運命
首都圏に近づくにつれ、俺たちは新たな勢力の存在を知った。日本志士連合と言う組織で、福原の部隊が持つ兵器を少量だが保有していて、その背後に軍の影を福原は感じ取っていた。この組織は俺たちにも好意的であり、色々な事を教えくれた。
彼らのリーダーは、杉本と言うらしかった。ゆきと言う少女が口にした名前と同じだが、鋼鬼退治に関連している事から、同一人物ではないかと俺は思っている。
福原の話でも、杉本中将と言う軍人がいるとの事で、福原自身もこの人物が関与していると思っているらしかった。
この勢力が目指しているのは、新しい日本の建国らしく、鋼鬼を駆逐した後、彼らが理想とする国家の樹立らしい。
そして、福原たちが目指していた研究所は、彼らの支配域にあるとの事で、彼らはあっさりと、俺たちをそこに案内してくれた。
そこは広めの敷地にゆったりとした配置で、低層の建物が並ぶ場所だった。建物が配置されていな場所には芝生や植栽が植えられ、利益目的の施設ではなさげで、その中に建つ福原が目指していた研究所に案内されたのは、福原と沢井と俺の三人だった。この敷地もそうだが、その建物の中は、元の世界と変わりなく、平穏と繁栄を思い出させるほどで、造りや設備はもちろん、行きかう人たちも以前の世界と何ら変わりない感じだった。
「はじめまして。
私が桐谷です」
俺たちが案内された部屋にいた中年の女性は、そう名乗った。
部屋の奥の窓際に置かれた立派な机と大きな革張りの椅子の主が、この女性らしいところから言って、ここのそれなりの地位らしい。そして、部屋の壁に設けられた本棚に並べられた難しそうな本からは、この女性が知識人の一人らしい事がうかがい知れる。
「どうぞ、そちらに」
そう言って、桐谷は部屋の中ほどにあるソファを手で指し示した。
テーブルを挟んで配置されたソファ。一般的な応接セットだが、テーブルの上には見慣れぬ物が置かれていた。電話のようなダイヤルが装備され、スピーカー用の穴らしきものもあり、ケーブルが延びたそれはLEDが付いていて、電源が入っているっぽかった。
ソファのところで立ったままの俺たちの所に、桐谷がやって来ると、まずは福原が名乗った。
「私は第43普通科連隊の福原です。
横が沢井瑠璃で、桐谷さんもよくご存じの超人です」
「超人がまだいたのですか?」
「超人?」
福原の言葉に、桐谷が驚きの声を上げた。そして、テーブルの上の装置からも、驚いたような人の声がしたので、その事に驚いた俺がその装置に視線をロックオンさせた。
「あ。失礼。
それは電話会議システムです。
一人は大統領官邸の高山さんと言う方につながっています。
彼は政府側の立場ではありますが、杉本さんとつながっています。
そして、もう一人はその杉本中将です」
「なるほど。
で、私どもの紹介に戻りますが、もう一人いるのが荒木 修くん。民間人ですが、鋼鬼をレーザー状のソードで駆逐して来ています」
「で、鋼鬼を駆逐するための策に関してのお話とは?」
「今、杉本中将の兵たちも、鋼鬼を抹殺する兵器を装備しているようですが、鋼鬼の数に比べたら、決定的な兵器とは言えません」
その事に桐谷も同意らしく、静かに頷いてみせた。
「沢井は唯一の超人です。
彼女の遺伝子を基に、もう一度超人を復活させれば、鋼鬼を駆逐する期間を短縮できるのではないでしょうか?」
桐谷は今度は同意できないらしく、首を横に振ってから、その事を語り始めた。
「残念ですが、彼女の遺伝子情報だけで超人を復活させる事はできないのです。
遺伝子書き換えに使用するウイルスの遺伝子情報が必要なのです」
「それは、無いのですか?」
「超人の技術を破棄する際に、政府側、テロリスト側の情報は全て破棄しました」
「高山ですが、それって、政府側、テロリスト側以外にもあると言う事ですか?」
桐谷の言葉に、突っ込みを入れて来たのは電話会議でつながっている高山だった。問われたはずの桐谷は、腕組をして静かに目を閉じた。それは言うべきか、言わざるべきかを迷っているようだった。
「つまり、今の話から行くと、超人の技術の情報はどこかにはある! と言う事ですね」
桐谷の状況が見えない高山に代わり、福原が話を継いだ。
「あるにはありますが、それがどこにあるのかは分かりません」
「でも、この状況を打破できるのなら、その場所を探す努力も必要では?」
再びの高山の言葉に、桐谷はまた目を閉じて、思案気な態度をとった。
「この状態は早急に打開しなければ、国が乗っ取られてしまう。
あの時とは状況が異なり、今は超人は必要だ」
さっきの高山とは違う、杉本と思われる男の声が電話会議システムからした。
「私もそう思います。
鋼鬼を倒す兵器があるにはあるが、鋼鬼の絶対数が多すぎる。
ここは我々普通の人間の動きとは、格段に速度の違う超人たちの活躍に期待したい」
「その超人の技術の情報はどこにあるのですか?」
福原が言葉を追えると、再び高山が言った。
「高山さん。
あの子の指の中に」
桐谷の言葉から言って、誰かの指の中にそれはあると言う事らしく、高山自身はそれが誰の事なのか分かるらしかったが、分からない俺たちの中の福原がそれをたずねた。
「すみません。
あの子とは?」
「この技術の開発者 小田悟志の姪、早川結希って子の指の中に埋め込まれたマイクロチップの中に」
「そのチップが政府側に回収されて、あの超人開発につながったんじゃなかったのか?」
桐谷の言葉に杉本らしき人物が突っ込みを入れた。どうやら、このあたりの話はこのメンバーたちには既知の事らしいが、この杉本の反応に俺は運命を感じた。
「右手の人さし指のね。
あの子を調べていて分かったの。左の指にも埋め込まれているの」
「ともかく、その子を探せばいいんですね。
場所に心当たりとか無いんですか?」
福原の言葉に、桐谷はゆっくりと首を横に振った。
「すみません」
会話に割って入った俺にみんなの視線が向けられた。
「その子、俺くらいの年の子で、まこととか言う男の子と一緒にいます?」
「どうして、それを?」
「どこかで会ったのか?」
桐谷は身を乗り出しているし、電話会議の声も驚いた風でもある。どうやら、俺が感じた運命は本物だったらしい。
「ここに来る途中で出会いました」
そう。これこそ運命なのだ。
それは俺の運命なのか、あの二人の運命なのかは分からないが。




