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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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旅立ち

 その少女は、名前を沢井 瑠璃と言った。胸近くまで伸ばしたストレートの黒髪は陽光をきらきらと反射させるほど艶やかで、見つめられると鼓動を高鳴らせずにいられないほどの真っ黒で大きな瞳を持つ瑠璃の微笑みは、天使だと思わずにいられない。

 だが、この瑠璃と言う少女は純真無垢なただの天使ではない。鋼鬼の屍を平気で観察できる強さと言うか、冷酷さを併せ持っている。いや、天使とは、そもそも残酷さを併せ持っているのかも知れない。

 その瑠璃の言葉に従い、鋼鬼を殲滅する鍵を握っていると言う研究所に、瑠璃たちと共に向かうことにした俺は、このコロニーを統治している高部の屋敷に来ていた。


 高部はこの地域では元々名家であって、その邸宅は広大な敷地の中に、見る者の心和ませる緑と水のせせらぎに満ちた日本庭園が広がっていた。

 開けられた障子の向こうに広がるそんな庭園に時折目を向けながら、高部と瑠璃たちの話を聞いている。

 瑠璃の仲間、その正体は予想外だったが、第43普通科連隊と言う軍の人間たちで、率いているのは福原中佐と言う人物であり、俺が最初に言葉を交わした若い女性も軍人で土居麻帆と言う少尉だった。


「その研究所に行けば、あの鋼鬼たちをなんとかできると言う事は、やはり鋼鬼は?」


 高部はそこで言葉を止めた。続く言葉が何なのか、俺には分からなかったが、福原には分かったらしく、静かに、だが強く頷いて見せた。


「そうですか。

 背後関係はこれですか?」


 高部と福原の阿吽の呼吸について行けない俺は、そう言いながら高部が差し出したチラシに目を向けた。


「日本国民に勧める」


 目立つ大きな文字で描かれているそのチラシは数日前に飛来したヘリから撒かれたもので、俺にも記憶があった。

 発信元はUN、国連と言う事になっているが、実情は隣国が国連の名を借りているに過ぎない事は誰もが気づいている。そこには、鋼鬼を退治し、平穏な生活を取り戻すため、国連軍、つまり隣国の軍を無条件に受け入れろと言うもので、頑なに拒否し続けている日本政府に対し、自治組織として反旗を翻し、独自に判断する事を求めてもいた。

 通信手段が壊滅している今となっては、確認の術がないのだが、その先例として、すでに沖縄は日本政府から独立を表明し、国連軍と言う偽りの名を冠した隣国の軍隊を受け入れ、鋼鬼を駆逐したとの事だった。


「おそらく。

 当時から、あの技術は狙われていましたからね。

 どこかから漏れたのでしょう。ただ、完全な形でなかったのが救いです」

「超人を復活させるおつもりで?」


 福原が頷いてみせた。

 高部が言った超人。かつて、この国の研究者が開発したウイルスを使った生きた人間の遺伝子操作技術により生み出された超生物。その能力は鋼鬼に通じる超速再生に銃弾さえ防ぐ硬度を持つ肉体と、鋼鬼にはない驚異的な身体能力だ。

 完全な形ではないとは、この身体能力の事を差しているに違いない。人の運動能力を超越した運動能力を保有していたら、俺のレーザーソードだって無力だったに違いない。いや、それだけじゃない。超人と違うところが鋼鬼にはあって、その一つは鋼鬼には知性が失われているのだ。もし、知性があり、集団行動などができていたなら、普通の運動能力だって、レーザーソードで百戦百勝とはいかなかったはずだ。


「もしかすると、鋼鬼を作った者は自分たちが鋼鬼を駆除できる余地を残した?」


 部屋の片隅で、臨席だけを許されていた俺だったが、ついつい口を挟んでしまった。


「鋼鬼狩りの修君。

 そう言う事だろう」


 高部のその言葉を受けて、福原が続けた。


「鋼鬼は超人と違い、かまれることで遺伝子改変のウィルス感染が広がる訳だが、鋼鬼が発生したあの日、ほぼ同時に全国各地に鋼鬼が現れた事を考えれば、この現象が人為的なものである事は間違いない。

 当然、それを行った者は鋼鬼に負けない力を保有していると考えるべきであって、奴らは超人の技術の全てを持っていると考えた方がいいだろう」


 超人の技術。かつてこの国で生まれ、一度はその力をこの国は戦力としたが、人と言う生命の尊厳を踏みにじるものとして、理想を掲げる者たちの手によって、その技術はこの国から消し去られた。すべては理想を取り戻すためだったはずだが、結局、その技術は他国の手に渡り、この国に危機をもたらすことになったと言う事らしい。


「とすれば、超人の技術を再確立する必要がある訳だが、それが可能だと?」

「そうです」

「それじゃあ、放棄し、消し去ったはずの超人技術は完全に消し去られていなかったって事ですか?」

「修君だったね。

 その技術を復活させる鍵を私たちが持っていると言う事だよ。

 その鍵を持って、この技術に精通している研究者の下に向かう。そう言う事だ」


 福原が言った。


「その鍵とは?」

「修君、一緒に来てもらっていたら、その内分かるさ」


 福原はそう言い終えると、高部に向き直って、言葉を続けた。


「この修君なんですが、私たちにくれませんか?」

「協力は惜しみませんが、彼は我々の貴重な戦力なんで、そればかりは」


 高部はそこまで言って、視線を俺に向けて、軽く頷いて見せた。俺にそれに従えと言う意味なのかも知れない。


「私たちもその点は考慮させていただきますよ。

 超人たちが存在していた時期、超人たちを無くそうとする者たちが、超人を倒すために開発された兵器があったのはご存知ですか?」

「いや」


 高部が言った。俺も初耳だが、高部も知らなかったらしい。


「当時の物は人が携行する事を目的に作られていたため、ボールペン大だったんですが、それを小型化し、銃口より射出する形状に変更しております。

 この銃を十丁と銃弾100発を提供しましょう。銃弾とは言っても、撃ちっぱなしの鉛玉とは違い、鋼鬼に命中した後、地上に落下しますので、それを回収することで、10回は繰り返し、使用できます」

「そんな武器があったんですか?

 それがあれば鋼鬼を殲滅できるじゃないですか!」

「数があれば。だな」


 俺の言葉に返して来た福原の言葉が終わるか、終わらない内に高部が言った。


「量産できないのですか?」

「残念ですが、これも私たちの技術ではなく、かつて超人たちをこの世から葬り去ろうとした者たちの遺産なんですよ。

 それだけに、急ぎたいんで、戦力は多いほど助かるのです」

「分かりました。

 ともかく、その武器の力を見せていただいてよいでしょうか?」


 高部の言葉で、福原たちとの面会は終了し、俺たちはこのコロニーの見張りの塔にやって来た。俺が狩った事で、福原たちがここにやって来た時には、この塀の周囲から姿を消していた鋼鬼たちだったが、今では俺の狩りなんて無かったかのように、周囲に鋼鬼たちがたむろしていた。


「では」


 福原のその言葉で、銃撃が始まった。

 打ち出すものが鉛でできた銃弾で、その貫通力をもって、敵を倒すと言う本来の銃とは違うために射出力が弱いのか、はたまた銃弾より射出している物の形状が大きいからなのかは分からないが、銃口から射出された飛翔体はなんとか、視認できるものだった。

 貫通させるものではないと分かってはいたが、鋼鬼の胸部に命中すると少し跳ね返って地上にころりと落ちた。

 マジでこんなもので、あの鋼鬼を倒せるのか?

 そんな疑念を抱かずにはいられない光景は、すぐに驚きに変わり、それを見ていた者たちからどよめきが起きた。

 福原の部下の兵が放った鋼鬼を殺戮するための弾を胸部に受けた鋼鬼は突然、白目をむき、口から泡を噴出しながら、地面に倒れ込んだ。ぴくぴくとけいれんをしばらく続けていたが、やがてその動きを止めた。超速再生により、ほぼ不死と思われていた鋼鬼を本当に倒すことができる武器が、俺のレーザソード以外にもあった訳だ。


「さすがに対超人兵器ですな」


 高部が感心している。


「あれを回収するため、ちょっと周りを掃除させていただきます」


 福原はそう言って、鋼鬼狩りの修の名のお株を奪う殺戮を開始した。

 俺のレーザーソードを使った攻撃とは違い、福原の兵たちの攻撃は離れた場所からの飛び道具攻撃だ。この武器なら、それなりの射撃の練習を積めば、容易に鋼鬼を駆逐できる。


「素晴らしい」


 高部は福原たちの攻撃に、感嘆の声をあげ、俺に視線を合わせて、頷いた。それが、俺とこの武器の交換を承諾した瞬間だった。

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