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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

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7/24

Ver.0.6

「そ、そんなことがあったのぉっ! ニーアァァァッ、よく耐えたねぇぇぇっ!」


 大号泣しながらコハルはしきりにニーアをハグし、ヨシヨシと頭を撫で続けていた。

 あれからコハルをファイスへ帰すため外に出る準備をしていた。もうここには戻らないつもりだし、旅に必要な物があれば用意したい。オレは波動人形なので幸か不幸かそういった物を必要としなかったが、ニーアには必要だろう。

 そこら辺をコハルに助力してもらい、オレはそれを集めて運んでいた。そんな中、身体を休めていたニーアが自分のことをコハルに少し話し、その結果が先の号泣ハグであった。


(辛い過去なのに、よく話せたよ。ほんと、よく話せた。偉い、偉いぞ、ニーア。この気持ちを……はい、自重します)


 感極まって再びなにか良いエモートはないかと探そうとしたが、ギリ留まることができた。


(フフッ、オレだって成長するのだよ)


 威張れるようなことではないのだが、それはそれとして、この準備時間内で分かったこともある。

 オレが疑問に思っていたニーアがオレのチャットをどう受け止めているのかということだ。

 コハルがオレ達を見て、もしかして二人は会話しているのかと聞かれたのを機に、シレッとニーアに聞いてみたのだ。

 彼女の回答では、男の人っぽい声が頭の中に直接響いてくるみたいな感じなのだそうな。

 現代風に言うとテレパシーみたいな感じだろうか。

 その回答を見たオレは滝汗が、出ないが、それくらい焦った。

 文章だからと思って色々小っ恥ずかしい台詞とかも書いていたが、その実、ニーアにはオレの声として届いていたということになる。

 しかも、棒読みというわけではなく、どうやら書いている時のオレの感情の揺れに沿って声のトーンも変わっているらしい。

 よくよく考えるとアイシャ達の声質はおそらく生前と同じか似ているだろう。ならば、今のオレの声も生前と同じ声質ということになる。


(いやぁぁぁぁぁぁっ! 恥ずかしいぃぃぃっ!)


 というわけで、この件についてはこれ以上深く考えないことにしていた。ついでにチャットも不用意に送らないと誓っている。


「とぉにかく、ここの連中はクソだっていうのは分かったわ! 戻ったらお父さん達にも報告する!」

(正統派主人公で可愛らしい娘っこがそんな汚い言葉使っちゃいけません)


 自分も似たような評価をしていた気がしたが、それはそれ、これはこれということで。

 コハルがクソと断言したのはニーアの話だけではない。色々物色していた時に偶々ニーアが休んでいる部屋で見つけた報告書の一枚にコハルの拉致洗脳計画なる物があったからだった。

 感情のままに破り捨てるか、信じられないと泣くのかと思ったが、コハルは怖いくらいに冷静で、その紙を自分のポシェットにしまいながら「これは良い証拠になるわ」と言っていた。


(コハル、恐ろしい子。やっぱ主人公を怒らせたらいかんですわ)

【それはそうと、コハル。あなたはそんなに荷物を持ち帰る気なの?】


 話題を変え、ニーアはオレが背負っている大きなバックパックを見ていた。


「うん、そうだけど。壊れている物もあったけど全部必要な物よ」

【そんなにも持ってノウンは大丈夫なの?】


 オレのことを心配してくれているようでオレは感動し、力強く頷きエモートをする、いや、いつもと変わらない頷きだった。


(ちょっとはオレの感情に沿った動きをって、無理か)

【そうなんだ。凄いね、ノウンは】


 さらに褒めてもらえて、オレは犬のごとく喜び駆け回りたかった。


(ニーアの為ならどんどん運びますよ! バッチ来いだ)


 オレはサムズアップするエモートをニーア達に披露する。

 実際問題、重さはそこまで感じられない。全てコハルがこの研究施設を物色してチョイスしたブツであったが、基本的には携帯でき、生活に役立ちそうなモノから、途中、売れそうな物ばかりを選んでいたような気がしたので、そこら辺を再度確認してもらおうとニーアに聞いてもらった。


【ノウンが、集める時これは皆ニーアの生活に役立つから運ぶのを手伝ってと言ってたけどって】


 コハルはニーアのタブレットを見た後、なぜかオレを見て視線を泳がせ始めた。


「あ、当たり前じゃん。全部ニーアの今後のことを考えて選んだんだよ。これ売れそうだなっとか、後でバラして中が見たいなっとか、全然思ってないから」

(うんうん、友達思いな良い子だな。さすが主人公)


 明らかにニーアには必要なさそうな物騒なモノも含まれていたが、今のオレは荷物持ちでニーアに心配され、しかも褒められたので気持ちは大らかだった。


「たまにちょっとだけ後学の為に貸してもらうかも知れないけど良いかな?」


 コハルはチラチラこちらを見つつ、ニーアにだけ聞こえるように寄り添ってヒソヒソ話をしているが、オレの地獄耳はしっかりと捉えていた。


(なんだろう、オレが怒るとでも思ったのだろうか? オレってそんなに怖い人形に……見えるよな~)


 今のオレはあの波動人形だし、コハルとのファーストコンタクトは良好だったとは言いづらかった。


「と、ところで、外に出る時ニーアはその服しかないの?」


 コハルに指摘され、ニーアは自分の姿を改めて確認した。

 簡素な服装。所謂、病衣を着ていたニーアは――。


【問題あるかな?】


 とわざわざオレだけに声を送ってきて首を傾げながらこちらを見てくる。


(ニーアはなに着たって可愛いよ! なんてチャットで送ったら最後、オレの声で推しの脳内に再生されるなんて恥ずかしすぎるだろっ)


 ということでオレはしゃべらずに、問題ない、どんな姿でも大丈夫だよと頷くエモートを選択した。


【問題あるみたいだから着替える】


 コハルに見せたタブレットの返答には、オレが意図したのとは真逆の回答が出ていた。


(う~ん、コミュニケーションって難しいなぁ)


 オレがなんとも言えない気持ちで天を仰いでいたら、視界の隅でとんでもないことが起こっていた。

 なんと、ニーアはその場で病衣を脱ぎ始めたのだ。


(おわぁぁぁぁぁぁっ!)


 不意打ちのごとく予想外の展開で、しかも相手は子供とはいえオレの推しだ。反射的に驚きを隠せないでいる。

 さらに、着痩せするタイプなのか、環境のせいで痩せ細っているかと思ったら、思った以上に肉付きが良かった。

 おそらく貴重な実験体なので健康管理はしっかりしていたのだろう。そこだけは評価に値する。そこだけだが……。


(十六才のニーアはもっとこう、大人顔負けの出るとこは出て引っ込むところは引っ込むボディラインだったが、その片鱗がすでに見え隠れしているだとぉ!)


 同一人物なのだから当たり前と言えば当たり前で、思わず一瞬見てしまった推しのあられもない姿と、十六才の時のプロポーションを不敬にも比較し驚愕しっぱなしであった。

 自称異性であるオレとしては、ここは狼狽えるべきなのだろうか。いや、そもそも今のオレは波動人形で人じゃないから狼狽えるのは却っておかしいのか。

 コハルもコハルで最初驚きはしたが、止める素振りはなく、施設から拝借した服の中から合いそうなモノを見繕いだしている始末だ。


(異性扱いどころか、いないような扱いを受けるのはバッチ来いなんだけど、こういう時にそれを発動されるのは心臓に、もとい、心に悪いので、こちらとしては事前申告して頂けると大変ありがたいのですが……)


 丁寧に言っても相手に聞こえるわけもなく、オレはとりあえず落ち着くため、その場を離れることにした。

 部屋を出て、オレはボ~と天井を見続ける。


(う~ん、なんだろう。ここは、ラッキースケベと喜ぶべきなのだろうか。いや~、そういうんじゃないんだよな~。子供だというのもあるけど、あの子はオレの推しで、守護るべき存在なんだ。こんなことで狼狽えて離れたりして、その隙になにかあったらどうするんだよ。しっかりしろ、オレ。もっと波動人形である自覚を持て)


 オレはこれからニーアを取り合うことになるだろうオルゴノアにいる数体の波動人形を思い出す。

 ゲーム上ではどれもこれも強敵だった。

 アイシャと戦った手応えだと、勝利への活路はありそうだが、それにはやはりニーアの協力が不可欠になってくる。


(なんとかならないものかな~。コハルという頼もしい主人公がもう味方になったけど、オレが知っているゲームシナリオからすでに外れ始めているから、彼女も今後どうなるのか分からないぞ)


 だからといって、あの子をシナリオ通りに憎しみに囚われ、波動人形と戦い続ける修羅の道に放り投げる気にはなれなかった。


(一番の解決策は、ニーアの実験データーを基に作られたとされている彼女を必要としない共振ブーストシステムを開発することなんだけど。あれはオルゴノアに連れ去られたニーアを実験、研究した『ドゥラー』が彼女亡き後、開発したモノをプレイヤーが手に入れた感じだからな)


 改めて考えると、ニーアと波動人形は切っても切れない縁で繋がっているように思える。しかも、その繋がりを断ち切ろうとしているのもまた波動人形と来たものだ。

 ドゥラー以外にこの件を頼めるとしたら、人間側ではサークレイ研究機関くらいだろうか。ファイス近くにあったこの施設以外にも研究機関はあるにはある。三百年の月日の中で組織は分裂し、各島へと移動した者達がいるのだ。

 だが、どれもこれも問題アリな集団ばかりで真面な人間がいないのがオレの印象だった。


(いや、もう一つあったな。ストーリーを進めることで行くことができる『研究都市ミショルド』……ダメだな、そもそも今のオレには接点もコネもなさ過ぎるし、波動人形のオレが友好を深めるにはハードルが高すぎる場所だ)


 陰キャのオレに友達作りは大変だ。しかも、姿が敵側で、会話ができないというおまけ付きと来たものだ。

 そうなると、これから向かうファイスだって上手く立ち回れるか不安である。

 ならば、この地でニーアを影から見守りながら、修行し自分が強くなるという王道展開は……オレにはできない。なぜなら、オレは人間の強みである成長がないのだ。

 いや、アイシャのようにボディを改良という線もあるのだが、そうなると一流の波動技師と設備が必要となる。

 話が戻って、そんなコネを作れるのかとなってしまった。

 いっそのこと、コハルを戦士から技師にジョブチェンジさせるという手もあるが、主人公である彼女の戦力を失わせるのは愚策のような気がした。


(オレ一人で全て守れるわけがない。必ずコハルの力が必要になってくる時もあるはずだ。でもまぁ、今となっちゃあ、ゲーム通りの職に就くのかも疑問だけど)


 ゲーム知識で先が見えるはずなのに、どうしてこう考えれば考えるほど先が見えなくなってくるのだろうか。オレはとりあえず、直近の問題を解決していくことにした。

 まずはコハルをファイスに送り届けることだ。

 これはオレがここからファイスまでの道のりを覚えているので問題ない。

 子供二人担いで移動しても大丈夫なくらいには今の身体は安定している。何事もなく、ショートカットで走って行けば二時間くらいで到着するだろう。


(のんびり行ったら日が暮れて深夜になるかな)


 ゲーム内では戦闘なしでひたすら走っていたらリアル時間で十分もあれば余裕で到着する距離だが、ゲーム内の時間ではそのくらい経っている。


(現実時間とゲーム内時間を同じと考えないようにしないと、距離感をミスりそうで怖いな。まぁ、予想外だったとしてもオレが休まず走り続ければ済むだけだし、問題ないだろう)


 オレは改めて、頼もしい相棒を見る。


(どう表現して良いのか分からないが、ニーアと共振ブーストしてから調子が良いんだよな。なんかつっかえていたモノがなくなって上手く流れ出したみたいな感じ?)


 自分のその曖昧な感覚に首を傾げるが、相変わらず身体はオレがやれと命令しないと傾げてくれない。


(ここら辺は変わらないな。う~ん、オレって将来的に身体と一体化できるんだろうか)


 さて、ファイスにコハルを届けるのは問題なさそうだが、その後だ。

 コハルは波動人形に対して危機感が薄かった。

 それは長年彼らに遭遇していないファイスだからなのかもしれない。

 とはいえ、確証のないまま接触して、敵認定されたらたまったもんじゃない。それで連れであるニーアにまで影響が及んだら、土下座では済まされないだろう。


(クッ、ゲームならなにも気にせず町の中に入れたのに、今のオレは入るだけで問題ありありだ)


 ニーアが人々の中で幸せに生活していく上でオレという存在がネックになるのは極力避けたい。

 他力本願だが、コハルに取り持ってもらうという手も考えたが、そもそもオレは彼女とコミュニケーションが取れないから、オレと唯一会話できるニーアに頼るしかなくなってくる。


(ほんとオレって戦闘以外、なんにもできないんだな)


 努力はしたいが方法が分からないのが現状だ。


(今後のことをニーアと相談した方が良いのかな。できる限り彼女の希望を叶えられるように努めたい)

「あっ、ニーアァ。ノウン、ここにいたよ」


 扉の横の壁に待機していたオレを、部屋から出てきたコハルが見つけて部屋の中へと声を掛ける。


「なに恥ずかしがってるのよ。さっきまでそんなの気にしてなかったじゃん」


 部屋の中が見えないのでなにが起こっているのか分からないが、ニーアになにかあったのだろうか。コハルが部屋へと戻っていく。


「え? 私が変なこと言うから意識しちゃったって? も~、可愛いんだから。ほらほら、こんな所でモジモジしてても仕方ないよ」


 当たり前だが中からコハルの声だけが聞こえてくる。一応会話しているみたいだが、ホント、なにかあったのだろうか。

 すると、コハルに引っ張られながらニーアが部屋から出てきた。


(おぉぉぉぉぉぉっ、か、可愛いぃぃぃっ!)


 なるべく自分に合ったサイズをチョイスしたのだろうか、それでもダボついている所は折ったりベルトなどで縛ったり留めたりして可愛くアレンジしている。


(装い一つで雰囲気が変わるものだな。さっきまではどこか薄幸の美少女感があったけど、今は、なんて言うのだろう、とっても美少女だ!)


 色々語りたい気持ちはあるのだが、可愛いしか思い浮かばない自分の語彙力の無さが恨めしい。


【どうかな、変じゃない?】


 モジモジしながら発したニーアの声がオレにチャットとして届く。


(ニーアのモジモジと恥ずかしそうな姿を拝めるなんて、なんという幸運だっ! そして、何度でも言うぞ。なぜフォト機能がない)


 血の涙を流せるのなら号泣レベルで流したい気持ちだが、それよりも、推しが返答を待っている。

 先のエモートでは行き違いが生じたので、ここはしっかりと言葉チャットで伝えたかった。


(な、なんて送れば良いんだ! 似合ってる、馬子にも衣装だね……って、これはダメだ。落ち着け、オレ)

【似合ってる。可愛いよ】


 悩みすぎて時間を掛けるわけにもいかず、オレは思った気持ちを素直に箇条書きで伝えるという情けない結果で終わった。

 自分の不甲斐なさに悶絶していると、受信したニーアが一瞬強張り、顔を隠しながらピューンと部屋へ戻っていった。


(もしかして、オレは選択ミスをしたのか?)

「なになに、なんて言われたの?」


 それを追っかけてコハルも部屋の中へと戻っていき、廊下に残ったオレは一人ポケ~と立ち尽くしながらも、心ではハラハラドキドキしていたのであった。



 

 しばらくして二人が部屋から出てくる。

 ニーアも先程とは打って変わって落ち着いており、モジモジしたりしていなかった。


(う~ん、年頃の女の子はオレには分からん)

「さて、忘れ物はないかしら。出発するわよ」


 改めてコハルが出発の音頭を取る。


「確認だけど、本当にノウンはここからファイスの道を知ってるんだよね」


 コハルに言われて、オレは頷きエモートをする。


(よしよし、だんだん慣れてきて、結構早く反応できるようになったぞ)


 まぁ、それだけ頷きBOTと化していたのだが、いよいよここから旅立つ時が来たようだった。

 さっき転生してきたばかりでこの場所に思い入れはないはずなのに、あの戦いを思い返すとしんみりしてくる。

 オレはニーアに近づくと流れるような動きで彼女を抱え上げた。


【驚かせてごめん、ニーア。キミが辛そうにしているのを黙ってみているわけにはいかない】


 ここまでの様子を逐一見ていたオレは、普段通りを装っていても、ニーアが時折辛そうにしているのを見逃してはいなかった。

 ニーアにそれを指摘しても、彼女は大丈夫と我慢するだろう。だから、オレはもう移動しかない段階で有無も言わさず運ぶことにしたのだ。

 俺の意図を理解してくれたのか、最初驚きはしたけど、チャット後は抵抗することなくオレに抱えられたままになっている。


「ちょっと待って。ニーアはそれで良いかもしれないけど、私はどうすれば良いわけ?」


 腰に手を当て半目になり、不満そうな顔でコハルがオレを見上げてきた。

 ごもっともな意見だが、考えがないわけではない。


【肩車する】


 一旦チャットでニーアに伝えると、彼女はそれをタブレットでコハルに伝えた。


(う~ん、伝言ゲームになってしまった)

「かぁたぐぅるまぁ~、でかいバックパックが邪魔で座りにくいぃ! 私だって抱っこの方が良いぃ。ニーアばっかりずるいぃ」

(我が儘言うんじゃありません)


 などと、親目線で物を言うわけにもいかず、オレは二人を抱えることができるのか、試すことになった。

 なぜなら、そうしないとニーアが恐縮して席を譲ってしまい、自分は歩くとか言い出しそうだからだ。


(頼む、ノウンよ! 空気読んでくれぇぇぇっ!)


 オレはニーアを抱えたままコハルに近づき、こちらも抱え上げるイメージでマップアクションの指令をする。

 するとどうだろう。オレの危惧していたニーアを放り投げてコハルを抱え上げるという最悪な動作を……するわけではなく、片手ずつで器用に二人を持ち上げていた。二人共肘を曲げたオレの前腕部分に器用に座っているのだ。


(凄いぞ、ノウン! アンノウン時代とは大違いだぁぁぁっ!)

「よぉし、準備OK! 出発よぉっ!」


 こうして、オレ達はようやくこの施設を後にするのであった。

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