって、箱ごとに違うのだ。投票箱Aは鍵Aでしか開けないし、Bの箱もBの鍵しか対応していない。椛の言う様に、僕の推理に沿うならば犯人は複数いることになるだろう。


 その場合、動機の方がますます分からなくなる。単独犯ならば何か些細な出来事……例えば仕事量の多さに嫌気が差した逆恨みとかで無理やり考えられなくもないが、複数犯となるとそうとも行かないからだ。


「もう少し、考える必要があるな」


 時間はないというのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ