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EP 7

嵐の前の大宴会! 自家製魔界野菜のフルコースと守るべき日常

「お待たせしましたわ! 『テンタクル・ブラッドトマトと魔界キャベツの無水煮込み』、完成ですわよ!」

「こっちの『歩く大根の照り焼きステーキ・特製オニオンソースがけ』も焼き上がったわよー!」

 ダイニングテーブルに次々と運ばれてくる、湯気と芳醇な香りを放つ料理の数々。

 ここは俺のスキル『マイホーム』によって建てられた5LDKの一軒家。今夜は、昼間に命がけで収穫した(そして昨夜リーザが密売しそうになった)自家製魔界野菜をふんだんに使った大宴会が開催されていた。

「う、美しすぎますの……! 黄金色に輝くタレ、真っ赤に熟したトマトの海……これが、これが本当にあのバケモノたちの成れの果てなんですの!?」

 ダイニングチェアの上で、リーザが目をキラキラと輝かせ、よだれを限界まで決壊させていた。昨夜、窃盗未遂の罰として「大根の葉っぱ(無農薬)」を宣告されていたが、さすがに哀れに思ったキャルルが料理を分けてくれたのだ。

「感謝しなさいよね、リーザ。マモルが『今回は栄養学的な観点から特例としてフルコースの摂取を許可する』って言ってくれなきゃ、あんた今頃本当に青虫みたいな生活だったんだから」

「マモル先生! 悪魔とか資本主義の犬とか言ってごめんなさいですの! あなたこそ私の神、我がプロデューサーですのー!」

「調子がいい奴だな」

 俺はグラスに注いだ安物のエールを口に運びながら、ふっと息を吐いた。

「勘違いするな。お前の昨夜の消費カロリーと、今後の労働による期待消費エネルギーのバランスを計算した結果、基礎代謝を下回ると作業効率が**35%**低下するというデータが出たからだ。要するに、明日からのドブさらいでしっかり働いてもらうための『先行投資コスト』に過ぎん」

「もう、マモル様ったら素コン(素直じゃない)ですのね。そんな風に数式やデータで誤魔化さなくても、みんなで美味しくご飯を食べたいと言ってくださればよろしいのに」

 ルナがクスクスと上品に笑いながら、俺の隣に座る。

「みんなー! 今日の配信は『神回確定! 異世界のバケモノ野菜をガチ調理して大宴会してみた!』だよ! ほらほら、画面の前の皆さんも飯テロの時間だよ〜!」

 キュララは相変わらずドローンカメラを回しながら、フォークに刺した大根ステーキをカメラに近づけている。

『美味そうすぎるだろ!』

『さっきまで襲いかかってきてた大根とは思えんww』

『リーザが泣きながら食ってて草』

『¥10,000 楽しそうなシェアハウスで癒されるわ』

 画面の向こうの視聴者たちも、この平和な(?)日常の風景を楽しんでいるようだ。

「……んぐっ、んまーーいっ!! なにこれ、大根なのにまるでお肉の繊維みたいなジューシーさですの! トマト煮込みも、ピリッとした酸味の後に濃厚な旨味がガツンと来ますの!」

 リーザが両手にフォークとスプーンを持ち、文字通り顔中をソースだらけにしながら料理を口に放り込んでいく。

「ふん、当然よ。私の火加減と、ルナの隠し味(魔界ハーブ)の黄金比が成せる業なんだから」

 キャルルも満足そうに胸を張り、大根を口に運んだ。その表情には、日中のドブさらいの疲れなど微塵も残っていない。

 賑やかに笑い合う彼女たちの姿を、俺は静かに見つめていた。

 前世では、ただ機械的に数学を教え、四角四面のセオリー通りに生きるだけの退屈な毎日だった。異世界に転生し、この『マイホーム』というスキルを手に入れた時も、ただ静かに引きこおってスローライフを送るつもりだった。

 だが、気づけば周りには、借金まみれのポンコツアイドルに、脳筋の元冒険者、魔界のお嬢様に、現代風の配信者。

 トラブルばかりで、毎日のように胃が痛む。おまけに月末には300万Gのローン返済という地獄が待っている。

(……だけど、悪くないな)

 これだけ騒がしくて、だけど温かいこのリビング。

 数学の公式では決して導き出せない、この不条理で愛おしい日常。

(王都の銀行が何と言おうが、このマイホームと、こいつらの笑顔だけは……絶対に差し押さえさせるわけにはいかない)

 俺は心の中で、静かに、だけど固く決意を新たにした。そのためには、地下の金脈をどう隠し通すか、あるいはどうやって合法的に300万Gを叩き出すか、さらに精密な方程式を組み立てる必要がある。

「マモル先生、何ボサーッとしてんのよ! ほら、あんたの分のステーキ、冷めちゃう前に食べなさいよ!」

 キャルルが俺のお皿に、一番大きな大根ステーキをポンと乗せてくれた。

「ああ、ありがとう。……よし、それじゃあ計算通り、美味しくいただくとしよう」

 俺たちが笑い声を上げ、乾杯のグラスを合わせたその瞬間。

 マイホームの外、夜の静寂に包まれたアルニア領の街道を、一台の馬車が激しい音を立ててこちらへと走ってきていることに、俺たちはまだ誰も気づいていなかった――。

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