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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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戦いの結末

 体育館に集められた生徒たちの山を掻き分け、政府側超人で居残っていた白木が姿を現した。なんで、ここで自分たちの存在をばらすのかと、ちょっと怒った顔を向けているのは超人たちにではなく、梶原にだった。


「すまない。すまない。

 でも、すがるとしたら、君しかいないんだよ」


 震える声で梶原が白木に言った。

 白木たち超人がいる事を隠して、隙を突く。そう言う作戦を企てていると考えていた聡史は、目を点にしていた。


「仕方ないなあ」


 そう言って、白木は全く怯む様子も見せず、歩み続けている。

 縮まって行く間合いに、今にも衝突が始まってしまう恐怖に囚われた生徒たちが、体育館の片隅にじりじりと下がり始めた。


「お願いだ。大切な生徒たちが怪我をしないように」


 この場で起きる衝突に怯えている生徒たちの様子に気づいた梶原が、そう言いながら白木を拝む仕草をした。

 その言葉と仕草に、白木は立ち止まり、梶原にちらりと視線を向けた。


「はぁぁ」


 白木は大きく息を吐き出したかと思うと、超人たちに視線を向けた。


「あんたたち。外で片してあげちゃうから、ついてきなさい」


 そう言い終えた時、白木の姿は体育館のドアの前にあった。

 ドアをスライドさせ、開いたかと思うと、白木はくいっと顔を振って、「ついてきな」的な仕草をして、姿を消した。

 少し戸惑いの表情を浮かべた超人たちだったが、お互いを見て頷き合った。

 政府側の超人の能力は自分たちより上であって、その攻撃力の差はほぼ2倍。

 とすれば、この人数でかかれば勝ち目は十分ある。

 そう言う結論にたどり着き、戦いに臨む決意をしたらしく、梶原の前に立っていた超人も、寄り集まっていた超人たちも姿を消した。

 それとほぼ同時に校庭から聞こえてくる音と声。

 何かが砕け散る音。何かが地面を滑る音。

 外の様子を知りたい。

 でも、怖い。

 そんな気配を感じた梶原が大きな声で言った。


「外は危険だ。絶対出てはいけない。

 その場でずっと待っていてくれ」


 怖い物見たさ。

 そんな気持ちに揺らぎそうになっていた生徒たちの動きは止まった。


「森本さん。中内さん。

 白木さんを援護してあげてください。

 白木さんにもしものことがあったら、大変です」


 梶原が白木と共に、この場に残った政府側の超人たちに呼びかけた。


「そうだね。私たちも行こうか」

「うん。だね」


 その言葉を残して、二人の超人の少女たちの姿が消えた。

 ゆっくりとだが、自動で閉じる構造の体育館のドアが閉じ、外と体育館の中を完全に隔てた。

 外部の状況を伝えるわずかな情報は空気の振動による音のみである。

 体育館の外から聞こえる音がさらに激しくなった。

 二人が参戦したんだろう。

 男のうめき声が何度も響いているところから言って、白木たちが優勢そうな事は体育館の中にいても分かるが、相手も高速再生と治癒能力を持った超人だけに、いくら攻撃力の高い政府側の超人少女たちであっても、瞬殺なんてことはあり得ない。

 鳴りやまぬ激闘の音。


「お願い。勝って、白木さんたち!」


 体育館の中、一人の声がした。

 それは連鎖反応を引き起こし、体育館の中は生徒たちが白木たちを応援する声で満たされ始めた。生徒たちの何人かは両手を胸の辺りで結び、祈りながら応援している。

 体育館の中の生徒たちは全ての自分たちの運命を、白木たちに委ねた状態だ。

 そんな中、梶原が動いた。


「先生。生徒たちが外に出ないよう、お願いします」


 近くにいた先生にそう言うと、体育館の出口に一人で向かい始めた。


「梶原先生。どうする気だ」

「様子を見てきます。

 先生方も、中で待機していてください」


 梶原はそう言い残して、歩を緩める事もなく、出口を目指し続け、姿をその向こうに消した。

 体育館の中の生徒たちの声援が外の音をかき消していて、外の様子は体育館の中からは、はっきりとは分からなかったが、壁際で耳をそばだてていた一人の先生が、外の音が静まったのではと言う事に気付いた。

 その先生の指示で、祈りのような声援は打ち切られ、体育館に静けさが戻ってきた。

 静まり返った体育館の中だけではなく、さっきまで聞こえていた外からの戦闘音も聞こえない。

 体育館の中を包みこむのは安堵感。

 きっと、白木たちが勝ったに違いない。

 そう思いながらも、もしも違っていた場合を恐れ、生徒たちはもちろん、先生たちも、その場を動けないでいる。

 その不安の原因は、全てが終わり安全が確保されたのであれば、白木か梶原が戻って来ていいはずだと言うのに、誰も戻って来ない事にあった。


「どうなったんだ?」


 一人の生徒の言葉に、みんな堰を切って疑問の声を上げ始めた。


「終わったんだよね?」

「どうして、誰も戻って来ないの?」


 外の状況がどうなっているのか、分からないもどかしさに負けた聡史が、その場でおろおろするばかりの生徒たちを掻き分け、体育館の出口を目指し始めた。


「おい。どこへ行く」


 聡史の姿に気付いた先生がそう言って、聡史の後を追いかけはじめた。

 それに気付いても、聡史としては走って逃げる理由などない。

 歩調を上げる事もなく、出口を目指していた聡史は、出口の手前数mのところで、先生に肩をつかまれて、引き留められた。


「いつまで、ここで潜んでいるつもりですか?

 外の様子を見ないと、何も分からないじゃないですか」

「しかし、生徒を危険な目に遭わせる訳にはいかない」


 他の先生たちも集まって来て、二人を取り囲んだ。


「僕が行きましょう」


 一人の先生はそう言うと、出口に向かって歩き始めた。

 ドアのところにたどり着いた先生が、両手で大きなドアをスライドさせると、ゆっくりと外からの光が差し込んで来た。

 開いたドアの向こうにはいつもと変わらない校舎が間近に見えている。

 白木たちの戦いが行われたであろう校庭は、この開いたドアからは見えない。

 先生は外に出ると同時に、校庭が広がる体育館の左側に目を向けると、一瞬、大きく目を見開いたかと思うと、校庭に向かって駆け出した。


「何かあったんだ」


 先生の反応に、みんなはすぐにそう感じた。いや、それは当然だ。超人たちが戦ったのだから。だが、今、そこがどうなっているのか?

 先生が駆け出したと言う事は、少なからず安全と言う事だろう。

 聡史を取り囲んでいた先生たちの内の何人かが駆け出すと、聡史も校庭目指して駆け出し始めた。


 先に駆け出したはずの先生たちを抜き去り、体育館の外に出て、聡史が校庭に目を向けた。

 硬いコンクリート舗装の上に小さな砂で覆っていた校庭は、コンクリートが砕け散り、大きな穴がいくつもあいていて、校庭の隅に植えられていたイチョウの大木の何本かは折れていた。

 本校舎と校庭の間に建つ旧校舎の一階の壁の一部も陥没していた。

 超人たちの戦闘力の凄まじさを物語っている。

 聡史はあえて目を背けていたが、超人たちの戦いの跡を最も物語っていたのは、校庭の砂を真っ赤に染める血の跡だった。

 超人たちには再生力がある。

 たとえ、骨を折られてもすぐに再生する。

 いや、手首をもぎ取られてさえも再生する。

 が、そのためには、自分自身の体の中にある成分を使用する必要があり、それが尽きた時、再生できなくなり、死を迎える。

 もちろん容易ではないが、首をもぎ取る事ができれば、それは即、死につながる。

 校庭のいたるところが真っ赤に染まり、超人たちの肉片や破壊された肉体が残骸となって、転がっていた。

 立っている者は一人もいない。

 相打ち?

 あり得ない事はない。

 戦闘力で勝っていても、数では白木たちは劣っていた。

 超人たちも勝算ありと判断したからこそ、白木たちとの戦いに臨んだはずだ。

 そんな思いで、白木たちの姿を聡史は探した。

 それは先生たちもだった。

 すでに敵はいないし、危険もない。

 そう感じ取った先生たちが校庭の隅々に散らばった。

 その頃には、体育館の出口から、恐る恐る生徒たちが姿を現して、外の様子を確認し始めていた。


「来てくれ」


 一人の先生の声がした。

 旧校舎の向こう。

 陰になって見えない場所を指し示している。

 何人もの先生がその場所を目指し始めると、聡史もそこを目指し始めた。

 旧校舎の向こう側。そこに聡史がたどり着いた時、立ち止まっている先生たちの先には、白木たち三人が倒れていた。

 ここに侵入してきた超人たちが肉体的に破壊され、死を迎えたのとは対照的に肉体的な損壊は見られなかったが、ただ崩れ去ったかのようなまま地面に突っ伏して動かない姿が、彼女たちがすでにこの世にいない者達であることを感じさせた。

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