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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

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2/23

Ver.0.1

(!!)


 今までになかったなにかをすり抜けたような感覚に囚われると、ガシャッと重いなにかが微かに動く音が聞こえてくる。


(聞こえる? また幻聴か?)


 と思えるのは、音がスピーカーなどのなにかを通して聞こえたようなイメージだったからだ。

 急な展開で思考が混乱してはいるが、とにかく現状を把握するため周囲を見ることにする。


(いや、見えるわけって、見える、見えるぞぉぉぉっ!)


 確かに色のついた景色が見える。だが、これも高精細な液晶画面を通して見えているような感覚だった。


(自分の身体じゃない?)


 そんな違和感が膨れ上がった時、目の前が、オレという存在が揺らぎ出す。


(いやいや、落ち着け。オレはちゃんとここにいる)


 自分を確かめるべくオレは自分の手を見てみる。視線はちゃんと意志通りに動いたが、そこにあった手は上手く動かせなかったし、オレが知っている人の手ではなかった。

 金属のような硬く艶々した腕。おおよそ人とはかけ離れた間接部が見える手。

 だが、知らない手ではなかった。


(これは、もしかして『波動人形ウェイブス・ドール』の手)


 そこでオレは自分が立っていることに気が付けたのは、視線の先、オレの姿はガラスに反射していたからだった。その姿はまさにオレが知っているあの異形の姿だった。

 『波動人形ウェイブス・ドール』とは、ARPG『ソォリジン』でプレイヤー達、人類に敵対してくる魂を持った人形だ。

 『波動炉ウェイブス・リアクター』を心臓にして永久的に動き、『波結晶ウェイブス・クリスタル』に宿した魂を脳として思考する人形。現代日本風に言うと機械生命体に近いだろう。

 外見のほとんどは人型が多く、とはいえ人の容姿からは程遠く、どちらかというとからくり人形やSFロボットや全身鎧姿に近い。

 頭内部にある波結晶。これをゲーム内では『魂の波結晶』と呼び、これが思考し、記憶し、五感を形成し処理しているので、目、口、鼻、耳などが人間と同じ構造をしていなくても良いし、極端な話、無くても良いという暴論もある。なので、頭は意外と小さく実用性よりデザイン性と防護面に特化したモノが多かった。

 そんな頭を支え、波動炉を搭載する胸部は大きくなっており、肩幅が広く手も人に比べて長いモノが多い。

 胸から腰を繋ぐのは太い背骨のようなデザインの鉱石と波結晶が混ざったようなもので作られた謎鉱石で、剥き出しになってはいるが強度は高くしなやかに動く。また、足は全体の重量を支えるため太い二足になっているものが多い。

 波動炉から全体にエネルギーを伝導するのは内部に張り巡らされたコイルのような形状の二本の太い管で、これが光を放って循環し感覚器官をも担っているらしい。


(設定資料にはそんなことが書かれていたっけ。暗記するくらい何度も読んでいたからスラスラと出てくる自分にちょっとキモさを感じるな。ま、まぁ、とにかくだ。まさか、本当にオレは転生したというのか? しかも、『ソォリジン』の世界に?)


 絶望や懐疑よりも先に興奮が湧き上がる辺り、オレは本当にこのゲームが好きだったのだろう。

 そして、波動人形の理論。その頭にある魂の波結晶の特性がこの世界に存在しているのなら、オレがここに存在している可能性はゼロではないはずだ。

 先程から出てくる『波結晶ウェイブス・クリスタル』というのは、ゲームの舞台である『レグナーン群島』で発見、採掘された謎の水晶である。

 外部から波動を受け続けることでその波動を吸収し、その波動に沿った波数の模様が長い年月を掛けて自然に刻まれ変化していく性質があるそうだ。

 この現象は波結晶がその波動現象を保存したということであり、再び外部から波動が伝わると共振し、刻まれた波動現象を引き起こす。

 例えば、炎の側にあった波結晶は炎の波動を長い年月を掛けて吸収し、共振することで炎を発するようになるということである。

 この特性を生かし、ゲーム内の人達は加工された波結晶を上手く利用して生活に役立てていた。また、自然加工ではなく自らの手で加工して現象を引き起こす人工的技術も確立している。この技術は高い能力を要求されるため、できる者は少なく、重宝されているらしい。


(フッ、どこの優等生だってくらい説明口調でスラスラと……自分が恐ろしくなってくるよ。これも『ソォリジン』への愛と言うことで)


 だんだん状況が掴めてきて、落ち着いて来たオレはこの世界の存在と、自身の今の状況を素直に受け止めている。いや、ここで否定的になって疑い出したら、オレの魂は安定せず掻き消える……そんな気がしてならなかった。

 せっかくここまで無茶して来たのだ。なかったことにされるのは悲しい。


(んっ、ここに来る?)


 ここでオレはなぜ自分がこのような状況に陥っているのか振り返ってみた。


(……う~ん、記憶が断片的で曖昧だな。自分の死因もよく覚えていないし、死後ここへ来るまでのことがはっきりしない。おそらく『こっちの次元に戻った』せいで思考が理解できなくなったのだろうか……ん? なにを言っているんだ、オレは)


 自分で自分の考えにクエスチョンマークを出し、オレは首を傾げる。まぁ、そう思ってるだけで身体の方は傾げていないが。


(上手く動かせるか心配になってきたぞ)


 オレの中ではこの世界はゲームに似ている。その認識が強い所為で自分の状態がゲームをしている自分という風に捉えられていた。

 つまり、オレは今頭内部にいて、ゲーム上のこの機体を操作している。その方が今の違和感を呑み込め、魂の波結晶がより安定した。

 オレは今一度、反射している自分の姿を確認する。

 先程語った波動人形のフォルム的な特徴は似ているが、一つ違う点でいうと、デザインが非常にシンプルだということだった。

 デッサン人形のようなシンプルな形状。その中で背骨が剥き出しになっているのは結構異質だったが、よく見ると、全身の骨格、間接の可動域や柔軟性などなど作り込みは丁寧で、低コストで作った量産型とは思えなかった。

 だが、それに比べて循環機能、波動炉、放熱機能、共振抑制などの面々が雑というか、とりあえず付けて、これから調整しますという段階で止めたみたいな感じだった。放熱機能、共振抑制に至ってはないと言っても良いくらいだった。

 要の頭は、顔面は人の頭蓋骨を抽象的にしたようなデザインで、ツルンとした卵のようになにもなく綺麗な黒い謎鉱石が顎と後頭部を土台にして嵌め込まれているような感じだった。胸にある波動炉もなんだか不安定な反応をしていて、言うならば、素体は良いのだが、動かしたらすぐに壊れそう。いや、そもそもちゃんと動くのか、これ……だった。

 誰かが考えなしに技術だけを詰め込んだ失敗作。そう判断されたのが今の『オレ』識別ナンバー不明、通称『アンノウン』。

 識別ナンバーとは、波動人形が製造開始された段階で付けられる番号で重複を避けるため、製造途中で破棄しようが、壊れて失おうがその番号を再び使用することはない。

 捕捉になるが、波動人形には波動炉の出力値など性能によってクラスが決まっている。

 ニスラが作り、民衆に披露した最初の波動人形、識別ナンバー『01』。その圧倒的性能に『ハイクラス』と位置づけられている。

 そこから派生して作られた波動人形『02~09』。そのほとんどが『01』に及ばないがそれでもかなりの出力なので『ミドルクラス』とされている。

 ニスラが公表した波動人形は総じてシングルナンバーと呼ばれており、最大で九体いるのではないかと言われている。

 ニスラ以外が製作した波動人形は『11~』となっており、彼の弟子達が作った波動人形はどれも欠陥品であるため、性能も魂も何もかも劣化しており、そのほとんどがミドルクラスにすら遠く及ばないため『ロークラス』とされている。

 ちなみに波動人形の製造はその人が生涯掛けて作ったとしても最大二体が限界といわれており、ニスラが九体作ったというのなら、それはもう人知を越えた天才に他ならなかった。

 で、話を戻して、この『アンノウン』は、十年程前に山岳の奥深く、今まで未踏とされていた地に封印されていたのを発見し、『サークレイ研究機関』が回収。調査の結果、識別ナンバーが見つからず不明とされていた。

 先にも述べたが、誰かの失敗作で破棄された波動人形と評価され、動かないガラクタ同然だが、なにかの実験に使えないかと話し合っていたところ、重要研究の実験サンプルとして使用されることとなった。

 この重要研究というのが、ニーア達少年少女を巻き込んだ人体実験で……。

 オレはそこで思い出すのを止め、周囲を見回す。

 誰もいない部屋。ガラス張りで向こうにも部屋があり、よく分からない計器のようなモノや、手術台のようなモノがいろいろ設置されている。

 横を見てみると、蓋がない棺のようなモノが立てかけられていた。


(この棺、知ってるぞ。オレが知っているこの場所はもっと廃墟と化した状態だったが……間違いない、ここは『サークレイ研究機関』の施設だ)


 『サークレイ研究機関』を語るには、まず『オルゴノア』を語る必要がある。

 『オルゴノア』とは、およそ三百年以上前、レグナーン群島の一番大きな島、山々に囲まれた鉱石資源の豊富な場所に漂着した人々が集まり築き上げた都市国家である。

 人口も少なく、技術も乏しかった最初は、『センチネル』などの外敵や、周囲の環境に怯えながらも細々と暮らしていたが、この地で発見された『波結晶ウェイブス・クリスタル』と、その使い方を賢者『ニスラ』が解明した時、文明は急速に発展していった。

 さらにニスラによって魂という存在を人々は知覚できるようになり、『波動人形ウェイブス・ドール』の登場で、彼らの国力は一気に増していき、ついには周囲の島々を制圧、波結晶を独占し永劫の楽園『群島国オルゴノア』を築き上げようとしたが夢半ば、波動人形によって滅亡した。

 当時なにがあったのか、詳細は現在も不明とされ、これを『旧文明』と呼び、生き残った者達はオルゴノアから離れた山岳に隠れ住んだり、危険な海を渡って周囲の小島へ移り住んだとされている。

 その別の島へ逃げ延びた者達の中で、後に新たな研究施設を作った技術者達の集まりが『サークレイ研究機関』である。

 その目的は波動人形への対抗、もしくは破壊。

 だが、オルゴノア滅亡から三百年。代替わりを繰り返して長く続いた機関は、その理念が徐々にねじ曲がっていき、波動人形を破壊できるのなら非人道的な事も厭わない過激なグループや、波動人形に魅入られその全てを知り、自分達もその存在に近づこうとする狂ったグループなど、一般的思考から逸脱した集団に成り代わっていた。

 ニーア達を巻き込んだ人体実験もそんな集団による非人道的行為で、『センチネル』、波結晶が身体のどこかに癒着して突然変異を起こした動物達の総称で、オルゴノアの人達よりももっと前からレグナーン群島に存在していた生物である。その者達からヒントを得て、波結晶を人体、特に声帯に融合、変異させ、波動人形を制御できないかという取り組みだった。今のオレはその実験体達からの波動干渉の反応を観るためのサンプルである。

 ほとんどの者が異物への拒絶反応で融合に失敗し命を落としている。運悪く融合に成功し定着の段階に入っても、変異への激痛、波動の乱れ、その他原因不明の苦しみに耐えられなく、死ぬ者が出た。そんな中で、ニーアは率先して実験に参加し、代わりに他の者達への実験をしないで欲しいと懇願する。まぁ、それでお願いを聞くような連中ならそもそもこんなことはしないだろう。

 ニーアは幸か不幸か実験体達の中でも、飛び抜けて優秀な適合者候補になっていた。

 だから、彼らはニーアの前では聞き分けの良い顔をし、彼女が知らないところで他の者を彼女の実験成功の踏み台に使って、気が付いたらニーア以外誰もいなくなっていた。

 ニーアには解放して自由にしたと嘘をつくクズッぷりに当時怒りを通り越して、こいつらが殺されても何の感情も湧き起こらなかった。

 そう、研究機関の連中は殺されたんだ。

 ニーアを手に入れるためにわざわざ拠点であるオルゴノアから海を渡ってきた波動人形によって。


(今は、どの段階なんだ? まだ実験中か? それとも実験すら行われていない前段階か?)


 それだとニーアを救えるチャンスはあるはずだ。

 自分がこの世界に転生したこと、ニーアに最も近い波動人形だったこと、これに関しては人でも良かったんじゃないかと思うが、魂の波結晶に宿るしか転生方法がなかったのなら最善だっただろう。

 と、ここで大きな爆発音が部屋の外から聞こえてきた。


(なんだ、爆発? なにかの事故か……いや、襲撃)


 嫌な予感というものはどうしてこうも当たるのだろう。

 爆発の後、しばらくして人々の叫び声がちらほら部屋の外から聞こえてきた。その中に波動人形というワードが聞こえてきて確信する。


(今日は、ニーアを拉致する波動人形が来た日なのか)


 なんという最悪の展開だろう。人間相手なら波動人形のオレ一人でもニーアを連れ出すことはできたかもしれない。だが、同じ波動人形では話が変わってくる。しかもここに来ている相手は……。


(奴より先に、ニーアを見つけ、ここから脱出しなければっ!)


 そう思ってオレは前に駆け出そうとしたが、身体はうんともすんとも動かなかった。


(なんでだよっ! ここで動かなかったらなんのためにここにいるんだっ! 動けぇぇぇっ!)


 オレの感情が魂の震えとなって胸にある波動炉へ波動を送る。すると、今まで微弱な反応だった波動炉がそれに共振するように唸りを上げた。

 だが、それだけだった。突っ立ったまま全く動く気配がない。まるでエンジンを吹かし続けて発進しない車みたいだ。

 失敗作だからなのだろうか。波動炉の唸りは五月蝿く、目の前の画面は小刻みに振動し始める。

 ガラスに映る自分の胸が熱を持っているのか、陽炎のようにうっすら滲んでいるようにも見えた。


(まずい! もしかして『共振崩壊』する?)


 共振崩壊とは、波結晶を扱う全ての者達が背負うデメリットである。

 過ぎた力で共振しあうと、脆弱な本体がそれに耐えられなくなって崩壊する現象で生物や物体は等しく分解されて崩壊する。

 と、次の瞬間、エンストしたかのように、ガクンと衝撃が起こり、波動炉の唸りが急激に静かになっていった。


(止まれとは言ってないぞ。くそっ、魂の波結晶と波動炉が上手く共振できたりできなかったりと安定しない。どうしてだ?)


 確か、ゲーム内の説明では、波動人形の波動炉は魂の揺れに反応して出力が上がったり下がったりしていると記載されていた。

 今オレの感情に出力が左右されているのかといったら、そんな感じはしない。

 なぜなら、部屋の外から微かに聞こえてくる人の叫びや戦闘音にオレの魂は逸りっぱなしだからだ。


(別の要因か? いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。出力は現状維持で、とにかく

動かないと)


 手足の感覚がない現状で、どう動かして良いのか分からない。気ばかり焦って考えが上手く纏まらなかった。


(一旦、落ち着こう。ゲームのような捉え方をしてしまった所為で身体と意識が上手く一体化していないというのは理解した。視線は動いているんだ、動かない訳じゃない。じゃあ、どうすりゃ動いてくれるんだ? ゲームだったらこぉ~、左スティックを前に倒したらこんな感じで歩くのに)


 オレがゲーム内のキャラクターの歩きとスティックを倒すイメージをすると、不思議なことに画面が前進し始めた。

 歩き出したのだ。


(動いたぁぁぁっ!)


 驚く俺を余所に、身体は前進を続けドアへとぶつかり、それでも前へ歩き続けている。


(ストップ、ストォォォップッ!)


 オレはスティックを戻し、キャラが止まるイメージをする。すると、身体はピタッと止まってまた立ち続けていた。


(ドアに頭付けて立っているのがなんともシュールな構図だが……とにかく、なるほど、こうやって動くのか。まさに操作するってことだな)


 些か面倒くさい面もあるが、オレがイメージすれば例えオレが出来ない動きでもこいつはできるということだ。


(まぁ、空を飛ぶ機能もないのに飛ぶとかはできなさそうだが。いや、ワンチャンあるか? 波結晶による波動現象はいわば魔法みたいなモノだ。もしかしたら……いや、そんな未来の話は後だ、今は早くニーアの元へ行かなければ)


 オレはドアの前で突っ立っている身体に、ゲームでよくある○ボタンを押してドアを開けるマップアクションをイメージしてみた。

 先程までのぼっ立ちから一変してスムーズに動き出す身体。そこで気が付いたのだが、目の前の画面、つまりはオレの視界の端々に見慣れたインターフェイスのアイコンが見えたり消えたりしていた。


(安定しないのは出力不足なのか、それともオレのイメージ不足なのか。とにかく慣れ親しんでいるから邪魔だと思わないけど、左上にあるバーのようなモノはもしかしてオレの体力というか、耐久力か? 少し減っているのはさっきの波動炉の過剰共振の所為か、それとも実験サンプルに使われていた所為か)


 と、視界内になにかを蹴っ飛ばしたのが見え、思わずストップする。

 それは研究者のような白衣を着た男の死体だった。彼の胸にはポッカリと綺麗な穴が穿たれている。そこで改めて周囲を確認すると、武装した人間も数人倒れていた。どれも、胸や頭が穿たれている。


(やはり、来ているのはあいつか)


 人の死体を見てウッとなったが、こみあげてくるような身体じゃないので行動に支障はなかった。

 あるとするならオレの心が怖じ気づくことだろう。

 ないとは言わないが、今のオレはそれよりも推しのニーアを助けることで頭が一杯だった。

 被害からして、すでにかなり奥まで侵攻されているように見える。

 ゲームシナリオなら、ニーアは周囲にいた研究員を皆殺しにされ、奥に一人逃げているはずだ。その行動も、自分が標的と知って周りから波動人形を遠ざけるためという彼女の性格から来たものだった。


(ならば、行き着く先は分かっている。奴より先に合流して彼女を逃がせば、ニーアが生存する夢にまで見たIFルートが見れるっ!)


 オレは未来の期待に呑み込まれ、大事な現実を横に追いやっていた。

 ゲームシナリオでは詳しく語られていないが、ニーアが拉致される際、そこには破壊された一体の波動人形があったとされることを……。


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