↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第二章 運命に翻弄されるもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/23

Ver.1.9


「なるほど、波動人形を洗っていたのかい。この大きさだ、大変だったろう」


 コハルの説明にアンナさんは納得して、なぜか細かく汚れチェックをするようにオレをジロジロと見てきた。

 ボディに沿ってススススッと指を這わされた日には緊張して、思わず直立不動を決め込んでしまうが、ノウンは元々直立不動なので実際はあまり変わっていなかったりする。


(小悪魔じゃなくて良かったけど、なんかお掃除チェックする姑のような感じで、これはこれで緊張するぅ)


 この場合、オレは窓の冊子役なのだが、オレの所為でニーア達がダメ出しされないかとドキドキしてならなかった。


「それにしても、人通りが少ないからって年頃の女がそんな格好で外に居るのは感心しないね。コハルはともかく、ニーアちゃんはもうちょっと慎みがあると思っていたんだけど」

【コハルに無理矢理脱がされました】

「あっ、こら、ニーア」

「ったく、この子ったら……」


 一通りチェックが終わり許されたのか、アンナさんが溜息交じりにオレから離れ、二人の格好を指摘すると、ニーアがすかさずタブレットで返答し、それを隠そうとするコハルがいた。

 とりあえず、アンナさんの口振りからしてオレは見られちゃいけない人の部類に入っていないようだった。アンナさんにとってオレは波動人形、言わば波動具のようなものだ。

 それが正解だと思いつつも、このままオレを異性の人みたいに扱う節がある二人の乙女を窘めず、そのままにして大丈夫なのかとふと心配になってくる。


(杞憂だと良いんだけど……)

「ところで、お母さんはどうしてここに?」

「どうしてもなにも、今日は冒険者ギルドに行く日だろ? てっきりニーアちゃんを呼びに行ったのかと思って来てみたら、まさか波動人形の掃除をしていたなんてね」

(そうだったんだ。あっ、もしかしてニーアはそれでオレを小綺麗にしようとしてくれたのだろうか)

「そうだっけ?」

「あんたね~、ギルド登録は冒険者になるための第一歩だよ。なんで忘れてるんだい?」

「だって、冒険者ってのは他人から資格を与えられてなるんじゃない。自分の力で切り開いた先の偉業を持ってなるんだって、お母さんが昔言ってたってシエラさんが言ってたよ?」

「あいつ……余計なことを……」


 コハルの言葉にアンナさんは苦虫を噛むような表情をして町の中心地の方を見ていた。おそらくギルドがある方向だろう。

 シエラとはアンナさんと昔からの友人で、冒険者ギルドの職員である。そして、アンナさんは元冒険者だ。コハルを妊娠したのを機に引退しているがファイスでは結構有名な腕利きの冒険者だったらしい。


(ゲームじゃ故人だったから伝聞しかなくって詳しくは知らないんだよな)

「とにかく、昔は昔、今は今だ。ギルドに入っておけば色々サポートしてくれるし、なによりお金になる」


 アンナさんはそう言ってコハルの前で親指と人差し指で円を作ってみせるのだった。


(それ言われたら、なんか夢も希望もあったもんじゃないな)


 コハルもオレと同じ気持ちだったのかゲンナリした顔で自分の母親を見ていた。


(いや、ちょっと待て。もしも、もしもだよ。仮に冒険者にオレがなれたのなら、その報酬を全額推しに貢げるということにならないだろうか、いや、なるっ!)


 生活費に困らない波動人形のオレは仮に報酬を受け取ったとしても自分に使うことがないので、推しに渡すことができる。つまり、推しに直接貢げるかもしれない可能性にオレの魂は震え出した。


(良い、良いぞっ! もしそうなったら夢と希望に満ちあふれることになるじゃないかぁぁぁっ!)


 というわけで、コハルには申し訳ないが、ゲンナリするのを止めることにした。


「それはそうと、なんでお母さんがギルドのこと気にするの?」

「なんでって? そりゃあ、同行するって言ったじゃないか」

「えぇ~、来なくていいって言ったじゃん。もぉ~、いつまでも子供扱いしないでよ」


 当たり前だろと言う顔でアンナさんが語ると、コハルは恥ずかしいのか少し困った顔で彼女の同行を拒否する。


「い~や、あの狸親父が私の大事なコハルに変な依頼を押しつけないか見張っていないと心配で心配で」


 ロイドさんもそうだったがアンナさんもどうやら子煩悩みたいだ。きっとコハルは溺愛されながら育ったのだろう。


(正規ルートならそんな両親が、自分を守って目の前で殺されたんだ。弱かった自分も波動人形も許せなかっただろうな)


 つい運命シナリオを思い出し、そんなことにはならないようにと、オレは今一度気持ちを引き締める。


「ほらほら、いつまでもそんな格好してちゃ風邪引いちまうからさ、チャチャッと着替えてギルドへ行くよ」


 そう言って、アンナさんは二人を家の中へと押し込んでいく。一人ポツンと残されたオレは、三人の姿が見えなくなってやっと緊張が解れるのであった。


(ハァ~、家に入ってからずっといろんな意味で緊張しっぱなしだったなぁ。オレは慎ましくニーアの行く末を離れて見守っていたいだけなのに、イベントの当事者にさせないでおくれ……心臓が、じゃなくて、波動炉が唸りっぱなしになって共振崩壊なんてしたら笑えないぞ)


 実際、そんなことで共振崩壊したなんて聞いたことがなかったのだが、オレとしては先程までのドギマギ感にそう思わせるほどのものがあったと言っても過言ではなかった。

 

 しばらくして、身体を拭いて着替え終わった二人がアンナさんと一緒に家から出てきた。

 入り口で待機していたオレを見て、ニーアが駆け寄ってくる。


【お待たせ、待たせちゃってごめんね】

【いや、問題ない。オレはニーアなら幾らでも待てるからさ】


 疲れとは縁遠いオレにまで気を遣って貰える優しいニーアに感動しつつ、オレは待つといえば彼女のグッズが出るのをずっと待ってたなぁと考えていた。


「ハァ~ァ、三人だけなら楽しいのに、なんで親同伴なのかなぁ~」


 なぜか嬉しそうにオレの側で歩くニーアを見ながらコハルが溜息交じりに愚痴っている。

 そんなこんなで、オレ達は人の多い町の中心地へと向かい、中央道の片隅にある小さな施設の前まで来ていた。

 分かってはいたが、随分とこじんまりした冒険者ギルドである。


(まぁ、ファイスはこれでも人口が少ない方だから、冒険者も少ないし、その所為で職員も少ないという三重苦なんだよな)


 外の調査は主に冒険者の役割なんだが、その数が少ない所為で遅々として進んでおらず、未だにサークレイ研究機関の施設すら発見できていないのが現状である。

 もっとも、今はオレ達のおかげで研究施設の場所が分かって調査に向かっているはずだった。


(そういえば、オレ達が持ち帰った諸々の波動具を見てロイドさんは興奮していたな。今頃冒険者に同行して、サークレイで物色しているのかな?)


「あら、コハルちゃんじゃないですか。もしかしてギルドにご用がって、なぜアンナまでいるのですか?」


 中に入るとすぐにフロントが見え、そこに居る眼鏡を掛けたおば、お姉さんにオレ達は声を掛けられた。話に出ていたギルド職員のシエラさんだ。


「なんでって、当たり前だろ。私の可愛いコハルが冒険者登録に行くんだ。お前らに変なコトされないように見張るためだよ」

「人聞きの悪いことを……というか、いい加減子離れしなさいよ。コハルちゃん、いくつだと思っているのですか」

「うんうん、シエラさん、もっと言ってやって」

「い~やだ、子離れなんてしません~っ」


 遠慮なしに言い合うところを見ていると、それだけ仲が良いことが窺える。


(ゲームではこんなの知ることができなかったから、なんだか嬉しいな)


「ハァ~……えっと、冒険者登録ということは、ついにコハルちゃんも冒険者になる決心がついたのですね」


 シエラさんの理解が早くて非常に助かるのだが、あの口振りでは、コハルは前々から冒険者ギルドからのお誘いを受けていたようだった。

 現代日本とは違い、ここでは十四才でも普通に働けるようだ。

 いや、もしかしたら、万年人材不足なので子供だろうと有望な人材は早めに確保しておきたかっただけなのかもしれない。

 それにしても、サークレイの『おじさん』からは波動技師エンジニアとして期待され、シエラさんからは冒険者として期待されていたなんて、その有望さはさすが主人公である。


「私だけじゃないよ。なんとここにいるニーアとノウンも冒険者になるんだ。それで私達三人でパーティー組むの!」

「「「えぇっ!」」」


 胸を張ってオレ達を紹介するコハルに、アンナさんとシエラさんだけじゃなく、周りで聞き耳を立てていた野次馬さえも一斉に驚きの声をハモらせた。


(まぁ、そうなるよね)


 周りとしては、オレはニーアに仕える使役獣的なものになるのかと思いきや、冒険者側だったなんて思ってもいなかっただろう。


「えっと……コハルちゃん。誰が冒険者に登録すると」

「だから、私と~、ニーアと~、ノウン」


 シエラさんに再度確認され、なにが変なのか分からないといった顔でコハルは順々に指を差していく。


「えっとぉ……波動人形が冒険者に、ですか?」

「そうそう、冒険者ギルドは悪い人以外ならどんな人も拒みませんって言ってたよね。ノウンは悪い人じゃないよ」

「う~ん、それは人の話であって……」


 予想通りシエラさんは困った顔で考え込んでしまった。考え込まなくても、波動人形なんて無理だと一蹴してしまえば良いのに、そうしないところを見るとワンチャンあるのかと期待してしまうオレがいる。


(どうか、推しに貢ぐオレの夢をっ!)


 思わず手を合わせて拝むエモートをしたくなったが、オレという魂はこういう大事な時に自我を出すと碌な事にならないということが判明しているのでグッと堪えた。


「どうしたんだい、シエラくん。なにか問題でも?」


 唸っていたシエラさんの後ろからガタイの良い白髪が少し混じっている黒髪のダンディなおじさんが声を掛けてくる。彼がアンナさんの言う狸親父ことギルド長の『ライエル』だ。


「あっ、ギルド長。実はですね」


 後ろに少し下がってなにやら二人で話し合っているようだったが、ギルド長の表情はあまり好意的に見えなかった。


(やっぱ無理か、無理だよね。波動人形が冒険者になんて)

「良いんじゃないか、別に。波動人形が冒険者になってはいけないなんて規定はないし」


 サラリととんでもないことを即決するギルド長にさすがのシエラさんも開いた口が塞がらない中、オレだけ一人心の中でガッツポーズをする。


(オレの夢と希望っ!)


 ギルド長が渋い顔をしていたのは、波動人形に対して悩むシエラさんの意見に対して、なぜそこで悩むという疑問の表情だったようだ。


「しかし、本部の意向を聞かないと」

「あ~、『ミショルド』の連中か。人材を送れって言ってるのになんやかんやと理由を付けて無視してくる連中にお伺いを立てよと……」


 魂だけで夢と希望に思いを膨らませながら、ギルド長を眺めていると彼と目が合った。まぁ、向こうはツルツル顔のオレと視線が合っているとは思っていないだろうが。


「キミも見ていただろう、あの波動人形の戦いっぷりを。人類の敵だと言われている相手が我々と何にも関係ないのに、町を、人々を必死になって守ってくれていたんだぞ。そんな波動人形のことなどなにも知らん外野連中の意見など聞いてられるか」


 ニカッと歯を見せ笑い、格好良いことを言うギルド長にオレは胸が熱くなる思いだった。


「では、そのように本部へ報告しますので、本部からなにかあった際は、ギルド長自ら責任持って対処してくださるということですね」

「え? ん~、あ~、それは~、どうなんだろうね~、報告せず勝手にやっちゃった方が~」


 先程までの勢いはどこへやら、責任という言葉に反応したかと思うと、急に弱腰になる様にオレは本当に大丈夫なのかと心配になってくる。ついでに、先程までの熱い思いが瞬間冷却された思いだった。


「ま、まぁ、そこはほら、未来ある冒険者『候補』達が、これから与える依頼を遂行できるかどうかで判断しようじゃないか」

「ちょっと待った。どさくさに紛れて問題ある依頼を押しつけようってんじゃあないだろうね」


 話をはぐらかそうとギルド長はオレ達に話を振ってくると、今度はアンナさんが立ち塞がってきた。


「おいおい、アンナくん。私がいつ問題ある依頼なんて押しつけたんだね」

「いつもだったろうがっ!」


 最初の格好良さはどこへやら、段々胡散臭く思えてきて心配になってくるオレがいる。

 ギルド長は一度咳払いをしつつ、場を仕切り直してアンナさんから逃げるように離れると、オレ達の方を見た。


「さて、有望な冒険者候補諸君にはこちらでは手に余りそ、じゃなくて、ちょうど良さそうな案件があるんだよ」


 言い直す前の言葉に、オレはもう先程までの感動が全て吹き飛び、身構える程になっているが、コハルの方は瞳を輝かせウキウキしていた。ニーアはそんなコハルを見て困った顔をしている。


「なぁに、簡単な調査だよ。西の大森林の奥、昔波結晶を採掘していた辺りを再調査して欲しいんだ」


(えっとぉ、それってあのカイコガのセンチネルが帰って行った方角の森林だよね、ギルド長? 本当に簡単な調査なのかい、それ?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。