Ver.1.4
幕間です。
オルゴノアから離れた山岳、かつては波結晶の採掘場として重宝されていたこの地も、今となっては人っ子一人いない寂れた場所となっていた。
決して波結晶が枯渇し、採掘できなくなったからではない。
そこに突如現れたセンチネルの所為であった。
オルゴノア建国よりも遥か昔にこの地を支配していたとされる最古にして最強のセンチネル。
その名は『ラヴィスアーク』。
波動人形ですら敵わない相手なのだから、人など束になっても到底敵う相手ではなかった。
そんな大地に一人、何の装備も持たずに歩く女性の姿があった。
漆黒のドレスに身を包んだ白髪の女性、ナスターシャだ。
いくらニスラの最高傑作と謳われるナスターシャとてラヴィスアークを相手したら、消し炭にされるだろう。
だが、彼女はラヴィスアークと争うことはない。それは、彼女が持つその魂の波結晶が特別だからだ。
「おかしいわ……もうテリトリーに入ったのに姿を見せないなんて」
道なき道を歩きながらナスターシャは周囲の様子を見回している。だが、未だにこれといった変化はなかった。
ある種、この地の守護者とも呼べるラヴィスアークが一向に姿を見せず、予想外の展開にナスターシャは少し焦っていた。
「あの子を倒せる人間なんていないし、波動人形達にはこの区域の立ち入りを禁じている。争った形跡も見当たらないし、そんな報告も今までなかったわ。現にラヴィスアークの波動は感じられる。そういえば、ヴィエラさんが言ってたわね。センチネルは周期的に眠りに入る個体もいると……まさか、あの子もその部類だったということかしら。これは、予想外だったわ」
一体いつから眠っているのだろうか。ナスターシャがここを訪れなくなってもう百年以上経っているはすだ。
余裕があればラヴィスアークの様子を見に行くことにし、ナスターシャは当初の目的のために歩み続けていく。
あの絶望を思い出したくないから、この地へは二度と訪れまいと思っていたのに、まさか再び訪れることになるとはと、ナスターシャは苦悶した表情で空を見上げていた。
そして、山岳の奥深く、人が行き来していた形跡など微塵も感じさせない所に、それはあった。
一見するとそれは大きな墓所にも見える。
「そ、そんな……」
ナスターシャはすぐにその異変に気が付いた。
厳重に閉じられていたはずの扉がこじ開けられていたのだ。
珍しく、慌てた素振りで走り出し、墓所内部へと入っていく。
内部はひんやりとし、薄暗く静かなものだった。
だが、所々に物色されたような形跡が残っている。
「まさか、薄汚い人間どもがここに入ってきたのかっ!」
比較的お淑やかな振る舞いを見せるナスターシャからは想像できないほどの言葉とあんなに美しかった顔が憤怒に染まった。
と思ったが、その表情も一瞬のことで、すぐに元の悲しい顔へと戻っていく。
そして、何事もなかったかのようにナスターシャは奥へと進み、最奥の部屋へと到着した。
そこは中央に台座があり、それ以外にはなにもない空虚な部屋だった。
その天井には星図のような宇宙が描かれており、その図の中心から外の光が入って来ている。その光が台座をそっと照らしていた。
まるで、宇宙の中心から落ちる一つの光の道が台座へと繋がるように。
「やはり、運び出されていたのね」
ナスターシャはフラフラとした足取りでなにもない台座へと近づいていく。
そっと触れる台座にはなにかが置かれていた形跡があった。
その跡は長方形の箱、棺のような形にも見える。
「アイシャちゃんの話を聞いてもしかしたらと思ったけど……まさか、ラヴィスアークが眠っている隙に持ち出されていたなんて」
だが、それが結果的に功を奏したのかもしれないとナスターシャは自分に言い聞かせた。
「確かめなくてはいけない……本当にあなたなのか……」
誰かに問うているわけでもなく独り言を呟き、ナスターシャは天井に広がる星図を仰ぎ見るのであった。
第一章 終了です。




