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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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寺井のコロニー

 首都に向かう俺たちが、大阪に近づいた時だった。

 目の前に広がる巨大なコロニーの壁に、上本が減速し、その数十m手前で停車した。停車すると、鋼鬼たちが襲ってくるが、幸いと言っていいのか、辺りに鋼鬼の姿は無い。

 停車した車のフロントガラス越しに見る壁の高さは、ごく普通のコロニーの壁とそう変わらない数m程度だが、その長さは壁に並走しなければ分からないくらい続いている。


「どうしますか?」

「と言っても、迂回しかないでしょ」


 土居が当然の事を言ったが、福原は別の考えがあるらしく、即拒否した。


「いや。

 これはおそらく、寺井のコロニーだ。

 ここは壁を破壊し、中央突破で突っ切って、一泡食らわせてやろうじゃないか」


 福原の言葉に、俺の胸はちょっと高鳴った。

 寺井と言えば、この鋼鬼騒動に深く関わっている男。つまり、俺的には仇だ。

 チャンスがあれば、ここで討ち取りたい。

 そんな事を考えながら、福原の考えが変わらない内にと、車のドアを開いた。


「じゃあ、あの壁、俺が焼き切ってきますよ」

「待て。

 いきなりはまずい」


 福原はそう言うと、自ら車を降りて来て、壁を見上げた。

 少し離れたところに、見張り台らしきものを確認した福原が、ゆっくりとそこに向かって歩き始めた。福原の警護に、沢井と土居がその周囲を固めている。

 近づく俺たちに、見張り台の男たちも気づいていて、視線を向けていた。


「東京を目指しているんだが、ここを通してくれないか?」

「お前たちは、軍関係者か」


 福原の服装から、見張り台の男が言った。


「そうだ」

「だめだ。

 そんな奴らは通せない」

「私たちは鋼鬼のいない世界を取り戻すために、先を急いでいるんだ」

「そんな事は知らん」


 鋼鬼のいない世界。みんなの願いのはずなのに、男はそう言って、迷いもせず拒否してきた。


「仕方ない。

 通してもらうぞ」


 福岡はそう言うと、俺に目配せをした。

 やれ! そう受け取った俺は、レーザーソードを起動し、ゆっくりと近づいて行く。


「な、な、な、なんだ、それは?」


 俺の手にある物が何か悟ったのであろう男が、ちょっと狼狽気味に言った。


「見てれば、分かるよ」


 そう言って、俺は見張り台の下近くにあるコロニーの鉄製の扉にレーザーソードを突き立てた。


「うぎゃぁぁぁぁ」


 扉の向こうから轟いた醜い悲鳴に、一瞬俺の力が弱まった。運悪く、扉の向こうに人がいたらしい。が、これも運命だ。そう思い直して、ゆっくりと、レーザーソードで鋼鉄製の扉を焼き切って行く。


「ぎゃぁぁぁぁぁ」


 再び轟いた別の者らしき悲鳴に、俺の手が止まった。

 どうして、レーザーソードに近づくんだ。

 最初の不運な一人目の犠牲者を見て、離れるべきだろ。

 そんな事を考えながら、扉を焼き切って、足で思いっきり蹴ると、元々の扉から切り離された部分はコロニー側に倒れ込んだ。


 開いたとびにらの向こう側。そこにはコロニー内部が広がり、明るい光が差し込むと思っていた俺の視界には、予想外に暗い世界が広がっていた。

 なんだ?

 そんな思いで、目を凝した俺はその先の構造を理解できた。

 扉の奥には空洞が広がっていて、このコロニーはさらにその向こう側。つまり、二重の門になっているらしかった。


「うぎゃぁぁぁぁ」


 空洞の中から轟いた謎の雄たけびに、一歩後ずさりしてしまった俺の横に、沢井が厳しい視線を扉の向こうに向けて立っていた。


「沢井さん?」


 そう声をかけた時、空洞の中から鋼鬼が姿を現した。一瞬、瞼を閉じて、しかめっ面をしたのは、暗い空洞に潜んでいただけに、外光が眩しすぎたのだろう。

 が、これはチャンス。

 そう感じた俺がその鋼鬼の頭頂部から、レーザーソードを振り下ろし、真っ二つに焼き切った時、俺は久しぶりに背筋が寒くなるほどの恐怖を感じた。

 一体だけと思っていた鋼鬼に続いて、空洞から鋼鬼が姿を現した。それも、一体、二体じゃない。空洞の内部を見る事ができないので、全容は分からなかったが、この空洞の中には鋼鬼たちが閉じ込められていたらしい。


「ヤバ過ぎ。

 逃げるよ」


 俺の前に一瞬の内に回り込んで、新たに現れた数体の鋼鬼を葬ると、沢井が俺の手を引いた。


「うぉぉぉぉぉ」


 鋼鬼たちが、不気味な雄たけびを上げながら、次々に姿を現してくる。


「勝手に、俺たちのコロニーを破壊するからだ!」

「お前たちも鋼鬼になっちまえ」

「俺たちは軍は嫌いなんだよ!」


 見張り台から、浴びせられる罵倒の中、福原も土居も車を目指して駆け出し始めた。

 時折振り返り、鋼鬼との間合いを確認する。

 間合いは5mほどの距離で、付かず離れず的な感じだが、後ろに続く鋼鬼の数は夥しく、このまま逃げ切れるのか定かではない。

 このまま、みんな全滅するくらいなら、ここで踏みとどまって、先頭にいる何体かだけでも、葬るか? そんな考えが脳裏をよぎった時、沢井が声をかけて来た。


「それ、ちょっと貸してくんない?」


 それとは、レーザーソードの事である事はすぐに分かったが、ほんのちょっと俺は戸惑った。結局、詩織に渡さなかった事で悲劇を起こす事になったこのレーザーソードを他の女の子に渡すのか?


「うぅぅぅぉぉぉぉ」


 背後に迫る雄たけびが、俺の迷いを吹き飛ばし、レーザーソードを起動すると、沢井に手渡した。


「ありがとう」


 そう言い残して、沢井の姿は消えた。背後に迫る鋼鬼の殲滅に向かったに違いない。沢井の超人としての運動能力と、レーザーソードの特性を考えれば、その結果を想像する事は容易だった。立ち止まり、振り返ったその時には、体を真っ二つにされた大量の鋼鬼たちが、まるでいくつもの噴水かのように赤い血しぶきを上げていた。

 走っていた勢いのまま、胴体から切り離された上半身が、前のめりに地面に倒れ込む。

 噴出す血は瞬く間に勢いを衰えさえ、むき出しだった内臓を覆うように皮膚が再生され、失われた骨格さえ形成していく。

 が、真っ二つと言うダメージは、鋼鬼を完全に再生する事を許しやしない。

 上半身は骨盤辺りで再生の終焉を迎え、上半身だけではいずりまわる鋼鬼が出来上がる。

 その鋼鬼を葬るには、頭部を破壊しなければならないが、そんな余裕はない。

 俺たちの後を追って来ていた多くの鋼鬼を真っ二つにして、這いずって追いかける事しかできない状態にしただけで、沢井は俺のところに戻って来た。


「ありがとう。

 今のうちに逃げるよ」


 そう言いながら、レーザーソードを俺の手に戻すと、立ち止まらなかった福原たちとの差を埋めるためか、俺をお姫様抱っこして、駆けだした。

 その速度は超人としては、かなり抑えたものだったが、オリンピックの陸上選手なんかよりもはるかに速い速度であり、瞬く間に福原たちを追い抜き、車にたどり着いた。


「よっ!

 女の子にお姫様抱っこか?」


 武本が車のドアを開きながら、ちょっと小ばかにした口調で言った。


「羨ましいだろ?」


 そう返しはしたが、沢井と密着した事はうれしい出来事だったが、女の子にお姫様抱っこされるのは無いだろうと、半分は恥ずかしかったのは事実だった。


「引き返すぞ!」


 たどり着いた福原がそう言うと、一斉に車列は後退を始めた。




「なあ、沢井」


 寺井のコロニーを迂回する事になった車の中で、俺が言った。


「これがあると、鬼に金棒だな」


 率直な意見だ。普通の運動能力の俺よりも、超人の能力を持った沢井がこれを使えば、さらに強力な戦力になる。今回の危機も、沢井がレーザーソードを使って、襲ってくる鋼鬼の群れの多くを葬ったから助かったようなものだ。


「私が鬼だって言うの?」

「いや、沢井は天使だけど」

「はい?」


 鬼と言う表現が気に障ったようだったので、ちょっとうろたえた俺は、いつも思っている言葉を口にしてしまった。


「いや、まあ。

 ともかく、この武器がもう一つあって、それを渡したら、かなり役に立つか?」

「あるの?」

「あるのか?」

「そうなの?」


 沢井だけでなく、福原に土居まで一斉に反応した事から言って、俺もそう思うが、よほど興味のある話だったんだろう。


「たとえばだけど」


 俺の言葉に、三人の表情にがっかり感が浮かんだ。


「そりゃあ、役に立つけどさ。

 たとえばなんて、話は要らないよ」

「だよねぇぇぇ」


 沢井の言葉に、土居が重ねた。


 今回の沢井の活躍を見ても、まだ俺は詩織のレーザーソードを沢井に渡す事を決断できないでいた。

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