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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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鋼鬼狩りの修と生意気な天使

この三章部分を書こうとして、他の二作を改稿する事になっちゃいました。

ここからは、基本、修くんの一人称です。

よろしくお願いします。

 真夏が近い真昼の太陽では、俺の目の前に広がる外の世界と隔絶するために作られたおよそ5mの高さの壁をもってしても、暑さから逃れるための日陰を十分に作ってくれやしない。いや、近づきすぎると、逆にコンクリートの壁から放射される熱でかえって、体を焼かれてしまいそうになる。

 その壁にはほぼ百mおきに見張りのための塔が作れらているのだが、俺の目の前の塔は他のものより大きな作りとなっている。その理由は外の世界との門が見張りの塔の下に設けられているからだ。

 見張りの塔を見上げると、特徴的な濃い茶色の長い髪を一つに束ねた男の姿があった。俺と小学校の頃からの友だちの武本竜司だ。


「武本、門は開けられそうか?」

「今日も鋼鬼狩りか?」

「ああ。外に出られそうか?」

「門の付近にはいないな。

 近くには十体ほどかな」

「じゃあ、出してくれ」


 鋼鬼こうきと呼ばれる者たちの存在こそ、俺たち人間が壁に囲われた世界で暮らすことになった理由だ。そして、俺、荒木修あらき しゅうは鋼鬼狩りのしゅうと呼ばれている。

 目の前の鉄の扉を開くと、十畳ほどの空間がある。外にいる人類の敵、鋼鬼が侵入してくるのを防ぐための二重扉構造になっているその空間に設けられているもう一つの扉の前に向かって行く。


「開けるぞ」


 武本の声に俺は俺だけの武器、レーザソードを起動すると、柄からほのかに青白っぽい光の刀身が浮かび上がった。どんなものでも切り裂く青の光を見つめながら、精神を集中させる。

 武本が扉を開くスイッチを押したらしく、ゆっくりと開いて扉の向こうの光景が目に入って来る。扉の向こうに見える街並みは一見、元々の世界とそう変わった事はない。が、そこにはかつての繁栄を思い起こさせるような活気に満ちた人々の姿は無く、鋼鬼のうろつく姿だけがある。

 レーザーソードを握りしめる右手に力を込めて、扉を飛び出して行く。

 俺の姿に気づいた鋼鬼たちが、俺を襲いに向かってくる。


「うぉぉぉぉ」


 雄たけびを上げて、向かってきていた鋼鬼一体の胴を真っ二つに切り裂くと、上半身も下半身も地面に転がり落ちた。

 ちらりと目を向けると、すでに再生が始まっていて、さらけ出していた内臓がうごめくように再生をはじめ、それを包み込む筋肉と皮膚が再生しつつある。

 この生き物 鋼鬼から人々が逃げている理由は、この再生力と銃弾をも貫通させない赤銅色の鋼のような皮膚にあるのだが、鋼鉄さえも切り裂く俺のレーザーソードの前には、鋼鬼の体も鋏の前に無力な紙きれ一枚と同じでしかない。

 もう一つの能力 再生も無限ではない。腕の一本を切り落としたとしても、再生されてしまうが、体を真っ二つにしてしまえば、上半身も、下半身も、失った部分が多すぎて再生しきれず不気味な二つの肉塊が出来上がるだけで、鋼鬼にはならない。特に循環器系を持たない下半身部分はいずれ死に絶え、腐敗していく。上半身は少し厄介だ。足を完全再生できないまでも、とりあえず手ではいずりながら移動できる半身の鋼鬼となって、しばらくは生き続けられる。そうさせないため、首のところで斬り落としておく。

 軍だって手も足も出せない鋼鬼でさえ、俺の前にはただの無能な獣にすぎない。

 近づいてきていたもう一体の脳天からレーザーソードを振り下ろす。


「詩織。ごめんよ」


 心の奥で、そう叫びながら、鋼鬼を二つの肉塊に変えると、さらに一歩踏み出して、別の一体をまた腹部から真っ二つにする。


「俺が間違っていたんだ」


 そんな思いで、力を込めながら、さらに別の一体を切り裂く。


「こいつらは、絶対許さない」

「もう誰も鋼鬼にさせやしない」


 近くにいる鋼鬼たちを次々に切り刻んで行った。

 どれくらいの時間こうしていたのか分からないが、視界から鋼鬼の姿は無くなっていた。


「武本、近くに潜んでいそうか?」


 そう大声を張り上げながら、塔の上の武本に視線を向けた。俺の声は届く距離だと言うのに、気づいていないのか、双眼鏡で遠くを見ている。


「おい。武本!」

「あ?」


 武本はそんな声をあげて、俺に視線を向けた後、言葉を続けた。


「誰かがこちらにやって来ている。

 国道10号を数台の自動車が北上してきている」


 武本の言葉に、電気が途絶え、光る事もしなくなった信号機のある交差点を横断している国道10号に目を向けた。鋼鬼がうろついているとは言え、この外の世界を移動する者たちが皆無と言う訳ではない。ただ、それは命の危険を伴う、大航海時代の航海のようなものだ。


 交差点に目を向けて、数分ほどした頃だった。国道10号を何台かの車が通り過ぎて行った。

 どこに向かうのかなんて、気にしてもしかたない。

 車が通り過ぎて行った交差点に背を向け、俺たちの壁の中の世界に戻り始めた時、背後からエンジン音が聞こえてきた。振り返ると、通り過ぎた車が途中で引き返したらしく、こちらに向かってきていた。

 中の世界とつながる扉の前で立ち止まり、やって来る車に目を向ける。


 自動車を運転しているところから言って、鋼鬼ではない。やつらに知性は無く、破壊と暴力以外の能力を持っていないのだから。

 乗っているのは人間。でも、敵意を俺たちに持っていると言う可能性だってある。何しろ、多くの人々はこの国中に散在する壁の中に閉じ籠っているのだから、物資やエネルギー確保と言う課題を抱え続けていて、他の人々から奪うと言う事だって、珍しい事ではない。


 レーザーソードの柄を握りしめ、いつでも起動し、戦える準備をしながら、近づいてくる車を待つ。先頭は大型のSUVで、運転席に中年の男、助手席に若い女が乗っていて、男の方は無表情だが、女の方は俺に視線を向けて、微笑んでいる。

 が、油断は禁物。いつでも戦闘態勢に移れるよう神経を研ぎ澄ましながら、相手の出方を待つ。

 車はゆっくりと減速し、俺の数m手前で停車すると、助手席の女が降りてきた。


「君はここのコロニーの人?」

「そうですが」

「食料と燃料を分けてくれないかな?」


 目鼻立ちの整った長い黒髪の女性に、そう言われれば普段なら、拒否るハードルは高いはずだか、この状況ではそうはいかない。いや、俺がいるコロニーではある程度の食料は自給できるが、燃料は特に補給のめどがない。そんなものをくれと言うのは、平穏な時代での強盗並みの要求だ。


「さすがにそれは無理でしょ。

 それに車何台あるんですか?」


 そう言いながら、後続の車の台数を確認しようとした時、女が降りてきた車の後部ドアが開いた。

力ずくのごり押しに出るつもりか? 

 そんな警戒心を抱きながら、注目していると開いたドアから出てきたのは、10代半ばっぽい可憐な女の子だった。淡い色の服が太陽の光を反射して輝いているためだろうか? それとも、大きな瞳が俺の心を打ったのか、見た瞬間に天使だと思った。

 が、そんな俺の想いに対し、その少女の方は全く俺に興味を示さず、俺がさっき殺したばかりの地面にころがる鋼鬼の肉塊をしゃがみ込んで見ている。

 まだ、それほど変色もせず、赤い液体が陽光に輝き、鉄っぽい臭いさえ放っている空間で、その子は肉塊をつまんで、観察している。

 その手の研究者? なんて思いさえ抱いてしまう光景だが、明らかに年は10代半ばっぽくて、今の少女の行為は似つかわしくない。


「な、な、何してるんだ?」


 とりあえず、少女の行為の意味を知りたいと言う本心と、話しかけてみたいと言う興味本位の気持ちから、そう声をかけると、少女は立ち上がり、俺の前までやって来た。


「ねぇ。あれって、殺ったばかりだよね?

 誰がやったの?」


 陽光を瞳が反射しているだけなのかも知れないが、少女の目は輝き、表情も生き生きとしているのは、何者かが多くの鋼鬼を倒したと言う事実を喜んでいるのかも知れない。としたら、それをやってのけた俺は、この子に好印象を与えるに違いない。そう打算的な事を考えながら、俺は胸を逸らし気味にして言った。


「それは俺だけど」

「これを一人でやったの?」

「この程度は当たり前だ。

 でも、今日はちょっと少なめだったかな」

「これって、どんな武器を使ったの?」

「これだよ」


 そう言うと、レーザーソードを起動した。

 俺の右手がつかむレーザーソードの柄から伸びる青白っぽい光の刀身を、少女が目で追って行くと、にんまりと微笑んだ。


「これって、刀身が目にくっきりと見える理由は分かんないけど、物としてはレーザーみたいなものなのかな?」


 口で答えてもよかったのだが、ちょっともったいぶって、言葉ではなく、力強く頷く仕草だけで返した。


「すごいじゃない。

 このコロニーには、こんな武器がいっぱいあるの?」

「いや、これだけだ」


 本来は詩織の分だった、もう一本ある事を言う必要はない。俺はそう嘘をついた。


「ねぇ。私たちと一緒に行かない?」


 少女はそう言うと、レーザーソードの柄を握りしめている俺の右手を、両手でぎゅっと握りしめてきたので、ちょっとドキッとした。女の子と触れ合う事にそれほど耐性がないところに、天使のような女の子の方から、突然手を包み込むように握られ、平然としてなんかいられない。そんな俺に対し、少女がきらきらとした瞳で、俺をじっと見つめ続けているので、俺の胸の鼓動は無限大まで高鳴っている。


「ねぇ。行こうよ。

 私たちは全ての鋼鬼を排除するために、首都のある場所を目指しているの。

 あなたも鋼鬼がいなくなればいいと思っているんでしょ?」

「そりゃあ、そうだ。

 て言うか、それは誰でもだろ。

 ある場所ってどこなんだ?

 そこに行けば、鋼鬼をいなくすることができるのか?」

「ある研究所。そこに行けば、鋼鬼をすべて駆除できるの」

「マジか?」

「うん。だから、ねっ!」


 握りしめたままだった俺の手を握る両手にさらに力を込めて、にこりと微笑みながら、小首を少し傾げてみせた。鋼鬼を駆除する。それは俺としては望むところだ。


「分かった」


 拒否る理由はない。俺は少女の提案を受け入れた。この子と一緒に旅したいと言う邪な気持ちからじゃない。少しはあるが……。

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