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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

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9/23

Ver.0.8

 町は一気に騒がしくなった。

 森の向こうからまっすぐこの町へ向かってくる一匹の蛾、いや、どちらかというとフワフワモコモコの可愛い真っ白なカイコガに似ていたが、そのスケールは可愛くなかった。オレの倍以上も大きく、さらに本体よりも大きく変異した羽六枚を広げればより大きく見えてくる。

 そんな巨大なセンチネルを目撃すれば、誰だってパニックになるのは当たり前だろう。


(あの姿……やはり、最初のミッションの相手で間違いないな)


 町を迂回し、オレは対象を確認するとすぐ様ニーアが待っている森の中へと戻った。

 ストーリー上のファイスでは、一度壊滅状態から復興する際に、サークレイが残した武器を利用していたから、なんとか持ちこたえられた。

 だが、今はそれが無い状態だ。町の者達があのセンチネルを追い返すのは不可能に近い。


(コハルが欲張って持って帰ってきた物騒な武器がこんなに早く役に立つとはな)


 無論、全員避難できれば良いのだが、突然のことなので町は混乱し、対処が遅れている。

 このままでは町は壊滅状態になり、大量の死傷者を出すだろう。

 そもそも波動人形どころか、センチネルの襲撃なんて今まで経験していなかっただろう町の人達が、この状況で落ち着いて対処していられる方が、波動人形のオレとしては怖かったりする。

 後は相手だが、アイシャがそうだったようにあのセンチネルも攻撃手段や動きはゲームと同じなはずだ。倒せないにしても時間は稼げる。


(ノウン……アイシャの時みたいにお前を酷使するかもしれないが、上手く乗り切ってくれよ)


 オレはニーアが待つ場所に到着すると、そこに呼んでもらったコハルを見た。


「それで? 私はなにをすれば良いの?」


 コハルは慣れたもので、なにもないオレの顔の方向から視線を考慮し、自分になにか用があると察して話しかけてくれる。

 ニーアといい、コハルといい、この短時間でオレというモノへの理解が早くてとても助かる。

 さて話を戻して、コハルのやる気があって大変喜ばしいのだが、幼気な少女に危険なことを頼むのは正直気が引ける。

 だが、町に入って目的の場所へ行くにはオレは不適格すぎるのだ。

 オレの言うことを信用し、町中を怪しまれず行動できるのは現状コハルしかいない。


【時間がないから手短に説明する。今回のセンチネル襲撃は人為的であり、接近中のセンチネルは奪われたモノを取り返しに来ているため、確実に町中に入ってくる】


 オレのチャットを受け、お願いしなくてもニーアがそのままコハルにタブレットで伝えてくれた。


(流れるような作業。ニーアも手慣れてきているな~)

「奪われたモノ?」

【自分の子供だ】

「センチネルの幼体! それって凄く貴重じゃない! 出会うのだって中々ないし、仮に手に入れたって親が怒って、あっ……」


 勘の良いコハルはオレの話と現状を結びつけた。


【ああ、先程のサークレイ研究機関の連中は奇跡的にも幼体の捕獲に成功し、こっそりここファイスで研究しようとしていたんだよ】

「なんで、ここで?」

【研究場所は親に察知されないように、幼体の波動が微弱になる波動具を仕掛けていたはずだ。もしなにかの間違いでその装置が止まり親に届いた場合、襲われるのはここファイスであって、自分達の研究施設ではない。理由はそれだ】

「……やっぱ、クソだね。あの連中」


 再びコハルの口からはしたない感想が出る。説明しててオレもそう思ったのでもう窘める気はない。


「でもさ、仮にそれが本当だとして、なんでノウンはそんなに詳しいの?」


 コハルの至極ごもっともな意見が飛んできて、オレは一瞬焦るが、これは前々からニーアに共振ブーストの件を聞かれたらどうしようと、色々考えていたので比較的冷静さを取り戻せた。


(そういえばニーアは結局なにも聞いてこなかったな)


 一番なのは、オレが転生者でこの世界がオレの知っているゲームに似ているということを素直に話すことだ。

 だが、荒唐無稽すぎて信じてもらえないかもしれないし、それによって周囲の運命シナリオがどう変化するのか分からなくなる可能性があるのであまり使いたくない。

 なので、無難中の無難な回答を用意していた。


【サークレイ研究機関の施設内に保管されたモノの中にそういった報告書があったんだ】


 実際、そんな報告書はないが、言われるとなんかありそう気がするという相手の心情を利用したゴリ押し戦法である。


「へぇ~、なるほどね。ノウンってばいつの間にそんなの読んでいたの?」


 コハルは別に疑って質問しているわけではなく、話の流れでそう聞いたのだろうが、それについては回答を用意していなかったオレは焦りまくっていた。

 こういう時、意識と身体が離れていると大変助かるというものだ。身体の方はなんの動揺も示すことなく、シレッと立ち続けている。


【それよりも、もちろんノウンは幼体の場所を知っているのよね?】


 オレが返答に困っていると、ニーアがタブレットで話を進めてくれた。


(ありがとう、ニーア。でもなんか文章にもの凄い期待感が含まれているのはなぜなのかしら?)

【ああ、もちろんだ。町に入って北東、廃屋になった場所からさらに進んだ先にある破棄された古井戸を降りた先だ。それと一つ、気をつけなくてはならないことがある】

「なに?」

【波動具を解除した研究員が、拘束された幼体を傷つける】

「な、なんでそんなことを!」

【親を確実にここへ呼ぶためだ。しかも、逆上して見境がなくなるのを期待している】


 ゲーム上では追い詰められ、自暴自棄になった研究員は、自分の研究を盗まれまいと町ごと施設を破壊し、証拠隠滅を図るためにそんな行動をとるのだった。


(誰も盗むつもりはないのに、自分勝手で話も聞かず周りが見えない面倒な相手だったよ)


 おそらく今回はアイシャと見境がなくなったセンチネルが争うように仕向けたいという考えで同じ行動を取るだろう。

 ゲームでは後手後手に回ったため、幼体は傷つけられ、さらに主人公が介入したことで拘束が解け、幼体が男を襲い両者が死ぬという最悪の結末になった。

 これにより親は怒り狂い、主人公は町の全戦力を持ってセンチネルを退けることになる。


(サークレイからくすねてきて絶賛開発途中の波動弩弓だっけか? 登場した時はご都合過ぎるだろうと思わずツッコんだけど、今はここにないんだよな)


 それで撃退に成功はしたが、町は半壊、罪のないセンチネルの母子は死ぬという苦い結果に終わっていた。


【コハル。研究員は武器を所持しているし、幼体を解放できたとしても油断するな。相手はキミらを敵視している。最悪、研究員を襲い、相討ちになるかもしれない。そうなったらもう親を止めることはできなくなる】

「……そ、そうだね……」


 コハルはオレの言葉に緊張した面持ちで口数が減っていく。


(いくら主人公だからって、若干十四才の少女に町の命運を託すなんて酷な話だ)


 オレは跪くエモートをして少しでも目線を合わせる。


【コハル、責任重大なことを頼むが……できるか?】

「う、うん……うん! やってやるわよ! 幼体の確保。武器を持っているといっても相手は研究員で非戦闘員なんでしょ。私だってお父さん達からそれなりの訓練を受けて、野獣とか狩ってるんだからね」


 確かに過去編の話で、ロイドは修理屋の主人であり、自警団のリーダーでもあった。

 そんな男からそれなりの訓練を受け、狩りもしているのだ。只の一般人よりかは戦闘能力は高いだろう。だが、まだ子供だ、心配ではある。


「私達の町を好き勝手にはさせない! 幼体は私が取り返して、親に返すわ! そうすれば町を守れるのよね?」


 オレを見るコハルの期待に満ちた眼差しをオレは素直に受け止める自信がなかった。

 というのも、ストーリーの結果は悲惨なもので、この計画はこうだったらきっと救えていたはずだというオレの願望から作られたものだからだ。

 つまり、幼体を返しても親が許すとは限らない。


【きっと上手くいくわ。頑張ろう】


 オレとコハルに見えるようにニーアがタブレットを見せて微笑んでくる。

 彼女に言われたらなんかできそうな気になってくる単純なオレであったが、どうやらコハルも同種らしく、元気に返事をしていた。


【よし、オレはセンチネルがオレに攻撃を集中するようになるべく立ち回るが、目的がオレでない以上、町の外に誘導し続けるのは難しくなる。最悪町中の戦闘になるから、巻き込まれないよう注意しててくれ】

「あ、ノウンは波動人形だから町中だと皆に誤解されるかもしれないよね……その時は無理に町中に入らない方が良いのかな……でもそれだと町の皆が」


 子犬のようにシュンとなるコハルを見て、オレは自然と近づき頭を撫でるというマップアクションを試みていた。

 すると、ノウンはオレのイメージ通りにアクションを起こす。

 オレの意外な行動にコハルは驚き、オレを見ようとするが頭を撫でられている所為で上手く見上げることができないでいた。

 パッと後ろに下がって撫でられた頭を抑えながらこちらを見てくる。


「な、なによ、いきなり。髪が乱れちゃったじゃん」


 文句を言ってはいるが、その表情は迷惑がっているというより恥ずかしそうだった。


【子供が要らん心配をするんじゃない。コハルは自分のすべきことに集中しろ。まぁ、なるべく早く幼体を確保してくれたら嬉しいけどな】


 オレのチャットに一瞬だけニーアが遅れてタブレットに書き始める。


(ん、どうしたんだニーアは? 文になにか思うところとかあったのかな?)


 文というよりかは先程のオレの行動のような気がするが考えすぎだろう。


「わ、分かってるわよ、任せて!」

【よし、それじゃあニーアはここで待機しててくれ。こちらに被害が出ないようにして、キミはオレが守る】


 そのチャットを受けたニーアが「え?」と驚いた顔でオレを見る。


【私はノウンと共振ブーストしてサポートするんじゃないの?】


 ニーアはタブレットに書くことなく自分の声でオレに伝えてきた。


【ダメだ。キミにあんな大きな負担を強いることはできない。ニーアはなるべく安全な場所で待機していて欲しい】

【それって、私に見守っててということ? コハルには任せるのに?】

【コハルはこの町の地理に詳しいから任せるんだ。コハル以外の大人に頼めるなら頼みたいけど、今からオレの存在を理解してもらい、協力してもらう時間はない】

【それじゃあ、私はコハルのサポートをする】

【ニーア、キミは戦士じゃない。無理をしないで欲しいんだ】

【それを言ったら、ノウンだって無理して一人であのセンチネルに立ち向かうんでしょ。共振ブーストなしでなんて危険だよ。また、あの波動人形と戦っていた時のように刺されて……】


 あの戦いを思い出したのか、今度はニーアがシュンとし始めた。とはいえ、アイシャの件を言われると言い返す言葉が見つからない。

 言い淀んでいると、ニーアが涙目になってこちらを見つめてきた。こんな波動人形のオレを心配してくれているニーアを守りたいのに、力不足で彼女に頼らなくてはならないのが歯がゆくて仕方が無い。


「あのぉ、二人だけの世界でイチャついてるトコごめんだけど、そろそろ話進めても良いかしら?」


 オレとニーアがチャットと声で言い争っていると会話の内容を全く分からないはずのコハルが呆れた顔で間に入ってきた。


【イチャついてないもん】


 コハルの言葉に赤面し、焦りながら殴り書きして、ニーアがタブレットを見せる。


「はいはい、さっきの文章の流れからして、どうせニーアは待機しろ、そんなのいやだって言い合いながらも、お互い心配し合ってたんでしょ。付き合い短いけど、あなた達の行動原理って分かり易いのよね。皆のため、ニーアのため、まぁ、そういうの嫌いじゃないけどさ。今はとにかく時間と人手が必要だよね、ノウン?」


 ニーアと同い年のお子ちゃまのくせに随分と分かったような口を利く。

 だが、コハルの言う通り言い争っている場合じゃない。これは時間との勝負でもある。

 ニーアはああ見えて他人のことになると結構頑固だから、説得するのに時間が掛かるし、無理に待機させると勝手な行動をされる恐れがある。

 ならば、コハルと一緒に行動していた方が安全かもしれない。


【そうだな。ニーアにはコハルのサポートをしてもらおう】

【ノウン】


 オレの言葉にニーアが喜び、それをコハルに伝えていた。


【だからといって率先して前に出ないこと。危険と分かっていて深追いしないこと。自分が犠牲になればなんて思わないこと】

【わ、分かったから、そんな一度に言わないで】

【いや、まだまだ気をつけてもらいたいことが】

「あのぉ~、お二人さん。私の言ったこと理解してる?」


 再び二人だけで会話し始めて、コハルが溜息交じりにしゃべりかけてきた。

 極力ニーアとチャットでしゃべらないという誓いはどこへやら、彼女がオレから離れて危険なことをしようものなら、心配で心配で無口ではいられなかった。


【すまない。では武器を持ち、行動を開始しよう】

「OK! それじゃあ、私、じゃなくて、私達がしっかり幼体を確保してくるわ!」


 そう言って、コハルがニーアを見ると、彼女は緊張しているがやる気に満ちた表情で頷くのであった。


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