Ver.2.1
あれからなぜか一週間以上オレ達は冒険者への第一歩を踏み出すことができずに立ち往生している。
ギルドに聞いても付き添いの冒険者が見つからないので待って欲しいの一点張りだった。
なら、アンナさんが自分が付きそうと申し出るが、引退者に任せることはできないと言ってはぐらかされている。
明らかになにか問題が生じているのがヒシヒシと感じられ、おそらく当事者であるオレは肩身が狭い思いである。
なので、やはりオレ抜きで登録をした方が良いのではと二人に伝えたが、受け入れてもらえず、こうして今も待機が続いていた。
その間、コハルとニーアはロイドさんやアンナさんから指南を受け、ニーアも以前よりかは武器の扱いが上手くなっている。
さらに、彼女はロイドさん達の依頼でその能力を生かし、子供達の共振音の発声練習の先生を偶にするようになった。無論有料だが、評判は良く、参加する人は子供以外にも及ぶようになっていった。
そんなある日、もう待てないと痺れを切らしたコハルを宥めていると、シエラさんに付き添いの冒険者が見つかったという報せを受ける。
やっとかとギルドを訪れた際、紹介された冒険者達からの第一声が――。
「バカな、本当に波動人形と行動を共にしているだと」
だった。
目の前にいるのは三人の冒険者だ。
そして、オレは彼らを知っている。ゲーム序盤にギルドにいたミショルドから来た冒険者のモブキャラ達だったはずだ。
シエラさんの紹介で、彼らはミショルドからの依頼でここを訪れていたそうだ。二年後の彼らもミショルドの依頼で昔からファイスに来ていると言っていたので、なにもおかしくなく、運命の悪戯ではなさそうだった。
オレはホッとしているがあちらは違い、オレに対して警戒しているようだが、それは仕方のないことだ。
ここファイスと違って、ミショルドは研究都市と呼ばれているだけあって、研究対象である波動人形はもちろんのこと、大量の波結晶を必要とするためセンチネルの領域を侵犯し、争いが絶えない都市である。
だから、彼らにしたら波動人形は明確に敵なのだ。
シエラさんからオレの事は聞いていたようだが、懐疑的だったみたいで、オレを見て初めてその現実を目の当たりにし、信じられないモノを見ているといった表情をしている。
「ファイスがセンチネルに襲われた時に一人で守ったのは彼だよ。そんな彼と行動を共にしてなにが悪いわけ?」
いきなり失礼なことを言われたと思ったのか、コハルがムスッとした顔で冒険者達を見た。
「波動人形が町を守った? そんなことあるはずが……」
どうやらこの冒険者達は最近ここを訪れたらしく、あの騒ぎに巻き込まれていなかったらしい。
「きっと、なにかしらの波動具で操っているんじゃないのか? ナンバーもないし、量産型っぽいぞ」
「確かに……ほら、隣の子、普通じゃなさそうだしな」
オレの存在が納得いかないのか、冒険者達が勝手に解釈し、事もあろうにコハルの隣にいるニーアを見てそんな失礼極まりないことを言ってくる。
(貴様、オレの推しになんてことを言うんだ)
オレに対してなんと言われようとも受け流すが、事、推しの悪口は看過できない。
思わず、二人を越えて前にしゃしゃり出てしまい、冒険者達が一層警戒を強めてしまった。
すると、外套に身を包み、頭をフードで隠していた者がオレと冒険者の間に割って入ってくる。
「すみません。今の発言は彼女に失礼でしたね。私が謝ります。申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げるフードの人に、冒険者達は焦りを見せ、コハル達はキョトンとしているが、オレはその声を聞いて緊張が高まっていた。
外套に身を包んだ人は声からすぐに女性だと分かったが、オレはその声に聞き覚えがあったからだ。
(なんで、彼女がここにいるんだ? 運命にはそんなイベントはどこにもなかったはずだぞ)
驚愕のあまりオレが立ち尽くしていると、そんなんじゃ納得しないと思われたのか、その女性は後ろの冒険者達にも謝罪させていた。
これで終わりとするようにオレの横からコハルが前に出てくる。
ニーアもオレに感謝の気持ちを伝えつつ、下がってとオレを促すので、そのまま後ろに下がっていったが、目の前の人物の登場に思考が上手く纏まっていなかった。
「……本当に波動人形が人の言うことを聞いているのか……彼女の声もおかし――」
「余計なことを言わないように」
オレとニーアを見ながら冒険者がまた失礼なこと言い始めて外套の女性は窘める。
明らかに目の前の冒険者の関係者であり、冒険者をぴしゃりと黙らせたところから立場が上に見えたので、コハルも恐縮そうに女性に近づいた。
「え、えっと……あなたは?」
「あっ、申し遅れました」
コハルに問われ、彼女はフードを後ろにずらしてその顔を晒すと、青から毛先に向かって水色に変化しているストレートの長い髪がフードから零れ落ち、眠たそうな半目の瞳がオレ達を見据える。
「私は、研究都市『ミショルド』から来ました。波動人形研究科の教授兼研究科長を務める『ルルカ』と申します」
そうして、彼女は握手を求めるように、波動人形と同じ材質でできた鋼鉄の手をコハルに差し出してきた。
そう、ルルカの両腕は義手だ。
それはルルカの過去の行いによる代償でもある。
ルルカは立場上、ゲーム内ではミショルドから出てこないので、現地に行って初めて出会うキャラのはずだった。
それが今、目の前にいることに運命への警戒が強まり、オレはルルカを見ると、彼女もこちらを見て小さく笑う。
(目的は、オレか?)
波動人形を研究している教授だ。その影響力はギルド本部にまで及んでおり、波動人形であるオレに興味があってもおかしくはないが、まさかミショルドから最速でここまで来たというのだろうか。
本部もダメだと一蹴すれば良いのにここまで騒ぎが大きくなったところを見ると、ギルド長のライエルさんがかなり粘ったのだろう。
そのおかげでルルカの耳に届いて今に至ると推測される。
そう考えると、今までの先延ばしがなんとなく理解できるし、ギルド長には感謝しかない。
(胡散臭いとか頼りないとか思ってごめん。もし冒険者になれたら馬車馬のように働くよ)
ポジティブに考えれば、おそらく彼女が問題ないと判断すればオレも冒険者になれるというわけだが、なにかが引っかかって仕方がなかった。
(オレという運命から外れた存在がいるんだ。運命にない展開が起こってもおかしくはないのか?)
オレが一人心の中で自問自答している中、シエラさんを中心に今後の話が進んでいき、オレ達はやっと調査に出ることになるのであった。
あまりに期間を空けられたため、オレ達の準備はもう万全の万全ですぐにでも出発できた。
オレが持つ大きなバックパックにはキャンプに最適な携帯波動具がいくつもあり、食料も水も寝床も諸々完璧だと自負している。
(ニーアには快適な冒険生活をして欲しいものな。そのための設備は惜しまないし、どんなに重くてもオレが運んでみせる)
「ルルカさんは冒険者の経験があるんですか?」
「いいえ、ずぅっと研究ばかりしています」
「それなのに、わざわざファイスまで来たんですか?」
目的地へと進む中、付き添いの冒険者と一緒に行動するのかと思いきや、ルルカはなぜかオレ達と一緒に歩いているので、コハルが声を掛けていた。
「ええ、波動人形が冒険者になりたいという報告を受けて、この目で確かめたかったのです」
ルルカはオレを見上げると、その瞳になぜかオレはゾワッとした感覚を覚え、逃げたくなるが、ニーア達から離れるわけにはいかないので視線を逸らしてグッと堪えた。
その視線に気が付いたのかニーアがオレとルルカの間に入るように移動して歩き出す。
(ニーア、彼女はゲーム中盤、ミショルド編で味方になるキャラだから敵じゃないよ? なんでそんなに警戒してるんだ?)
コハルもコハルで話し掛けているのだが、友好を深めながらも、なにか探りを入れているようにも見える。
(コハルも、いつものフレンドリーさはどうしたんだろう? やっぱ相手が年上のお姉さんで教授だからちょっと尻込みしているのかな?)
付き添いの冒険者達を見てみれば、ルルカを自分達の方へと呼び戻すことも無く、友好を深めるどころかオレを警戒し続けていた。
(う~ん、やっぱオレがネックになっているよな……申し訳ない……)
そうこうしている内にオレ達は目的地へと到着する。元採掘場と言うだけあって、人の手が加わった大きな洞穴が見えてきた。
今のところなにも不審な点はなく、このまま採掘を再開しても大丈夫そうな感じだったが、コハル達は冒険者達に調査の仕方、要点をレクチャーされて周囲を調べている。
「アナタも冒険者になるのですよね。ボォ~としていて良いのですか?」
二人を見守っていたら、いつの間に隣にいたのかルルカが声を掛けてきて、オレは飛び上がりそうな思いだった。
(コハル達ならいざ知らず、な、なんでオレに対してそんな無警戒に近づいてこれるんだ?)
付き添いの冒険者がそうだったように、ファイスとは違って、ミショルドでは波動人形は危険な存在で警戒すべき相手だ。それはルルカも同じはずなのに、彼女はそんな素振りが最初からなかったように思える。
驚きのあまり慌てふためいているのだが、それは心の中だけで、身体の方は全く動じず直立不動でルルカを見ていた。
そんなオレの視線に気が付いたのか、ルルカはこちらを見上げてニッコリと笑う。
ルルカの顔立ちは整っており、美女なので本来なら見惚れそうなのに、なぜか魂がゾワッとしてくる。
だが、彼女の言うことも最もなので、オレはバックパックを降ろして調査に参加することにした。
(二人にはここで待機していてって言われたけど、オレも冒険者として認めて貰うためにも……と言ってもなぁ~、調査ってなにすりゃ終わるんだろう。見て回れば良いのかな?)
ゲームではマップの隅々まで走り回り、奥までいってそこで一イベントあって調査完了みたいな流れだったが、そんなノリで良いのだろうか。
「ファイスにしては破棄した採掘用の波動具はどれも良さげな物を使っていたようですね。もっと旧式だと思っていました」
オレが洞窟内に入って周囲を確認していると後ろから声が聞こえて、慌ててそちらを見る。
シレッとルルカが付いて来ていたのだ。
(きっとオレが冒険者になれるのか、入念にチェックしているんだろう……ヘマはできないぞ)
気持ちを引き締め、周囲を見回すと、洞窟の天井、暗がりに光る獰猛な目が見えた。
(危ないっ!)
相手がオレを狙っていたなら良かったのだが、そいつは確実にルルカを狙って暗闇から襲いかかってくる。
咄嗟だったため、オレは細かい動きを諦め、ルルカを抱きしめるように包み込み、相手の攻撃を背中で受け流すというパワープレイをする。
さすが波動人形。金属になにかが弾かれる硬い音が洞窟内に鳴り響くと、その硬さに怯んで相手は後ろに飛び、距離を取る。
(大雑把過ぎたが、無傷で耐えるなんてさすがだ、ノウン)
相手を確認すると、そこにいたのは距離を取ってこちらを見ながら睨め歩く巨体の蜥蜴だった。
(そういえば、ソォリジンにはオレの知っている獣以外にもああいったモンスターみたいな獣もいるんだよな。っで、それが更に進化したのがセンチネルって感じか)
この世界では洞窟蜥蜴と呼ばれている大きな鉤爪を持つ獰猛な生物で小型の恐竜だと思った方がオレ的にはしっくりくる。
そいつは、奇襲が失敗したと判断すると、威嚇の音を発してそのままなにもせずそそくさと洞窟の奥へと消えていった。
(オレを見て、深追いしてこないとは結構賢そうだな。あんなのがいるとなると採掘場は使えないかも)
「あ、ありがとうございます……」
オレが先程からそのままの体勢で警戒し、考えていたため、近くからルルカの震えた声が聞こえてくる。
(あんなモンスターにいきなり襲われたんだ。怖がるのも無理ないか)
そう思ってオレはルルカを見ると、彼女は頬を紅潮させ、潤んだ瞳でこちらを見上げていた。
怯えているといった雰囲気ではない。
「あぁぁぁ、ダメ、我慢しなきゃ……今は仕事中、仕事中なの……」
艶っぽい吐息を吐き、蕩けた表情になっていくルルカは先程までの知的なお姉さん然とした雰囲気が失われていた。
「で、でも……いきなり抱きしめられたら……私、私……我慢できない……」
オレの腕の中で自問自答しているのかルルカが一人で苦悩している。
(え? あの……)
そして、戸惑い現状が把握できないオレに密着すると、優しくそっと義手でオレの胸部に触れてきた。
「あぁぁ……私を包むこの冷たくて硬い無骨な胸板……そして、私なんて簡単に握り潰せそうな大きな腕……素敵♡」
(ハッ! しまったぁぁぁっ! ルルカの歪んだ癖を忘れていたぁぁぁっ!)




