EP 5
キュララの農業配信! 襲い来る『歩く大根』と食レポの流儀
「はーい、みんなこんキュラ〜! 今日も元気に異世界から生配信、キュララだよ〜!」
スマホを取り付けた自律飛行ドローンに向かって、純白の翼をパタパタと揺らしながらキュララが愛嬌たっぷりにウインクを決める。
画面の端には、リアルタイムで視聴者からのコメントと投げ銭が滝のように流れていた。
『こんキュラー!』
『今日も顔がいい』
『で、後ろの魔境はなに?www』
『なんか叫び声聞こえない?』
「あはは、みんな鋭いなー! 今日はね、我がシェアハウスの庭から『マイホーム農業・収穫祭』をお届けしちゃいまーす!」
キュララがカメラを反転させると、そこには第3話でルナの『魔界特製・超速成長肥料』によって完全にバイオハザードと化した、鬱蒼たるジャングル(元・芝生の庭)が映し出された。
「たす……けて……! 足が、足が抜けませんのぉぉぉっ!!」
ジャングルのド真ん中では、芋ジャージ姿のリーザが、二股に分かれた巨大な大根――通称『マンドラゴラ風・歩く大根』の強靭な根っこに両足をホールドされ、逆さ吊りにされていた。
「おおーっ! 見てみてみんな! リーザちゃんが立派な『歩く大根』を見つけてくれたよ! さっそく収穫しちゃおうねー!」
「見つけたじゃないですの! 食べられかけてるんですの!! 早く助け……ぎゃああっ! 振らないで! 脳みそが寄るゥゥゥッ!」
キュララは逆さ吊りのリーザを完全に無視し、カメラに向かってピースサインを作る。
『リーザ草』
『パンの耳生活の次は大根の養分か』
『ナイスリアクションww ¥5,000』
「わっ、スパチャありがとう! それじゃあ、今からこの大根を引っこ抜くよ! えいっ!」
キュララが歩く大根の葉っぱを掴んで力任せに引っ張るが、魔界の栄養を吸い上げた大根はビクともしない。逆にリーザがゴム紐のようにビヨーンと引き伸ばされ、悲鳴を上げている。
「チッ……素人が力任せに引いたところで、根の摩擦抵抗と土の粘着力に勝てるわけがないだろうが」
見かねた俺は、バインダー片手にため息をつきながら庭に足を踏み入れた。
地下水路での『金脈隠蔽作業』を終えて地上に戻ってきたばかりだというのに、休む暇もない。
「いいかキュララ。対象物(大根)を引き抜くために必要な力 F は、大根の表面積と土の摩擦係数、さらに地下茎が展開している角度によって決まる。真上に引っ張るのではなく、円錐状に張られた根の『一番弱いベクトル』を探るんだ」
「むずかしいことはわかんないよマモルせんせー! 物理でなんとかしてー!」
「……まったく。そこをどけ」
俺は歩く大根の前に立ち、三節棍をシャラッと展開した。
大根の形状、葉の向き、そして土の盛り上がり方から、地下の根の構造を瞬時に頭脳で3Dモデリングする。
(主根の角度は斜め下30度……側根の張力バランスから見て、右斜め上への回転モーメントを与えれば、摩擦係数は劇的に低下する……ここだ!)
俺は三節棍の先端を大根の側面に引っ掛け、テコの原理を利用して螺旋状の捻りを加えた。
スポポポポポーンッ!!!
心地よい破裂音と共に、大人の背丈ほどある巨大な『歩く大根』が、リーザを巻き添えにして綺麗に空を舞った。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」
ベチャッ! と顔面から泥に突っ込むリーザ。
その横で、無事に収穫された大根が「キュゥゥ……」と情けない鳴き声を上げて大人しくなる。
「さっすがマモルせんせー! 計算通りの一撃! みんな、これがうちの理系プロデューサーだよー!」
『マモル先生の物理農業エグくて好き』
『農業とは(哲学)』
『¥10,000 大根おろしにして食べたい』
「よし! じゃあスパチャももらったし、早速この大根を実食してみよー!」
数十分後。
マイホームのキッチンで、キャルルが力任せにぶつ切りにした『歩く大根のステーキ』がテーブルに並べられた。
魔界の野菜だけあって、切り口からは肉汁のような謎の液体が滴っている。
「いっただっきまーす! ……んんっ!?」
一口食べたキュララが、目を丸くして翼をバサッと広げた。
「な、なにこれ! めっちゃ甘い! 大根なのに口の中でとろける最高級のお肉みたい!!」
「……ホントですの! パンの耳より一万倍美味しいですのーっ!!」
泥だらけのリーザも、涙を流しながら大根ステーキを貪り食っている。どうやらルナのチート肥料のおかげで、味だけは一級品に育っているらしい。
『美味そう』
『飯テロやめろ』
『¥50,000 食費浮いてよかったね!』
「みんなスパチャありがとー! 今日はこれで配信終わるね! おつキュラー!」
笑顔で配信を切り、ホクホク顔でスマホの残高を確認するキュララ。
今回の配信で稼いだ金額は、ざっと5万Gといったところか。
(……美味いのは結構だが、食費が浮いたところで、月末のローン300万Gには到底届かない……)
和気藹々とバケモノ野菜を頬張る同居人たちを横目に、俺は一人、静かに胃薬を飲んだ。
地下に眠る莫大な金脈と、月末に迫る税金徴収のタイムリミット。
王都のエリートたちが、このマイホームの異常に気づくのは、もう時間の問題だった――。




