表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
86/93

第86話

『今日非番の方には、この事態の調査をお願いします。具体的には生徒への聞き込みなどです。投票関係で不審な動きをしていた人がいないかというのもそうですが、実際に生徒間で『白票を入れる』と考えた方が多かったかなどを調べてください』


 視聴覚室で三橋はそう言っていた。


 今回の白票事件の原因、その1つとして考えられる事象。実行委員への抗議など、何かしらの理由で白紙投票が生徒の間で行われているのではないかというものだ。あまり認めたくはないが、僕たち実行委員が企画した文化祭にはクレームの入れどころが盛りだくさんであり、不満が広がった生徒間、客層から無記名投票されるに至った……可能性がゼロとは言えないが、どうもしっくりこない。


 僕は文化祭実行委員に配属されたことに乗り気だったわけではない。実際、本番を迎えるまでに何度も面倒くさいと思ったし、渋々、嫌々作業にあたることもあった。だが、少なくともそれを実行委員以外の一般生徒の前で露骨に見せたことはないし、適当に仕事をしたことはなかったと誓える。もちろん、真摯に仕事に取り組んでもミスをゼロでというのは難しい。実際、例の科学部と吹奏楽部のダブルブッキングをはじめとし、トラブルもちらほらあった。しかし実行委員全体で真摯に事後対処に取り組んだし、それでここまでやられるほどの恨みを買ったとは考えにくい。


 というか、仮にこのボイコット?と言って良いのか分からないが、不満を示す一環として投票制度を用いるなら「投票しない」でいいではないか。なんでわざわざ白票を入れる必要がある?手間だろ。集計するときに白票が大量にあるのと投票用紙が全くないこと、「期待されていない」という観点で、どちらも実行委員に与える精神的ダメージは変わらないと思うが。


 そもそもだ。仮に「白票を投じよう」という運動が行われていたとして、昨日と今日、あちこちで見える笑顔や聞こえる笑い声はどうやって説明する?あれらが全部造られたものだと?文化祭前日、園児のように絵の具でシャツや顔を汚して必死に準備に取り組んでいた彼らの姿が嘘偽りだと?


 ハッ、まだ「校区から石油が出た」って話の方が信じられるね。……いや、それは流石にか。


 ともかく、僕は今回の一件。悪意ある第三者の仕業だと睨んでいる。今からするのはその調査だ。


 腕章をつけている僕は、箱にべたべた触ろうとも変な目で見られ……はするかもしれないが、文句は言われない。昨日の回収の時のように手際良くではなく、じっくりと感触を確かめるように箱を調査してみる。


 目の前にある箱はいたって普通。教室で生徒が使う何の変哲もない勉強机の上に、これまた何の変哲もない金属製の直方体。開閉扉は後方に1つのみで、それも施錠されている。そして、それ開けることができるのは実行委員の持つ鍵だけ。


「だけど、鍵が破壊されている形跡はなし」


 鍵が掛けられているとはいえ、そんな頑丈なものではない。やろうと思えばペンチとか、あるいはハサミとかで無理やり開けること自体は可能である。だが、少なくとも僕の見ている箱の鍵には不自然なところがなく、破壊を試みたような傷などもない。これで僕が真っ先に思い浮かべた「施錠を破壊して投票を操作した」という線はなくなったわけである。


 一応、類似の手口としてゲームや映画のように針金等を用いたピッキングが考えられなくもないが、大衆の面前でそれをやるにはリスクがあまりに高い。そんな手段に踏み切れる奴がいるとすれば、日ごろから数多のロックを開錠し慣れてる空き巣のプロか、TRPGの鍵開け技能でクリティカルを出した経験が忘れられないギャンブラーのどっちかだ。どちらも現実的とは思えないが、仮にどっちか、あるいは類似条件の人物による犯行だった場合は、もう手の施しようがない。いつか犯人が派手なやらかしで道を踏み外しお縄になることを祈ろう、心から。


 そんなわけで、鍵そのものに異変ナシと判断した僕は箱そのものに注意を移す。ひょいと持ち上げて数度振って見ればカサカサと内部から紙の音が微かに響き、回収後にまた投票されていることが伺えた。手にした直方体をそのまま様々な角度から眺めてみるも、どこかに穴が開いているとか、破損しているといった様子はない。当然ながら、からくり箱のように、どこかスライドしたら鍵なしで開くなどというギミックもない。箱そのものに入れられた用紙に関しては不正のしようがないと考えるのが自然だろうか。


 とすれば、不正を行うならば用紙を箱の中に投じる前か、あるいは……


「匠君!」


 箱に向き合って色々思考を巡らせていると、背後から椛の声がした。


「もう終わった、の、か?」


 僕の言葉はだんだんと尻すぼみになった。なんだろう、この既視感。夏にもこんな景色を見た記憶がある。振り向きざまに、良く見知った顔がニコニコと微笑みながら立っているこの光景を。


 椛の隣にいるこの少女のことを、僕はよく知っている。本当によーく。


「こんにちは、兄さん」


 由愛が来るってこと、すっかり忘れてたぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ