↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/23

Ver.1.3

 日が暮れ、未だ襲撃の爪痕が残されているファイスでは皆が集まり会議のようなものが催されていた。

 安堵し喜びの声が多いが、喜んでばかりいられない人達も中にはいる。まぁ、死者がいないだけマシだと割り切っているみたいだが……。

 あれからコハルに事情を聞いたロイドさんが、例の持ち帰ったコハル拉致洗脳計画書を見て、滅茶苦茶激怒し、あの研究員をぶち殺すと息巻いて、探したがその後どうなったか語ることはなかった。

 コハルの話では怪我もしていたし、狼狽していたのでそう遠くには逃げられなかっただろう。

 戻ってきたロイドさんが短く「もう大丈夫だ」と言った言葉が全てを物語っているのかもしれない。

 これでこの町は今まで旅商人と称して訪れていたサークレイ研究機関の連中を警戒するようになるだろう。

 さらに、コハルの話でニーアはとても感謝され、身寄りが無いと知るや私が引き取ると手を上げる者達が続出したがとりあえずその件は保留となっている。

 で、オレはと言うと……。


「すっげぇぇぇ、これがあのお伽話の波動人形なんだぁ~」


 そう言ってペタペタ触ってくる子供や、まさかのよじ登ってくる子供に囲まれてしまっていた。


(キミ達、逞しいな。ちょっとは恐怖しろ)


 オレが町中であれだけの戦闘を繰り広げていたのに、皆恐れないのはコハルとニーアの説得のおかげだった。おまけに、オレに感謝する人まで出現して、オレはどうして良いのか分からず意識だけがアワアワするばかりである。

 ちなみにもの凄く謝罪と感謝をしてくれたのが、ロイドさんだった。

 イケオジに抱きつかれた時は、なにも感じない自分の身体にオレは感謝しっぱなしだったことを思い出す。


(ロイドさんか……もしかしたらこの戦いでコハルの両親は死んでいたかもしれなかったのかな)


 そうなるとコハルの運命も変えてしまい、いよいよ未来が分からなくなってきて喜ばしいことなのか悩ましいことなのか分からなくなってくる。

 というわけで、オレが思考し続け動かないことを良いことに、絶賛子供達の良い遊具と化しているのが現状であった。


(まぁ、怖がられて忌避されるよりかはましだわな。なんにせよ、色々上手くいって良かったよ)


 ファイスはギリギリ守られたし、センチネルの母子は死なずに済んだ。オレもなし崩しに受け入れてもらえたし、ひとまず肩の荷が下りた気分だ。

 とはいっても完全に解決したわけではない。

 それは、ニーアの今後だ。

 一番なのはここファイスでコハル達と幸せに暮らして十七才を迎えるという絵に描いたようなハッピーエンドが望ましい。

 だが、運命がそれを許さないことは今回の件で思い知らされていた。

 ならば、オレにできることはそれをできる限り事前に排除するか、影ながら守り抜くかだ。

 だが、アイシャの時も、センチネルの時もそうだったように、結局ニーアの力に頼っていては本末転倒である。


(やっぱ、ブーストシステムの開発だよな。コハルやファイスの人達と縁が作れたんだ。そこからなにか発展しないだろうか)


 事を急いても仕方が無いのだが、なまじ色々知っている所為で、起こってからああしておけば良かったとなるのが怖かった。


「こらぁぁぁっ! あんた達、ノウンになにしてるの!」


 コハルの声が聞こえてきて、オレは考えることを止める。

 コハルが近づいてきて、子供達がキャッキャとオレから降りていくが、危なっかしくてハラハラする。だが、変に動くと事故りそうなのでオレには見守ることしかできなかった。


「まったく、ちょっと目を離したらこれなんだから、もうちょっと怖がりなさいよね」


 初対面であれだけ怖がっていたコハルからすると、子供達の反応が納得いかないのだろうか。

 愚痴のように言いながら、子供達を親元へと帰しに離れていく。

 コハルに付いてきたニーアはそのままオレの所に残って彼女を見送ると、嬉しそうな顔でこちらを見上げてきた。


【怪我した人や家を破壊された人達はいるけど、皆も町も守れて良かったね】


 嬉しそうに言うニーアにオレは頷くエモートを贈る。


【ノウンに言われてニーアを止めたし、センチネルから守ったよ】


 うんうんとオレは返事するように頷きエモートを選択し続けた。


【それにそれに、古井戸が認識阻害されていたから解除したの。しかも、梯子まで用意されてて動かしたらコハルが喜んでくれたわ】

(うんうん)

【古井戸での争いはどうなるかと心配したけど、一か八かでセンチネルに語りかけたらなんだか上手くいって良かったわ】


 まるで、子供が親に自分の働きを報告するようにニーアは嬉しそうに色々オレに語りかけてきた。

 だからだろうか、雰囲気に呑まれたオレはついつい目の前の人が推しであることを忘れ、コハルの時のように不用意に頭を撫でるマップアクションをしてしまう。


【危険を顧みず、共振ブーストしてくれて、ありがとう、ニーア。よく頑張ったね、偉いよ】


 撫でながらチャットを送った後に、オレはハッと我に返る。


(しまったぁぁぁっ! オレは推しになんて馴れ馴れしいことを!)


 マップアクションを止めようとニーアを見れば、彼女ははにかんではいるものの、とても嬉しそうだった。それはいつものちょっと大人びたニーアではなく、年相応の子供のような表情だった。


「あぁぁぁっ、ニーアだけずるいっ! 私だって頑張ったんだからね!」


 止めるべきかどうすべきか、オレが困っていると横からコハルの大きな声が聞こえてきて、オレは慌ててマップアクションを止める。

 そんなオレをちょっと不服そうな顔で見た後、ニーアはコハルの方を見た。


「私だって頑張ったんだからねっ!」


 むくれた顔で合流したコハルは先程と同じことを言ってオレを見上げた後、なにかを待つように頭を差し出すようなポーズをとり続ける。


「私も頑張ったんですけど?」


 コハルは困惑するオレに、しつこくなにかを強請ってくる。


(まぁ、流れ的になにを求めているのか分かるんだけど、コハルさんや、キミは両親にあれだけ褒められたじゃないですか。オレからは要らんと思ったんだけど……)

【そうだな。コハル、よくやった】


 オレはコハルには聞こえないけどとりあえず労いのチャットを送って本日三回目の頭ナデナデをする。


(ふと思ったけど、主人公様にこんな偉そうな態度取って大丈夫なのかしら? 周りから反感買ってないと良いけど……特にロイドさんとか)

「あ~あ、良いよね~、ニーアは。ノウンの言葉を直接聞けて。私なんてニーア越しに文字なんだけど」


 頭を撫で終わり、満足したかと思いきや、ニーアが見せるタブレットを見ながら愚痴り始める主人公様。

 そんなコハルにどう返して良いのか分からず、ニーアは半分困ったような笑みを見せた。

 しばらくオレとニーアを見ていたコハルだったがなにかを諦めたように大きく溜息を吐く。


「はぁぁぁ……まぁ良いわ。場所を変えましょうか。あなた達二人は目立って仕方ないもの」


 コハルはニーアの手を取り、二人で集まりから離れようとする。


(うん、てぇてぇな~)


 オレはそれを微笑ましく眺めていると、ピタッとコハルが足を止め、早足に戻ってきた。


「私の話聞いてた? ノウンも来るのよ」


 コハルのような少女に後ろから押されたくらいで動いてしまうような柔な作りをしていないのだが、一生懸命押すので申し訳なくなり、オレはどうしたものかとニーアを見る。

 彼女はオレの視線に気が付くと近寄ってきて、オレの冷たい手をそっと握るのであった。


(お、おおお、推しの手がぁぁぁ)


 感触がないのでそこまで取り乱すことはなかったが、てっきりチャットでなにか言ってくるかと思っていたのに予想外の行動だったのでオレの意識のみキョドっていた。


(二人のてぇてぇ空間にお邪魔するのは忍びないのだが、ニーアも望んでそうだし、なるべく気配を消すようにするしかないなぁ)


 オレは諦めて二人に導かれるように歩き出す。

 程なくして、俺達は町を見渡せる小高い場所へとやって来た。

 オレがいた現代日本の病室からでは見られなかった綺麗な星空が広がっている。


「さて、改めて二人に感謝を。町を、お父さん達を救ってくれてありがとう。私、二人に会えて本当によかった」


 俺達から少し離れて頭を下げたコハルの笑顔はとても眩しく、ついつい見惚れてしまったオレがいる。


【私もコハルに出会えて良かったよ】


 コハルの感謝にニーアがタブレットで返答し、オレを見てくるので、オレはすぐさま頷くエモートをする。


「えへへ、そう言ってくれるとなんだか嬉しいな」


 頬を掻き、照れながら目線を逸らすコハルはしばらくして町を見る。


「そ、それでさ、ニーア達は、その……これからどうするとか決まってるのかな? なんだったらファイスにこのまま……」


 チラチラとニーアを見ながらコハルは聞いてくる。そこら辺についてはニーアと話し合っていないので、彼女の考えはオレとしても聞いてみたかったところだ。

 なので、オレは黙ってニーアを見ると、彼女は嬉しいような悲しいような、そんな微妙な表情で首を横に振った。


【私は準備が整ったらこの町を出て行こうと思ってる】

「ニーア?」

【私はまだ波動人形に狙われているかもしれないし、サークレイの人達が連れ戻しに来るかもしれない。そうなったら、今回みたいなことがまた起きてしまうわ。関係ない町の皆に迷惑を掛けるわけにはいかない】


 明らかな作り笑顔で返答を続けようとするニーアの手を握ってコハルは書くのを止めさせた。


「違うよ、ニーア。誰も迷惑だなんて思わないし、自分が悪いみたいな言い方はやめて」


 オレはコハルに激しく同意見なので、それを表現するかのようにひたすら頷いてみる。


「だからさ、遠慮せずここにいて良いんだよ。文句言う奴は私が説得するから安心して。波動具の修理をもうしないって言えば、大抵の人は折れるから」


 ウインクしておちゃらけるように笑うコハルに釣られてニーアも笑顔になった。


【ありがとう】

(やっぱニーアは無理に作る笑顔より、心からの笑顔が素敵で好きだな)


 うんうんと後方腕組みおじさんみたいな心情でオレは二人を眺める。


「フフフッ、それでさ、え~と、なんだっけ……あっ、そうそう、話変わるんだけど、私、夢があったんだ。一人じゃできなさそうで諦めちゃったけど」

【夢?】


 湿っぽい話はこれで終わりとコハルは話題を変えて急に自分の夢の話をし始める。


「笑わないでね。私、冒険者になりたかったの」

【冒険者?】

「そう、昔話に出てくる人達。かつて人々がここレグナーン群島に流れ着き、周囲の環境に怯える中、率先して外に出て、危険の中冒険し、いろんなモノを発見すると、それを人々に伝え、そしてあの波結晶を見つけ出した人達。私はその話を聞いて胸が躍ったわ。私もそんな風にいろんなモノを見て、冒険してみたいって」


 夜空を見上げて夢を語るコハルはキラキラしていて眩しかった。ニーアも似たような印象を受けたのか、どことなく羨ましそうな目でコハルを見ている。


「まぁ、ファイスの全域すら危険すぎて冒険できない私なんだけどね。ニーアはどう? 夢とかあるの?」

【私の夢?】


 突然話を振られて、ニーアは考えもしなかったのか首を傾げながらタブレットと睨めっこしていた。


【私はずっと施設の中にいて、いつか外に出たいと思いながら無理だろうなと諦めていたわ。だから、それが夢っていうならもう叶ったかな】

「ニーア、それは夢じゃなくて願いだよ」

【願い?】

「ニーア、あなたは外に出て、その先、なにがしたかったの?」


 コハルに言われ、ニーアは再びタブレットと睨めっこする。


【外に出て……】


 随分と悩んでいるのか、じばらくペンがそこで止まったままになっていた。


【色々なモノを見て、色々な人に出会って、色々なことをしたかった】


 その返答を見て、オレの胸が、いや、魂が熱くなる感じがした。


(ニーアがそんなことを夢見ていたなんて知らなかったな)


 これもゲームシナリオを改変した影響なのだろうか。だとしたら、改変して良かったとオレは嬉しい気持ちになってくる。

 そして、もっともっと、ニーアの願いを、夢を、叶えてあげたいと思えてくるのであった。


「フフッ、私達、一緒だね」

【そうなるのかな?】

「そうだよ。んんんんっ、よぉぉぉし、やっぱりお願いしよう!」


 なにを思ったのかコハルがテンションを上げ、万歳すると、その勢いでニーアの両手を掴む。


「冒険者をめざそう! 私達三人なら、いつかきっとなれるわ」

【私が冒険者に?】

「うん、そう。それがこれからの夢! フフッ、どう、これからの事がちょっとは楽しくなってきた?」


 終始困惑気味のニーアにコハルはウィンクする。

 急に夢の話をし出したのは、おそらくニーアを思ってのことなのだろう。彼女の今後に少しでも期待とか、希望とか、明るい未来を夢見れるように……。


【検討します】

「フフフッ、二人が一緒なら私の夢も叶えられそうだわ! いや、叶う! なんてったって私達は最強のパーティーなんだからっ!」

【いや、まだ決まったわけじゃ。それにノウンの意見も聞かないと】


 興奮して一人暴走気味にはしゃいでるコハルにニーアは困りながら、話をこっちに振ってきた。


(いや、オレに意見を求められても)

「良いのよ! ノウンはどうせなにがあってもニーアの側を離れず付いてくるから。ニーアさえ落とせばこっちのモノよ」

(コハルさんや。興奮し過ぎて、本音がだだ漏れですぞ。まぁ、言ってることは正しいのでなにも言い返せないが)

【そ、そうなの?】


 コハルの暴論を聞いてニーアがなぜかしどろもどろになってオレに声で聞いてきた。

 オレは当たり前だと言わんがごとく、即、頷きエモートを実行する。


「~~~」


 オレの頷きを見て、ニーアがいつもより聞き取りづらい音を羅列し、俯いてしまった。


「どしたの、ニーア。顔が赤いよ?」


 コハルに指摘されて、ニーアはパッと自分の顔をタブレットで隠す。


「よぉし、明日から忙しくなるわよ! そうと決まったら今日はもう寝よう! 行こう、ニーア」


 ニーアの手を握ってコハルがキラキラした笑顔で引っ張っていくと、ニーアは困ったような表情から、どことなく嬉しそうな表情に変わり、小さく頷くのであった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。