戦う天使
俺は沢井、福山、土居と同じ戦闘車両で移動する事になった。先頭車両が一番危険が高いと言う事らしいのだ。と言う事は、俺はこの三人の護衛と言う扱いらしい。
俺たちのコロニーに立ち寄った時もそうだったが、どこにコロニーがあるかは掴めていないらしく、適当なタイミングでコロニーらしきものを見つけると立ち寄ると言う、ちょっと行き当たりばったり的な移動だ。まあ、お互いのコロニー間には付き合いがあるものもあるが、それは一部であって、全てのコロニーを把握している者なんて、この世界にはいないのだから、仕方ないのだが。
この国には高速道路網が張り巡らされてはいたが、鋼鬼に襲われたり、渋滞にはまった車に乗っていた者たちが襲ってくる鋼鬼から逃げようと放置した車がいたる所に存在していて、今は使えないと言っていい。だが、それは下の道も同じであって、時折後退し、道を変えたり、迂回したりしなければならない事があり、目指す研究所がある首都への道のりは遠いものになりそうだ。
「あれはコロニーっぽいですね」
最初にそう言ったのは土居だった。
「そろそろ寄って行った方がいいだろう」
福原の言葉に進路は決まった。誰が最初にコロニーと言うものを作り始めたのかは知らないが、どこのコロニーも似たような作りになっていて、ここも3mほどの塀でその内部に鋼鬼が侵入してくるのを防いでいて、塀に設けられた門の左右に見張りのための塔があった。遠目に、向こうも俺たちに気づいた風に、指さしや仲間と言葉を交わしている様子が見て取れる。
「土居!」
福原がそう言うと、上本がハザードランプを点灯させて、車を停車させた。車が停車すると土居がドアを開けて、外に飛び出したかと思うと、後続車両からも鋼鬼たちを倒すことができるあの武器を持った男たちが飛び出して来た。福原たちは普通の服装だが、後続車両の男たちは迷彩服で、いかにも軍人と分かるいでたちである。そんな男たちが駆け足で俺たちの車両の前に進み出て、あの銃を構えた。
「ってぇ!」
土居の声と共に、一斉に射撃を始めた。普通の銃弾と同じで、爆薬を使用しているだけあって、その銃撃音は激しく、耳からの音だけではなく、車の中の俺の体にも振動となって伝わってきている。が、それはそれほど長くは続かなかった。かなりの数に見えた鋼鬼の群れも、数に物を言わせた土居たちの攻撃の前には敵ではなかった。今や、コロニーの壁の前につながる空間で立ち上がっているのは土居たちだけであった。
「回収!」
土居の言葉に男たちが駆け足で、地面に倒れ込んでいる鋼鬼の屍に向かって駆けだし始めた。一部は自分たちが放ち、今では地面に転がっている鋼鬼を倒す神経毒が仕込まれた銃弾を探しては拾っていて、その周囲を一部の者たちが警戒している。
「ちょっと間抜けに見えてしまうのは俺だけ?」
車の中で率直な感想をこぼしてしまった俺に、同意なのか、馬鹿にしたのか分からないが、沢井がくすっと笑った。
近くにいる鋼鬼たちを駆逐し終え、放った銃弾も回収し終えると、コロニーの門の前に車を進めて行った。その頃には、見張りの塔に立つ人の数は増えていた。
「少し休ませてくれませんか?」
土居が言った。やはり見知らぬ相手との交渉の切込みは、若くてきれいな土居が最適なんだろう。が、今、土居を見張りの塔の上から見下ろしている者たちは、土居の雄姿を見ているだけに、ただの女の子としては通じないはずだ。
「一台ずつ入れ」
見張りの塔の上から声がしたかと思うと、門が開いて行った。その先には車数台程度が入れる空間があって、その先には別の閉じられた門があった。俺のコロニーと同じで、二重の門を作る事で、鋼鬼の侵入を防いでいるのだろう。
上本がゆっくりとその空間に車を進めて行くと、背後の門が閉じられた。それに続き、前の門がゆっくりと開いていき、このコロニーの中が視界に入って来た。
痩せ気味の男の手招きに従い、ゆっくりとコロニーの中に車を進めて行く。ちょうど、門を抜けたあたりで男は両手を突き出して、停止するようにと言うような仕草をしたかと思うと、コロニーの男たちが俺たちの車両を取り囲んだ。
「これでは、後続車両が入れないじゃないか」
危なげな気配を感じているのか、福原はドアも開けず、窓も開けずに車内から外の男たちに向かって大声で言った。
「お前たち、食料を持っているだろう。
ここに置いていけ。お前たちは人質だ」
この時代、食料確保はどこのコロニーも苦労するが、自前で食料を確保する手段を持っていないコロニーではなおさらである。確かに、視界に映る男たちはみんな痩せ気味だ。どうやら、このコロニーは食料確保に難儀しているらしい。
「困りましたね。
休憩のつもりが人質ですか。
沢井君、外に出て話し合ってみてもらえませんか?」
「私ではなく?」
土居が言った。
「ああ。君の戦いっぷりをここの人たちは見ているだろうからね。
穏便に話すには、今の場合は沢井君の方が向いているだろう」
「分かりました」
沢井が躊躇も見せず、福原の言葉を受け入れ、車のドアを少し開けると、外の男たちがドアを掴んで、思いっきりドアを全開した。
「落ち着いて話し合いません?」
そんな言葉を口にしながら、車から降りようとした沢井の腕を車を取り囲んでいた男の一人がつかんで、沢井を力任せに引っ張り出した。
こちらが話し合いのつもりでも、向こうにその気はないなんてのはどこにでもある話だ。このままでは沢井が人質に取られるだけだ。
「ぎゃあっ! 痛ってぇぇぇ」
沢井を救うために、車外に出ようとした俺の耳に醜い男の悲鳴が俺の耳に届いた。
「私の体を勝手に掴むんじゃないわよ!」
お怒り気味の声は沢井だ。さっき腕をつかんで、沢井を引きずり出そうとしていた男は沢井の右足に踏みつけられ、地面に突っ伏していた。しかも、沢井が掴んでいる男の腕はあらぬ方向に曲がっていて、完全に関節を壊されたか何かのようだ。
先頭車両は危険だと福原は言った。俺は沢井たちの用心棒として、その先頭車両に乗せられたんだと思っていたが、どうやら沢井の戦闘力もそれなりに高いのかも知れない。もちろん、鋼鬼に通用するとは思えはしないのだが。
「お前、逆らうのか」
「私とやるっての?
別に私はいいんだけどね。
死ぬよ」
沢井の言葉はとんでもないもので締めくくられたが、男たちに沢井にひるんだ気配はない。逆に怒りを増している感さえある。
「おのれ!」
挑発的な沢井に男の一人が襲い掛かったが、沢井に一蹴された。殴りかかって来た男の腕をつかんだかと思うと、「ボキッ!」と言う音と、その男の醜い悲鳴を伴いながら、へし折ってしまった。
「沢井君なら大丈夫だと分かってはいたが、逆に相手に怪我人を出してしまいそうだ。
修君。君の武器で脅して、この場を収めてもらえないか。
かえって、君の武器の方が負傷者を少なくできるかも知れない」
「分かりました」
そう言って、レーザーソードを構えながら、俺は車から降りた。
「お前ら、こうなりたいか?」
そう叫ぶと、レーザーソードをアスファルトの地面に突き刺して、50cmほど切り裂いてみせた。レーザーソードを抜き去った地面に刻まれた幅3cmほどの溝に、取り囲んでいた男たちが顔を引きつらせて、数歩後退した。
「なんだ、これは?」
「うわさに聞く鋼鬼狩りの修なんじゃないのか?」
どうやら、俺の噂はこの辺りにも届いているようだ。なら、利用させてもらうまでだ。
「そのとおりだ。
俺は数多の鋼鬼を切り裂いて来た鋼鬼狩りの修だ。
鋼鬼でさえ勝てない俺に、お前たちが勝てる訳ないだろうが!
さあ、どうする!」
レーザーソードの切っ先を男たちに向けながら、ずいっと一歩踏み出し、さらに威嚇してみる。
「と言う訳だ。
彼を怒らせて、君たちの得になる事は何もない」
福原がそう言いながら、車から降りてきた。武器も構えていない福原だが、一歩ずいっと踏み出すと、やはり囲んでいた男たちが数歩後ずさりした。それなりの気迫のようなものを纏っているのかも知れない。
もはや男たちは俺たちを襲う気持ちどころか、反抗する気概さえ失い、後は俺たちの言いなりだった。




