殺戮
コロニーの中に後続の車両も引き入れると、このコロニーを治めている安川と言う人物と面会する事にした。理由は俺たちへの攻撃的な行動への謝罪なんかじゃなく、そんな事をせざるを得ないほどのこのコロニーの現状を知るためだ。
面会場所はコロニーの中にある元々大手企業が入っていた建物の上層階の一室。立派な調度品をそろえた応接室に福原と土居、沢井と俺が並んで座り、安川の到着を待つ。窓から見えるこのコロニーの光景から推測するに、俺のコロニーなんかより、はるかに規模が大きそうだが、その多くが何もない土地っぽい。なぜに、そんな広大な範囲をコロニーに取り込んでいるのか? なぜにその土地で耕作もしていないのか? そんな疑問を抱きながら、不自然な光景に目を向けていると、部屋のドアをノックする音がした。
ドアを開けて現れたのは、眼鏡をかけた60近そうな小柄な男だった。
「ここを治めている安川です」
外の者たちも痩せ気味だったが、コロニーのトップだと名乗ったこの男も痩せ気味の体格だ。マジで食料が不足しているのかも知れない。
「第43普通科連隊の福原と土居。
それと供の者二名」
福原が立ち上がって、そう名乗った。俺と沢井はお供扱いらしい。
「お話のご用向きは?
ここの者たちが騒動を起こしたそうですが、その事でしょうか?」
「それは逆に私どもの方が怪我をさせてしまい、申しわけなく思っております。
うかがいたい話と言うのは、ここの食料事情です。失礼なようですが、決してよいとは言えなさそうに見えます。
私たちはいわば、政府側の人間ですから、何か協力できることがないかと」
「ありがとうございます。
もし、お助けいただけるのなら、ありがたい事です」
そう言って、安川がここの現状とこれまでの経緯を語った。
それによると、俺たちがいるここは製パン工場らしい。そして、少し離れた場所にあるコロニーの統治者 田井省吾がこの工場に目を付け、小麦の耕作地を拡大するように勧めてきたのだそうだ。
田井と言う人物の話は俺のコロニーにも届いていた。自分の農地を囲む小さなコロニーから出発し、所有者が逃げ出し、実質的に耕作放棄地になった周辺の農地を吸収し、巨大な農地を持つコロニーを作り上げた人物。そこに、食べ物にあぶれた者たちを雇い入れ、農業に従事させ、今では一大穀倉地帯を統治する人物だが、決して評判はよくはない。
その田井がしばらくは食料を供給してくれていたらしいのだが、小麦のための耕作地が完成する直前から、食料が届けられなくなったらしいのだ。このコロニーとしては、耕作地を広げるためと、その後の小麦の栽培に外部から人を集めていたため、田井からの食料が滞ったダメージは大きく、多くの者たちが飢えているとの事だ。
「なぜ、食料が届かなくなったのか、分かっているのですか?」
「食料が遅れるようになって、田井さんの所に使者を遣わしました。
最初の者が戻って来て言うには、鋼鬼が多くなって、コロニーから食料を輸送できない状況だ。鋼鬼が少なくなれば、必ず食料を運ぶと約束してくれたらしいのですが、それっきりで。
その後も使者を出したのですが、それ以降は戻って来ないのです」
「なるほど」
「なら、今から行きますか?」
福原の言葉を土居が受けて、安川にたずねた。
「今から……。ですか?」
「はい。嫌なんですか?」
にこりとした笑顔で土居が言っているが、嫌とかではなく、急すぎるだろと思わずにいられない。
「わ、わ、分かりました」
「じゃあ、沢井さん、一緒に来てくれるかな?」
「分かりました」
土居の誘いに沢井は迷いも見せずに承諾した。
「なら、俺も」
鋼鬼に取り囲まれたコロニーに向かうと言うのなら、俺も行くしかないだろう。そんな思いで、立候補を表明した。
「いや、本当に鋼鬼が多くなっているのなら、危険すぎる。
君はここに残っていてくれ」
「そんな訳にはいかないでしょ。
沢井さんだって、行く訳でしょ。
女の子の沢井さんが行くのに、男の俺が留守番と言うのは無いでしょ!」
「それって、女を見下してない?」
沢井がちょっときつめの視線で、睨み付けるようして言った。
「そう言う訳じゃないけど、戦いは男の方が向いてるもんだろ」
「分かった。
君も一緒に行こう」
「ありがとうございます」
福原の言葉で参加する事になった俺も含め、上本の運転で田井のコロニーを目指す事になった。
そのコロニーは道が普通の状態だったら、車で20分ほどの距離にあった。今では、放置された車や鋼鬼の群れ回避などの手間がかかり、二時間ほどを要して、そこに到達した。
特にコロニーの周辺に鋼鬼が多いと言う事もなく、ごく普通の数だ。
「修君、この数ならいけるか?」
福原が言った。なぜだか、今回は福原の兵たちは連れて来ていない。戦力は福原、土居、沢井、俺の四人だけだ。この中で、鋼鬼退治なら俺しかいないに違いないが、じらしてみる。
「まあ、いけない数じゃないが、俺なのか?」
不満げな口調を添えて、一旦拒否っぽい言葉を口にした。
「瑠璃ちゃん、だったら私たちで行く?」
「じゃあ、そう言うことで」
土居が沢井を誘うと、沢井もあっさりと承諾し、車のドアに手をかけた。
「いやいや、それ違うだろ!
ここは俺だろ?」
俺のじらし作戦は女性陣のスルー作戦の前に破られてしまった。きっと、スルーする事で、俺を焦らせると言う作戦に違いないと分かってはいても、女性陣を鋼鬼の前に押し出すなんて事はできやしない。
「俺が行く」
車から飛び出すと、レーザーソードを起動した。
鋼鬼を狩るのは俺が背負ってしまった宿命だ。
お前たちさえいなければ!
そんな思いを込めて、鋼鬼を脳天から真っ二つに切り裂く。
いつかは俺自身もこんな姿になり、最期の時を迎えるかも知れない。それまでの間、詩織のためにも、一体でも多くの鋼鬼を葬ってやる。それがただの俺自身の自己満足だとしても。
斬って、斬って、斬りまくる。
そんな俺の姿を田井のコロニーの見張り台の上にいる男たちが見て、驚きの声をあげている。
鋼鬼狩りの修。その名は伊達じゃない。
今までに、どれだけの鋼鬼を葬って来たか。それでも、俺の心の渇きは癒されない。無くしたものが大きすぎたから。
視界に映る最後の一体を腹部辺りで真っ二つに切り裂くと、地上に落下した上半身にある頭部をレーザーソードで切り裂き、この鋼鬼の生き物としての存在を抹殺した。
「終わった」
達成感もない代わりに、罪悪感もない。ただ、虚しい殺戮が終わっただけ。そんな気持ちを抱きながら、一人そう言い終えた時、俺の背後に福原たちが乗る車がやって来た。
振り返ると、安川が車から降りて来て、田井のコロニーを取り囲む壁の上に設けられた見張りの塔に向かって叫んだ。
「佐伯のコロニーの安川が来たと田井さんに伝えてくれないか?」
安川の言葉に応えたのか、コロニーの門が開いた。




