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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

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12/23

Ver.1.1

コハルの視点です。

 殺気のようなものを感じてコハルは今いる場所から下がる。

 すると、町中で見ていたセンチネルと似たようなトルネードでコハルを掠めていく物体があった。

 センチネルの幼体だ。

 見ると身体のあちこちに血が滴り、すでに傷つけられた後だった。

 自分が町中で足を止めていた所為だとコハルはショックを受けるが、今はそれ以上にどうすれば良いのか分からず、気ばかり焦って考えが上手く纏まらない。

 そもそもあの程度の衝撃で檻が開くなど想像できる者は少ないだろう。ノウンなら運命シナリオの仕業かもしれないと納得していたかもしれないが……。


「待って! 私は敵じゃない!」


 意思の疎通を試みたがコハルに対して、幼体は攻撃で返してきた。

 傷ついているおかげで動きが鈍く、コハルは回避に専念すれば大怪我をすることはないが、怪我をしている幼体が心配だ。


「ひぃ、幼体が外に!」


 男が回復したのか状況を把握して早くも情けない声を上げる。

 その声を聞き、幼体はコハルから離れ、標的を男へと切り替えた。


「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃ! 来るなぁぁぁっ!」


 標的が自分だと分かった男は、その殺気に気圧され、腰が抜け座ったまま動かない。

 コハルの未だ纏まらない思考にノウンの言葉が過った。

 彼の言う通りなら、このままでは相討ちになって幼体が死ぬ。

 まるで未来を予知したようなノウンの言い回しに信憑性などなかったが、コハルは彼の言葉を信じて疑わなかった。

 コハルは自分が怪我をしても構わないという覚悟で、幼体の後ろから抱きつくように羽交い締めにする。

 幼体の大きさはコハルの頭くらいの大きさに大きな羽が付いているくらいなので、全身を使えば抑えることはできるはずだ。

 だが、傷ついた幼体とはいえ相手はセンチネル。少女の力では数分も保たないだろう。それまでに落ち着きを取り戻してくれたらとコハルは願うばかりだった。


「お願い! 落ち着いてぇぇぇっ! あなたを死なせたくないの!」


 暴れる幼体を懸命に抑えようとするコハルだが、振り乱される大きな爪に引っかかれ、両腕が傷まみれになっていく。

 極めつけにその鋭利な歯で深く腕を噛まれてはさすがのコハルも悲鳴を上げて幼体を離してしまった。

 解放された幼体は四つん這いになってのそのそと無様に逃げようとする男に向かって突進する。

 それに気が付いた男が持っていた短剣を幼体に向けた。

 今度こそノウンが言っていた展開と同じになる。

 町ではノウンが傷つきながらも皆を守りながら戦い、自分達の成功を信じて待っててくれているのに、そう思ったらコハルは諦めきれず、傷ついた身体を押して、もう一度捕獲しようとするが、相手の方が速く、もう手の届かない場所にいた。

 ダメなのか、一瞬認めたくない考えが頭を過る。


「~~~!」


 それは先程幼体が発していた音とよく似ていた。

 発したのはニーアだ。

 すると、奇跡が起きた。

 幼体はびっくりしたような素振りを見せると、突進を止めたのだ。

 そして、フヨフヨと空中に浮いたまま、ニーアの方を見ている。


「ひえあぁぁぁぁぁあっ!」


 そんな空間を壊すように男は持っていた短剣を捨て、悲鳴を上げながら手足を激しく動かして、また四つん這いになりそうな体勢で部屋を出て行くのであった。

 その姿を見送る幼体に、先程までの殺気は見当たらなかった。

 なにが起きたのか今一理解できず呆けるコハルの元にニーアが駆け寄ってくる。

 どうして良いのか分からずアワアワしながら傷を塞ごうとしていた。


「ニーア、なにをしたの?」


 コハルに言われてニーアは慌ててタブレットを出すとなにかを書き始めた。


【あのセンチネルの波結晶から感じる波動に合わせて、ノウンと話すようにできないかとずっと調整してて、さっき『止めて』ってお願いしてみたの。ちゃんと伝わったかは分からないけど上手くいって良かったわ】

「ハハ……だから、それってそんな簡単にできるもんじゃないんだって」


 簡単に言えばセンチネルと会話しようと試みたということだ。そんなことをしようとする人間なんて見たことがなかったコハルは身体の痛みを忘れて思わず笑ってしまう。

 彼女がいてくれて本当に良かった。

 コハルは心配そうに自分の傷を見ながら応急処置をし、時折フヨフヨと動き出す幼体に向かって声をかけるニーアに感謝するのであった。

 だが、これで一件落着とはいかない。


「早く幼体を親に返さないとね」


 コハルは痛い身体を無理矢理動かし、立ち上がるとフラついてしまいニーアに支えてもらった。

 そんな二人をフヨフヨと浮きながら眺める幼体は首を傾げて二人に寄っていく。


「待っててね。もうすぐ親の元に返してあげるから」


 浮遊する幼体にコハルが声を掛けると、理解したのかどうかは分からないが再び首を傾げて二人の周りを浮遊し始めた。


「だ、大丈夫かしら? ちゃんと付いてきてくれるかな?」


 心配になってコハルはニーアを見ると、彼女はうんうんと自信を持って頷いていた。

 ニーアが言うなら大丈夫か、などと謎の安心感に囚われてコハルは古井戸を上がっていき、再び地上に出る。

 そんなに時間は経っていないと思っていたが、町は想像以上に大変なことになっていた。

 家々は破壊され、炎が上がっている所も見える。

 その中心にいるのがあの巨大なカイコガのセンチネルだ。


「お父さん達は? ノウンは大丈夫だよね」


 コハルがニーアに聞いてみれば、先程のように頷いてみせる彼女の笑顔がどことなくぎこちなかった。

 と、二人に付いてきた幼体が声を上げ、飛んでいく。


「こらこら、慌てるんじゃないわよ。近づくにしても慎重にね。お母さん? の攻撃に当たらないようにしないと」


 親を見つけて駆け寄りたかったのだろうが、コハルは慎重に最後まで事を運ぶように冷静な判断をしていた。

 その思いが通じたのか、単純に危険を察知したのか、幼体も不用意には近づこうとせず、コハル達の周囲を忙しなく飛び回っている。

 と、近くで避難していたのかロイド達に出会った。


「コハル! どこに行っていたんだ!」


 事情を全く把握できていないロイドは町の皆と共に安全な場所として、ここら一帯へと退避していたみたいだ。おそらく、ノウンがここへの交戦を避け続けたおかげで安全な区域になったのだろう。


「事情は後で説明するわ。今はあの子を返さないと」


 そう言って、コハルは慎重に近づけたおかげで空にいる親の元へと近づけるようになった幼体を見送る。すると、釣られてロイドもそれを見送っていた。

 これで町は守られた。

 そう思ってホッと胸を撫で下ろそうとしていたコハルの期待を裏切るように、空間を震わせるようなセンチネルの叫びが町中に響き渡る。


「な、なに? どうしたの?」


 事態が把握できず無意識にコハルはニーアを見て返答を求めていた。


【子供を傷つけられて怒ってるような気がする】


 ニーアのタブレットに書かれた返答に、コハルはあの状況で生きていてくれたことにホッとした所為で、それまであの研究員に痛めつけられていたことを忘れてしまっていた。

 子供が無為に傷つけられたのだ。怒らない親はいないだろう。

 しかも先程までノウンと互角の戦いを繰り広げていたため頭に血が上りすぎて、冷静さを失っているのもマイナス要因だった。

 大きく開けた口から高周波のような鳴き声が響き、センチネルの前に舞い散っていたキラキラ光る鱗粉が収束して大きな光の球へと変化していく。身体にある波結晶がセンチネルの叫びに共振し続けて、巨大な光球が熱を帯びていった。

 と、その光景を呆然と見続けるコハル達の遥か前にノウンが舞い降り、立ちはだかる。

 彼の胸にある波動炉と呼ばれるモノが大きな唸りを上げてパワーを上げていくと、彼の身体が共振に絶えられないのかヒビが入り始めているのが見えた。


「ノウン、なにする気なの!」


 言っておいてコハルはなんとなく理解していた。

 彼はあの攻撃をその身で受け止め、守り抜こうとしているのだ。

 その証拠に彼はセンチネルとコハルを含め避難した皆の間に立ちはだかって、守るように両腕を広げている。

 思わず叫ぶコハルから離れ、今までとは打って変わって珍しいくらいに取り乱したニーアがノウンに向かって駆け出していった。

 本来なら危険だと彼女を止めるべきなのだろうが、コハルが口にしたのは逆だった。


「ニーア、お願い! 彼を守ってぇっ!」



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