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EP 8

最悪の来訪者! 空間図形で論破する『不当な差し押さえ』

 昨晩の大宴会の余韻が残る、穏やかな朝。

 美味しいご飯でお腹を満たし、ふかふかのベッドで眠りについた俺たちシェアハウスの住人は、優雅な朝のコーヒータイムを楽しんでいた。

 ――ドンドンドンドンドンッ!!!

 だが、その平穏は、玄関のドアを破壊せんばかりの乱暴なノックによって無惨に引き裂かれた。

「な、なんなんですの!? 朝から借金取り……ハッ! もしかして、私のパンの耳代のツケが!?」

「あんたツケでパンの耳買ってたの!?」

 怯えるリーザとツッコミを入れるキャルルを制し、俺は眉間を揉みながら玄関へと向かった。

 ドアを開けると、そこには嫌味なほどピシッとした燕尾服を着て、銀縁眼鏡をかけた神経質そうな男が、数人の武装した衛兵を引き連れて立っていた。

「……どちら様で?」

「王都中央銀行・次元融資部および、王都特選徴税局から参りました。特別徴税官のザルバと申します」

 男――ザルバは、蔑むような目で俺たちを見下しながら、仰々しい羊皮紙の巻物を広げた。

「単刀直入に申し上げましょう。異世界転生者マモル。貴殿の所有するこの土地の地下より、特級指定資源である『高純度マナタイト』の莫大な魔力波長が観測されました」

「なっ……!?」

 背後にいたキャルルが息を呑む。

 早すぎる。昨日の昼間に発見して、必死に埋め戻したばかりだぞ。王都の監視網はどうなっているんだ。

「王都の『次元資源管理法』に基づき、特級資源が埋蔵されている土地は速やかに国が接収いたします。よって、貴殿のローンは事実上破綻。この家は本日ただいまを以て、我々が差し押さえることとなりました」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! まだ月末の期日まで時間があるじゃない! いきなり家を奪うなんて横暴よ!」

 キャルルが怒りの声を上げ、トンファーを握りしめる。

「横暴? 法律を遵守しているだけですが。……もっとも、どうしてもこの家にしがみつきたいと言うのであれば、特例措置がないわけではありません」

 ザルバは銀縁眼鏡を妖しく光らせ、ニヤァッと口角を上げた。

「地下の資源価値を担保とし、現在滞納しているローン300万Gに『資源独占違約金』を加算した3000万Gを、**『本日中』**に一括納付していただければ、見逃して差し上げましょう。まあ、底辺の転生者には逆立ちしても無理な金額でしょうがね」

「さ、さんぜんまん……!?」

 リーザが白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

 完全に足元を見ている。払えないとわかっていて、合法的に土地と家を奪い取るための悪徳官僚の常套手段だ。

「さあ、とっとと荷物をまとめて出ていきなさい。抵抗するなら、衛兵の力を使って実力行使に出るまで――」

「……随分とガバガバな調査で、他人の家を差し押さえようとするんだな」

 俺は、ザルバの言葉を冷たく遮った。

「なんだと……? 貴様、王都の誇る『超広域魔力探知レーダー』を愚弄するか。昨日、王都の観測所にある魔力センサーが、明確にこの方角からの莫大な魔力波長を捉えたのだぞ!」

「ほう、そのセンサーとやらは『どこ』に設置されている?」

「決まっているだろう、王都の中央塔の頂上(1箇所)だ!」

 その瞬間、俺は思わず鼻で笑ってしまった。

 あまりにも杜撰。あまりにも前時代的。前世の数学教師としての血が、ドクンと音を立てて沸き立った。

「いいか、ザルバとやら。波(波動)の強さ I は、発生源の出力 P と距離 r を用いて、逆二乗の法則によって導かれる」

 俺は虚空に指で数式をなぞりながら、一歩前に出た。

$$ I = \frac{P}{4 \pi r^2} $$

「王都のセンサー(1箇所)が波長を感知した。方向も魔法のコンパスで分かったとしよう。だが、それだけでは『距離 r 』と『出力 P 』の組み合わせは無数に存在する!」

「な、何を言っている……!」

「つまりだ! うちの地下にある小さな魔力源が反応したのか、それともこの家のずっと奥……アルニア山脈の地中深くにある超巨大な魔力源が反応したのか、たった1箇所の観測点では絶対に特定できないんだよ!」

 俺はバインダーを叩きつけ、ザルバに詰め寄った。

「三次元空間における座標の特定(GPSの原理)には、最低でも『4箇所』からの観測データ(三辺測量)が必要不可欠だ! それをたった1箇所のデータと方角だけで『お前の家の地下だ』と断定するなど、数学的にも物理学的にも、そして法的証拠としても完全に破綻している!!」

「ぐっ……!? なんだその屁理屈は! しかし、現にコンパスはここを……!」

「なら今すぐこの場で、最低4箇所からの三角測量データと、誤差範囲を記した正式な『地質調査報告書』を提出しろ。提出できないなら、お前がやっていることはただの『憶測による不法侵入および恐喝』だ。今すぐ王都の裁判所に訴え出て、お前を逆告訴してやる」

「――――ッ!!」

 俺の理詰め(とハッタリ)の猛烈なプレッシャーを浴びたザルバは、顔面を蒼白にさせて後ずさった。

 ファンタジー世界で魔法に頼り切っている連中は、こういう『基礎的な空間認識の数学』にめっぽう弱い。

「お、覚えていろ! 近いうちに必ず正式な調査団を派遣して、貴様の足元を暴いてやるからな……! 撤収だ!!」

 ザルバは衛兵たちを引き連れ、捨て台詞を吐きながら逃げるように馬車へと乗り込み、走り去っていった。

「や、やったーっ! マモル先生の大勝利ですのー!」

「すごいわマモル! 何言ってるか全然わかんなかったけど、あの嫌味なメガネが完全に論破されてたわ!」

 リーザとキャルルが歓喜の声を上げ、キュララも「今の論破シーン、しっかり録画したよー!」とサムズアップしている。

 だが、俺の額からは冷や汗が滝のように流れていた。

(……誤魔化せたのは今だけだ)

 時間稼ぎには成功した。だが、王都が本気を出して複数の探知機を持ち込めば、我が家の地下の金脈は確実にバレる。

 調査団が来る前に、なんとしてもこの300万G(あるいは3000万G)という莫大な借金問題を、合法的に、かつ完全にクリアする『方程式』を完成させなければならないのだ。

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