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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第二章 運命に翻弄されるもの

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19/23

Ver.1.7

ノウン視点に戻ります。

 ファイスへのセンチネル襲撃事件が解決してから数週間が過ぎていた。

 あの時の爪痕も無くなりつつあり、いつもののどかな生活に戻り始めている。


「フ~、色々修繕はしてみたが、なにか問題があったらすぐに言ってくれよな、ニーアちゃん」

【はい、ありがとうございます。親方さん】


 屈強なおっさんにニーアはお礼の言葉をタブレットに書いて見せた。


「いやいや、良いってことよ。町を救ってくれたニーアちゃんへのお礼にしちゃ安すぎるもんだぜ。それに、そっちの波動人形もありがとうな。あんたが重い資材を運んでくれて助かったよ」


 豪快に笑う親方さんにニーアが頭を下げると、オレも習ってお辞儀のエモートをしてみる。

 巨体の波動人形がお辞儀するなんて思いもしなかったのか親方さんはちょっと笑顔を引きつらせながらもこの場を後にするのであった。

 それを見送ったニーアが今一度、目の前の家を見上げる。


 そこはあのサークレイ研究機関がいた古井戸の近く、誰も使わなくなった廃屋をリニューアルした状態の一軒家だった。

 なぜニーアが一人、こんな所にいるのかというと、本人の希望でここに住むことになったからである。

 あの『夜中ハグ事件』以降、ニーアはなにか町長やロイドと相談していたのだが、まさか町の人達のお礼がしたいという要望をこんな形で実現させるとは思いもしなかった。


(ニーアって意外と大胆な行動をするのね)


 ロイド達からしても元々誰も使っていない家だったので問題なかったのだが、少女一人をこんな場所に住まわせて良いモノだろうかと思いつつ、オレを見て大丈夫だろうと判断したようだ。

 さすがに新居とはいかず、とりあえず人が住める程度に修復しただけだ。しかも、町から離れており、色々不便なところもある。

 前の住人は景色が良いということだけで家、というか、小さな食堂を建てたらしいが、町の人からは立地が悪く、客が来なさすぎて店を畳んだらしい。


(まぁ、元食堂だけあって天井が高い二階建てだし、半分ほどは吹き抜けの構造になってて、オレでも中に入って動き易かったりするのはなにかあった時に助かるな。その分部屋が少なかったりするけど、ニーアしかいないから問題はないか)


 おまけにサークレイ研究機関から持って帰ってきた生活に役立ちそうな波動具を、ロイド達によって家に設置してもらったのでそこらの家より便利だったりする。


【どうしたの、ノウン?】


 オレが家の構造を外から一通り確認していると、両扉を開けて不思議そうにニーアが語りかけてきた。


【気にしないでニーアは家に入っててくれ。オレは外で門番しているから】

【それじゃあ、わざわざ家を貸してもらった意味が無いじゃない。さぁ、入って】


 元食堂だからなのか、入り口は両扉になっており、少々気を遣わないと入り辛いが、全く入れないわけではなかった。

 だが、そんなことよりもっと重大なことがオレを襲う。


(お、おおお、推しの家にお邪魔するだとぉぉぉっ)


 一時的かもしれないが、曲がりなりにも今日からここはニーアの家になったのだ。そこに誰よりも先にオレがお邪魔するなんてそんな恐れ多いことできるはずもなかった。

 オレが心の中だけでしどろもどろになっていると、その所為でぼっ立ち状態になっている身体を見て、ニーアが首を傾げる。

 そして、痺れを切らしたのか、ニーアがオレの手を握ってきた。


【ほらほら、入って、入って】


 推しにここまでさせておいて、逃げ出すのはいただけないとオレは覚悟を決める。


【お邪魔します】


 礼儀正しさは忘れずにとオレは一言断りを入れたが、ニーアはなんだか釈然としない顔をしていた。


(あれ? こっちだとそういった習慣が無いとかは無かったはずだが?)


【あのね、この家は私とノウンの家なんだから、それはなんか違うよね?】


 拗ねたような顔を見せて、オレを見上げてくるニーア。


(ニーア……キミはそんなあざとかったっけ? いや、これはこれでオレ的には新鮮でOKなんだが)


 あまりの可愛さに、オレは膝から頽れたかったが、相変わらずノウンは全く動じることなく立ち続けていた。


(言うのか、このオレが推しに向かって、主人公にしか許されないあの伝説のシチュエーションを! そ、そそそ、そんな大それたことあって良いのか!)


 緊張しすぎて自問自答が止まらないオレ。とはいえ、待たせるわけにはいかず、勇気を出してオレは言うことにした。


(救いなのは、俺自身はテキストを打つだけというところだろうな。でも、ニーアにはどういった感じで伝わるのか分からないのが怖い)


 オレはなるべく落ち着いた状態をキープしつつテキストを打ち、そして送る。


【た、ただいま……】


 戦っている時くらいに緊張しながらオレはニーアの反応を伺った。


(そもそも、この回答事態が間違っていたらもう目も当てられないぞ)


 嫌な考えが頭を過って、オレの緊張がさらに高まる。あまりの緊張感にオレの波動炉も反応してしまうのではないのかと心配になってきた。

 そんなオレの前に立つニーアは一瞬ちょっと驚いた感じの表情を見せると、そのまま俯き、すぐにオレに笑顔を見せてくる。


【おかえりなさい】


 その笑顔と言葉にオレは咽び泣きたい気持ちと、正解だったという安堵の喜びで魂が満たされていった。


(うおぉぉぉぉぉぉっ!)


 とてつもない達成感と喜びを抑えることができず、オレの魂の雄叫びが響き渡る。ついでに、共振して波動炉も唸りを上げていた。


【ど、どうしたの、ノウン?】


 さすがに奇怪な行動過ぎてニーアがちょっと引いてはいるが、心配はしてくれるようだった。


(お、落ち着け、オレ。超難関なイベントをクリアーした時みたいな気持ちだが、推しを引かせてどうする)


 スーハーと深呼吸したい気持ちだが、あいにくそんな秀逸な機能はオレには備わっていないので、自分の中でイメージし、精神統一することにする。


【大丈夫、なんでもない】


 波動炉の唸りも収まり、オレはそうチャットを送ってから、緊張の高まりを抑えながら家の中へと入っていった。

 中は思った通り広く天井も高いので、オレが入っていても邪魔にはならなさそうだ。

 とはいえ、二階はさすがに狭い感じだし、床が抜ける可能性があるので、なるべく一階だけをオレの行動範囲にしておこう。

 波動人形としては家に住むというのは必要としないのだが、オレという魂はまだまだ人なのだろうか。自分の家にいると思うとなんとなくだが、心が安らぐような気がしてくる。

 少しの間、感慨に耽っていると、ニーアが扉を閉めたまま動かないことに気が付き、オレは彼女の方を見た。

 ニーアは自分の両指をイソイソと絡ませながらモジモジして、こちらをチラチラと見上げてくる。


(ど、どうしたんだ、ニーア? 推しの意外な一面を見れるのはとても嬉しいことだけど)

【……えっと……ふ、二人っきり、だね……】


 チラチラと恥ずかしそうにこちらを見上げながらニーアは言ってきた。

 その仕草は人が波動人形に対してするような仕草ではないようにオレには思えてならなかった。


(ほ、本当に、ど、どうしたんだニーア?)


 オレが知っているニーアはもう少し感情が希薄だったような気がしたし、人前でこんなに恥ずかしそうにするような子ではなかったが、それは十六才の時だったので今は違うのかもしれない。


(もしかして、これも運命シナリオを変えた影響なのだろうか)

【あ、あのね……せっかくだし、えっと、まずは、そのぉ……一緒にお風呂、入らない?】

(ホントにどうしたんだぁっ! ニーアァァァッ!)


 頬を紅くし、モジモジしながら潤んだ瞳でこちらを見てくるニーアの仕草はとても可愛らしくて、微笑ましいのだが、話の内容がぶっ飛びすぎて、オレは困惑する。


【いきなりどうしたんだ、ニーア】


 さすがのオレもたまらずチャットを送った。


【あっ、ううん、別に深い意味は無いんだよ。ただ、一緒にお風呂、入りたいなぁ~って思っただけで】

(ふ、深い意味って、なに?)


 推しの意外すぎる一面を見て、オレは歓喜を通り越して困惑しっぱなしである。

 極めつけには――。


【ダメ、かな?】


 そう言って、オレに近づき頬を赤らめ上目遣いでこちらを見てお願いされてはもう、オレとしてはお願いを聞き届けたいのだが、果たしてそれは正解なのだろうか。


(く、くそぉ……まだまだ波動人形になりきれない自分が恨めしい)


 ニーアは人で自分は波動人形だって思っていれば今のオレみたいにドギマギする必要性はないはずだ。


(とはいえ、ニーアのあの仕草だって罪深いと思うぞ。女性経験乏しい男子が誤解するじゃないか)


 推しに責任転嫁するなんて言語道断だが、今のオレはそれだけ混乱していた。

 だが、そんな時間も長くは続かなかった。

 どうすれば良いのかと決めかねていたら、天は我に助け船を寄こしてくれたのだ。


「やっほぉ~、お家、なんとかできたんだって? 見に来たよ~」


 我らが主人公様、コハルの登場である。

 すると、ニーアはススッと恥ずかしそうに間近だったオレとの距離を空けていった。


「どうしたの? もしかして、お邪魔だった」


 そんなことはないとオレが首を横に振るエモートをすれば、ニーアが慌ててコハルに近づいていく。

 そして、なにやらタブレットでコハルと会話し始めた。


「なるほどね~、納得。よぉし、それじゃあ、私もノウンと一緒にお風呂入ろうかな」

(なにを言ってるんだ、この主人公様は?)


 救いの女神かと思いきや、事態をより分からなくしてきた小悪魔だった。


「ニーア、こういう時は遠慮しちゃダメよ。ちゃんと言わなきゃ」


 胸を張り、オレの前に堂々と立つコハルはビシッとオレを指差してくる。


「ノウン、あなた、汚いわよっ!」


 その一言に、オレの波結晶がショックで砕け散るかと思うのであった。



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