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ウェイブス・ドールは推しを守護りたい  作者: ちゃつふさ
第一章 運命を変えようとするもの

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11/23

Ver.1.0

コハル視点です。

 コハルはノウンが言う廃屋には心当たりがあったので比較的すぐに到着できたが、古井戸がここのどこかにあると分かっているのに見つけられなかった。


「なんで、見つからないの?」


 焦るコハルの横で、ニーアがなにを思ったか聞き取りにくい声を発する。

 すると、どうして気づかなかったのか、近くに古井戸があることに気が付いた。


「え? え?」


 なにがどうしてこうなったのか、分からないといった顔でコハルはニーアを見る。


【認識阻害の波動を感じたの。サークレイ研究機関ではよくある手法よ】


 認識阻害の波動具。そういったモノがあるとは『おじさん』から聞いていたが、こういうものかと体験し、コハルは不謹慎にも感動していた。


「なるほど、今まで見つからなかったのはこういうことだったのね」


 感心しながらコハルは古井戸を確認すると、外側は苔生しているが、内側は綺麗なもので明らかに最近まで人の手が加わっているように思える。


「思ったより深いわ。降りるんならロープを持ってくるべきだったわね」


 よぉく見ると、井戸の奥、見えるか見えないかギリギリの所に梯子らしきものが見えているが、降りて足が届く高さではなかった。


「どうしよう。あの梯子ってたぶんあいつらが行き来するためのモノだよね。動かせたら良いんだけど」


 そうはいってもなにかスイッチらしきモノは見つかっていない。


「~~~」


 途方に暮れていたコハルの横で今度は古井戸の穴に向かってニーアが声を発した。

 すると、驚くことに梯子が反応し上へと伸びてきたのだ。


「す、凄い凄い。どうやったの?」


 嬉しさの余り思わずニーアにハグするコハルにニーアは照れながらなにかをタブレットに書いている。


【あの梯子の波動具から感じられた波結晶と同じ波動を共振させてみただけだよ】

「う、うん、さっきから簡単そうに言ってるけどそれって結構難しい事じゃなかったっけ? ま、まぁ良いか。お手柄よ、ニーア」


 コハル一人ではおそらくここで大きくタイムロスをしていたかもしれない。見つけるのに時間が掛かり焦って強引に降り、大怪我をしていたかもしれなかった。

 町での出来事も考慮して、ニーアが付いてきてくれて正解だったとコハルは喜び、自分が役に立ってニーアも嬉しそうにしていた。

 古井戸を慎重に降りていくと、そこは広めな空洞だった。おそらくここに水が溜まっていたのだろうが今は枯れ果て、一滴も水はない。

 代わりに横へと続く洞穴があり、奥を見ると明かりが見えた。

 コハルは口に人差し指を当て、ニーアに声を出すなと動作で伝えると、ニーアは口に手を当てコクコクと頷いてくる。

 そうして二人、静かに奥へと進んでいくと、程なくして男の声が聞こえてきた。


「くそっくそっ、なんで波動人形がわざわざこんな遠い島まで来るんだ。せっかく使えそうなガキを一人連れて来れたのに」


 悪態をつくその声には聞き覚えがあった。

 まさか、自分を攫った相手がこんな所にいようとは、コハルの緊張感が高まっていく。


「――――ッ!」


 と、男の声を掻き消す程の人ではない甲高い鳴き声が部屋から響いてくる。


「ああ、そうだそうだ、もっと鳴け! 今ならお前の波動が届くだろうよ」


 研究所となっている入り口の前でコハルとニーアは身を隠し、中の様子を伺っている。

 中年の男が一人、机の上に置かれていた檻に向かって先程から叫んでいた。それ以外に人影は見当たらない。

 幸運だったのは、相手が入り口から背を向けているおかげで、コハル達がいることに気が付いていないことだった。

 そして、男の独り言からして檻の中にいるのはおそらく件の幼体だ。


「良いことを思いついたぞ、お前を殺せば親は怒り狂ってこの町を破壊し、俺達を滅ぼしに来たあの悪魔に見境無く攻撃を仕掛けてくるに違いない」


 ノウンが言っていた傷つけるから飛躍して殺すとまで言い出した男に、コハルは焦って思わず飛び出してしまう。


「そんなことさせないわよ!」

「なっ!」


 突如後ろから声がして男が慌てて振り返る。コハルは身長が低いので男の太腿を狙って持ってきた短剣を振った。

 肉を斬り裂く感触が手に伝わってくる。


「ぎぃやあぁぁぁぁぁっ!」


 なんとも惨めな声を上げ、男が転げ回った。

 そんなに深い傷ではないのに重傷でも負ったような狼狽っぷりにコハルは段々冷静さを取り戻してくる。


「ひ、あ、お、お前はコハル! どうしてここに、あの悪魔に殺されていなかったのか」


 涙を流し狼狽えていた男がコハルを見て驚愕する。その表情はいつもの優しそうなあの『おじさん』の面影が全くなかった。


「そ、そうだ。大変なんだ。そこにいる化け物の所為で町が襲われている。早くその化け物の息の根を止めなければいけない。コハル、手伝ってくれ!」


 腿の痛みで脂汗を垂らしながらもいつもの優しそうな表情に戻った男にコハルは今まで感じなかった違和感を覚える。

 今までの自分ならノウンとは逆のことを言っている男の話を鵜呑みにして幼体を殺してしまっていただろう。

 だが、コハルは長年友好を深めてきた目の前の男より、出会ったばかりなのに、町で自らを盾に皆を守り戦っているノウンの言うことの方が正しいと思う自分がいることに少し驚いていた。


「おじさん、あなたがサークレイ研究機関の人間だって知ってるよ」

「なっ、どうしてその名を」


 一度も教えたことのない名をコハルが口にして男は驚き、優しそうな表情が崩れる。


「私、見たの。施設の中にあった報告書。私を拉致して洗脳するって」


 コハルは自分でもびっくりするくらい冷ややかな気持ちで男を見ていた。


「チッ、ガキのくせに妙に頭が回る。そういう所がムカつくんだよ」


 化けの皮が剥がれ、いつもの穏やかな表情が無くなり、悪態をつきながらコハルを睨む男は波動具の共振音を発してなにかをコハルに向かって投げた。

 すると、それはコハルの近くでもの凄い閃光を放ち、一瞬視界が真っ白に塗り潰される。


「くっ、お父さんが言っていた閃光の波動具。まだあったの」


 目を瞬かせ、視界を取り戻そうとするが、上手く回復できず、なにかが接近してくる気配を感じると、地面に押さえつけられてしまった。


「フッ、ガキが調子に乗りやがって」


 いくら非戦闘員といっても大の大人の力に子供のコハルが勝てるわけもなく、押さえ続けられ動けない。しかも、持っていた波動具の短剣を奪われる始末だ。


「ホォ、良いモノを持ってきてくれたじゃないか。俺が持っていた武器じゃ、幼体を傷つけられても殺せる強度がなかったから丁度良かったぜ」


 男は短剣を眺めながら別の共振音を発すると、刃がほんのり赤くなりそこに熱が生じているのが分かった。


「ふむ、どのくらいの切れ味か試さないとなぁっ!」


 そう言って男はニヤつき、押さえつけているコハルを見下ろすと、持っていた短剣を振り上げ、コハルに向かって突き刺そうとした。


「ぐあぁぁぁっ!」


 別の方向から共振音が聞こえたかと思ったら、男の振り上げた手に風の矢が当たり、男は手を傷つけられ怯んだ。

 おそらく放ったのはニーアだ。

 今まで武器を扱うことに無縁だったせいで、どうして良いのか分からず、今まで息を潜めていたのだろう。だが、コハルの危機に思わず放った矢が、偶然なのか、それとも狙ったのか、とにかく男の手にヒットしたのだ。


「くっ、もう一人いたのか! お、お前は実験体の――」

「うわぁぁぁっ!」


 男が怪我と驚きでコハルへの拘束が緩むのを見逃さず、振りほどくと全身を使って思いっきり男に体当たりをした。

 予想外のことばかりで狼狽えていた男がそれを真面に受けてコハルごと後ろへ倒れると、そこにあった机に激突する。

 誰にも見つからず、スムーズに持ち運ぶためだったのか、その机は軽量設計で強度が低く、簡易的な作りになっていたため、二人の衝突に耐えられず軸の一つが折れ、机の上にあったモノを色々ぶちまけられた。

 男の方はぶつけた所が悪かったのか後頭部を押さえて痛みに転げ回っている。

 今のうちに幼体を解放すればとコハルが机の上にあるはずの檻を見ると、そこにはなにもなく、慌てて周囲を見ると扉が開いた小さな檻が床に倒れ落ちているのを見つけるのであった。


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