真と結希
寺井のコロニーを迂回し、俺たちは首都を目指していた。ここまで見て来たコロニーは、おおよそ特徴があった。
重要な施設を取り囲むコロニーのほとんどは規模も大きく、UN管理下や異国人の支配下になっていて、この騒動が外国によって引き起こされたものと言う実感を俺は得た。そして、今、近づいているコロニーもかなりの規模に見える。
「ここは何かあるんですか?」
「うーん。何も無いみたいだけど」
ここにも何か重要な施設があるんじゃないかと言う俺の疑問に、土居が答えた。コロニーの視線に目を向けて見ても、UNの旗は見えない。
「ねぇ。ちょっと、止めてくれない?」
そう言ったのは沢井だった。
何かに気づいたのか? と、視線を沢井に向けたが、沢井の視線はコロニーではなく、地面に向けられていた。
視線を地面に向けると、鋼鬼の死骸が転がっている。その数は俺がいたコロニー並みの多い。つまり、普通ではなく、誰かが鋼鬼を殺害している可能性があると思ったに違いない。
上本が車を停車させると、沢井は飛び降りて、転がる鋼鬼の遺体を観察し始めた。そう言えば、初めて沢井を見た時も、こんな事をしていたなと、ちょっと懐かしいイメージを頭に浮かべた。
「傷も無いのに、死んでる。
まるで、私たちの兵器で殺されたみたいに」
沢井がそう言っているのが、聞こえて来た。
「あの兵器は他にもあるの?」
「おそらく、首都の部隊にはあると言う可能性があるが」
俺の問いに福原が答えた時、沢井はコロニーに目を向けていた。
「あのコロニーに行ってみません?」
「入れてくれたらな」
沢井の提案で、コロニーに接触を図る事になった。UNや異国人が支配しているコロニーなら、軍と分かれば俺たちが入るのを拒否する事が多いのだが、ここは違っていた。ただの一般人が管理するコロニーだった。
そして、コロニーの外周に転がる鋼鬼の死骸に関し、予想外の事を語ってくれた。その言葉を信じ、俺たちはコロニーから数kmほど離れた場所にやって来ていた。
山に続く、舗装されてはいるが、人二人がやっと通れそうな細い道路で、左右に草木が生い茂った道は、鋼鬼が潜んでいると言う可能性も否定できず、沢井が先頭で警戒しながら、歩いている。
どれくらい歩いただろうか、少し開けた場所に出て来た。
その先には、フェンスが張り巡らされていて、その端に粗末な家があり、その前面には畑が広がっていた。
「すみません」
福原が張り上げた大きな声に、ドアを開き、家から出てきたのは俺より少し年上くらいと思える男の子だった。
「どちら様ですか?」
怪訝な表情で、彼が言ったのは当然だろう。こんな状況の中、見知らぬ者たちが突然やって来たのだから。
「私たちは軍関係の者で」
福原がそう言った時、彼の視線は俺と武本と沢井にちらちらと向けられたのを感じた。たしかに、俺たち三人は軍とは似つかわしくない存在だ。
「近くのコロニーとあなたは行き来されているとか。
その時はもちろん、鋼鬼騒動が起きた当初にも、鋼鬼たちをあなたが特別な武器で倒したとか」
「だから?」
彼は俺たちの真意が分からず、少し敵意を感じたらしく、口調も表情も厳しくなった。
「その武器、見せてもらえません?」
「お断りします」
「それをどこで、手に入れられたんですか?」
「あなたたちに応える理由はありません」
信用していない相手に応える訳ないのは当然だろうと思っていた時、家の中から別の声がした。
「真、誰が来てるの?」
目の前の男の子は”まこと”と言うらしい。
そして、その名を呼んだ少女が、家の中から姿を現し、俺たちに視線を向けた後、軽く会釈した。それはあくまでも社交辞令的なものであって、好意ある会釈で無い事は、その表情を見れば明白であった。
少女は少し低めではあるが、年齢的にはまことと言う男の子と同じ年くらいだろう。容姿的には、大きな瞳にほんの少し下がり気味の目じりと、通った鼻筋はかわいいと言うより、綺麗な部類じゃないかと思えてしまう。
「軍の人たちらしい」
「杉本さんの?」
「いや、分からないが、違うと思う」
二人の会話からして、杉本と言う軍の関係者と関係があるらしい。
「杉本さんって?」
「関係ないのなら、気にしないでください」
福原の問いに、まことは素っ気ない返事をした。取り付く島もないとは、この事だろう。
「じゃあ、話を変えよう。
私たちは、鋼鬼を退治するため、首都のある場所を目指している。
君たちが鋼鬼を倒しているのなら、戦力になる。
共に、首都を目指してもらえないか?」
「嫌です」
今度も、まことは迷う素振りも見せず、きっぱりと言い切った。
「しかし、このままだと、元に生活を取り戻せないだろ?
鋼鬼を駆逐し、元の社会を、生活を取り戻そうじゃないか」
「俺たちは協力しません」
もしかすると、杉本と言う軍人との関係が悪く、軍と言うものを嫌っているんじゃないか? と言う推測が頭に浮かぶくらいの態度だ。
「でも、真。
何か、できるのなら」
「結希ちゃんは、関わらなくていいから!」
ゆきと言う名らしい女の子はどちらかと言うと協力する気があるらしい。俺的には、最も強力な戦力は沢井であって、続くのが飛び道具ではあるが、弾の制約とかがあるこの部隊とリーチの長いソードを使い、弾切れの無い俺であって、まことはコロニーで聞いた話から言って、接近戦だから、俺たちの一番下の戦力と見積もっている。それだけに、まあ加わってくれればいい的にしか、思ってはいない。
「ともかくです。
俺たちを巻き込まないでください」
そこまで言うと、俺たちに背を向けた。
「戻ろう。結希ちゃん」
「本当にいいの?」
迷うゆきと言う子の手を引っ張って、まことは家の中に姿を消してしまった。
「だめか」
「ですねぇ」
「しかし、彼が鋼鬼を倒す武器を持っているとしたら、何か鋼鬼の事について知っているんだろうが」
福原は残念そうだったが、あのまことを動かすことなどできそうになく、俺たちはその場を離れた。




