売国の裏側
その男はレースのカーテンがかけられた窓に近づいて行った。そこからうっすらと見える外の光景は、植栽の緑に包まれた地上らしかった。明るい日差しが差し込んでいるとは言え、決してカーテンを引くほどの強さでもないのに、窓の端まで行くと、遮光カーテンを引いて、外と部屋の中を隔絶した。
男は部屋の側に向くこともなく、窓近くに置かれた立派な机を背にして、カーテンに向かったまま、初めて世に出た携帯電話くらいの大きさの物を手にした。
「寺井さん。
フーバーです」
男は電話の向こうの相手にそう名乗った。
「あれ以来、私の呼び出しにも何の応答も返さなかったあなたが、突然、どうしたのですか?」
「素っ気ない事をおっしゃられますね。
あれだけの騒動ですから、こちらも連絡を取る事ができなかったんです。
この国の王の証である金印すら、受け取りに行けないくらいですよ。
それより、そちらも苦労されているのでは?」
「確かに、日本政府が頑なに我々の進駐を拒むとは予想外だった。
しかも、アメリカに海上封鎖までされるとはね。
あなた、政府側なんですから、なんとかしようと思わないのですか?」
「それは私の力では」
「逆に、あなたが動いて、我々の進駐を拒否したり、アメリカを唆していたりしてませんよね?」
「当たり前じゃないですか。
そんな事して、私に何のメリットがあると言うのですか」
そう言いながら、フーバーの口元はにやりとしているようだった。
「寺井さん。
それよりも、耳寄りな情報を手に入れました。
以前から欲しがっておられた超人の技術がまだあったようです」
「本当か!
どこに?」
「お教えしましょう」
フーバーはそう言うと、荒木たちが早川結希と出会ったと言う場所を教えた。
「その子の体のどこかにチップが埋め込まれているのですから、一気に人体を破壊してしまうような兵器は使用できませんよ。
地道に兵を送り込んで、身柄を確保する事を推奨します」
「どう言う風の吹き回しか知らんが、感謝するよ」
「では」
フーバーは寺井との会話を切ると、にやりとした笑みを浮かべた。
「あの国に鋼鬼に感染する力を追加する技術力があったのは予想外だったが、これで新たなシナリオを描けるようになったよ。
さあ、この国に再び維新を成功させようじゃないか」
フーバーは両手を上げて、天を仰ぐようにして、そう言った。




