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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第二章 運命に翻弄されるもの

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22/23

Ver.2.0


「どうやらお前は死にたいようだな。私に殺されるか、後でロイドに殺されるか選ばせてやる」


 ギルド長の話を聞いた途端、アンナさんが彼の胸ぐらを掴んで圧を掛けてくる。

 その気迫に周りも固唾を呑むことしかできないでいた。

 いや、コハルとシエラさんは「あちゃぁ~」と頭を抱えており、気圧されてはいないがどう説得して良いのか分からないみたいでなにも言えないでいる。


「待て待て待て、早まるな。見に行くだけだからっ! ただ見に行くだけだからっ! なにもしなくて良いし、クラスの高い連中を同行させるから許してぇぇぇっ!」


 そんなアンナさんの圧を受け、恐怖で震え上がりなにも言えなくなることなく、果敢にも提案する人がいた。当事者のギルド長のその胆力は賞賛に値するものだが、言ってることは終始情けなさそうに聞こえるのが残念で仕方ない。


「ハイクラスの冒険者なんてここにいたか?」

「無茶言わんでくれ。せいぜいローかロー+が限界だ」

「お母さん、私は大丈夫だって! なんてったって私はニーアやノウンとパーティーを組んでいるんだからねっ!」


 ギルド長の提案とコハルの言葉にアンナさんは納得できたのか、冷静になってギルド長を解放するのであった。


 ちなみに、冒険者にも実力に対するクラス分けが存在している。波動人形と同じくロー・ミドル・ハイとなっているが、ほとんどがロークラスであり、ミドルクラスはそこそこ名の知れた人物になる。その中でハイクラスになった者はほんの一握りだ。


 波動人形と同じ分け方をしているが、実力も同じというわけではなく、人がミドルクラスだからといって波動人形のロークラスに勝てるかというと全く歯が立たなかったりする場合もある。あくまで人間の中での話なのだ。


【ところで、どうして元採掘場の再調査なんて今するのですか?】


 場が落ち着いたのを見計らって、ニーアが皆に見えるようにタブレットを見せる。

 このやり取りはここ数週間、ニーアも町の人と色々やり取りをしていたおかげで戸惑う人は少なかった。


「ふむ、良い質問だね、ニーアちゃん」


 話を進めてくれたことにギルド長は感謝しつつ、依頼内容を説明し始める。


「サークレイ研究機関の施設については知っているかな?」

【はい、ものすごく】


 失った威厳を取り戻すべくギルド長が話し始めたが、その質問にニーアがシュンとなりタブレットで返答すると、ギルド長の隣に控えたシエラさんが笑顔のまま彼の脇腹に肘鉄を喰らわせていた。

「うぐっ、あぁ~、コホン……でだ、冒険者と自警団数名を引き連れて出かけたロイドが狂喜乱舞しながら、その施設内を盗賊のごとく漁っていっぐっ」


 言葉選びが悪いようで、アンナさんが再び殺気だつと、それを見たシエラさんが先程より強めに肘鉄を喰らわせる。


「き、昨日、先に戻ってきた者の話を聞いた町長の依頼で波結晶の採掘量を増やさないといけない可能性がでてきたんだよ」


 脇腹を摩りながら話し終わるギルド長の姿に威厳もへったくれもなく、なんかとてつもなく尻に敷かれてそうな情けないおじさんの姿がそこにあった。


「あ~、あれ全部持って帰るとなると結構大変そうだけど、お父さんならやりそ~」


(まぁ、正規ルートでもファイスの文明が発展する切っ掛けになったんだから、結構なことじゃないか)


【それで、持ち込んでくる物の数によっては波結晶をより必要とすることになるかもしれないので、『あのセンチネルが飛び去っていった方角』にある採掘場の様子を確認してきて欲しいということですね】

「そういうこと! ニーアちゃんは物分かりが良くて助かるよ。じゃあ、そう言うことで、シエラくん、後のことはよろしく頼むよ」


 そう言うと、ギルド長はなにか言われる前に、シエラさんに丸投げして自分はそそくさとその場を後にした。あまりのスムーズさにこれが初めてではないように思える。


「よぉし、さっそく調査に行こう!」


 そんなギルド長を見送った後、コハルが元気に拳を掲げて嬉しそうに言ってきた。


【今から?】

「うん、善は急げって言うし」

「ちょ、ちょっと待ってください。ギルド長が言うように、手の空いている冒険者を同行させますのでそれまで待っていてください」

 

 コハルとニーアのやり取りを見ていたシエラさんが慌てて待ったを掛ける。


「え~、どうする?」

(良いね~。パーティー二人で仲睦まじく話し合ってキャッキャウフフしているのを後ろで眺める。ファン冥利に尽きますな~)


 推しと二人でてぇてぇしながら相談する様を後ろで眺められる幸せに浸ろうと思ってニーアを見てみれば、彼女はこちらを見上げてなにかを待っているようだった。「あれ?」と思って、コハルの方も見てみれば、そちらもオレを見てなにかを待っているように思える。


(も、もしかして、オレの言葉を待ってるのか?)


 思い返せば、サークレイ研究機関の時も、ファイスの時も、オレがしゃしゃり出て指示を出し、二人はそれに従っていたような気がする。


(まさか、オレをパーティーのリーダーに位置づけている? いやいやいやいや、このパーティーのリーダーは主人公のコハルだろ。波動人形が冒険者になろうとしているのだって異質なのに、パーティーのリーダなんてものになった日にゃ……)


【どうしようか、リーダー?】


 ニーアがオレとコハルに見えるようにしてタブレットで聞いてくる。だが、オレ達に見えるようにということは、近くにいるアンナさんやシエラさんにも見えているということだ。しかも、書く必要性のない言葉をあえて書いている。


(もしもし、ニーアさん。わざとやってない?)


 大人二人を見てみれば、「え?」という顔をして、確認の為か再びニーアのタブレットを凝視し始めた。

 そんな二人を見て、オレはスススッとタブレットを隠すように移動する。今のオレは、出ない滝汗を流し続けるイメージで頭が一杯だったが、これでなんとか切り抜けたとホッとすると……。


「ねぇ、ねぇ、どうするの、リーダー!」

(ちょ、バッ!)


 パーティーを作ったということは、誰かが統率するためのリーダーを務める必要があることはコハル達も理解しているようで、二人共嬉しそうに誰がリーダーかを決めると、周囲がギョッとした顔でこちらを見てくるのが分かった。


【波動人形がパーティーのリーダーはダメだろう】

【波動人形がリーダーになっちゃダメって規定はないはずだよ?】


 慌ててオレが異を唱えると、首を傾げてニーアがサラリとそんなことを書いて見せてくる。


(ニーア、ギルド長みたいなことを……くっ、仕草が可愛すぎて思わずなんでも言うこと聞いてしまいそうだが、ここは心を鬼にしなくては)


「そうだそうだ、規定にはないから大丈夫だし、私達に異論はないよ、ねぇ~」


 コハルとニーアが互いを見合って同じように身体を傾け、さらに可愛い仕草を取る。


(息ぴったりで、てぇてぇなぁ)


 その可愛さに再び見惚れていたオレは、ハッと我に返り、心の鬼を呼び戻してなおも食い下がった。


【リーダーってのは外部との交渉やら信頼やらと色々コミュニケーションが大事になってくるから、波動人形のオレでは必ずトラブルになるし、ニーア以外と会話ができないから無理だ】


 まさかここでこの欠陥が言い訳の役に立つとは思わなかったが、実際そういう場面に直面したら絶対問題が生じるのは明白だ。

 それは二人も想像できたのか、困った顔をしている。


(よし、これで大丈夫だ)

【それなら、そういう時だけ代理として私とコハルに任せて貰えば解決じゃないかしら】

「そうそう、それ良いね。私達がノウンを支えるみたいで素敵」


 ナイスアイデアだと思っていたのに秒で論破されてオレはどうして良いのか分からなくなった。

 そうしてなにも言えなくなったオレを見て、二人は嬉しそうに左右でオレの手を握ってくる。


「決定! フフッ、波動人形だからなんて、もう言わせないよ」

【うんうん、ノウンは私達が支えるから、安心してね】


 二人の言葉はとても嬉しかったのだが、なぜか魂がゾワゾワして、オレは二人の顔を見れないでいた。


(このゾワゾワ感は、アイシャが逃げる前にオレに話し掛けていた時と似ているような気がするが……いや、きっと両手に花みたいな事になっているから恥ずかしくって緊張しているだけだろ、うん、きっとそうだ……)


 実際恥ずかしいのは確かである。

 こんな美少女二人に囲まれてちやほやされているのだ。ふと、周りにはどう映っているのだろうかと心配になってくる。


(まぁ、異質に映っていると思った方が良いだろうけどね……あぁぁ、二人が変な人だと思われたらどうしよう。どうしようもできないんだけどね)


 混乱続きでもう自分でなに言ってるのか分からなくなってきたオレは、もうなにもかも一旦持ち帰って、この場は有耶無耶にしたくなってきた。


「それで、ノウンはどうしたいの?」

【と、とりあえず、シエラさんの言う通り、待機するということでもう帰ろう】


 リーダーじゃないと言いつつも、帰りたいオレはついついチャットで指示してしまい、ニーアは嬉しそうにそれをタブレットに書いてコハルに見せると、彼女も笑顔を見せた。


「オッケェ~。じゃあ、せっかくだし今日は冒険に必要な物を買い揃えて、今後のことを相談するためニーアん家にお泊まりだぁっ!」

 

 コハルの提案にニーアも賛成とばかりに頷き、そのまま二人してルンルン気分でギルドの外へと歩き出す。

 オレにしがみついたままで……。


(嘘でしょ? いやぁぁぁ、オレは放っておいて! オレを連れ回そうとしないでぇっ! 目立ってしまうぅぅぅっ!)


 オレはイヤイヤと首を横に振るエモートをし続け主張する。

 だが、オレからそもそも推しに逆らうとか、両手を振り解いて、二人を怪我させたり、シュンとさせる度胸はなく、それを理解されているのか、オレのエモートを無視して二人はグイグイと引っ張り、波動人形という異質な存在を町中に連れ出していくのであった。


(あぁ、オレってホント、推しに弱いというか、押しに弱いよなぁ~……)



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