EP 4
キャルルのドブさらい奮闘記と、地下に眠る『黄金のフラグ』
「……っそりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
薄暗く、ひんやりとしたアルニア領の地下水路。
キャルルの気合の入った叫び声と共に、彼女の愛用する鋼鉄のトンファーが、水路を塞いでいた巨大なヘドロの塊を粉砕した。
バシャアァァッ!!
飛び散る汚水と悪臭を放つ泥。
しかし俺は、合気道の神髄である『入り身』の歩法で、飛沫の軌道をコンマ1秒で見切り、一滴たりとも服を汚すことなく回避した。
「はぁ、はぁ……ちょっとマモル! あんたも突っ立ってないで手伝いなさいよ! なんで私ばっかりこんな臭いドブさらいのバイトを……!」
泥だらけになったキャルルが、肩で息をしながら俺を睨みつける。
「バカ言え。俺は現場監督兼、効率化のための『頭脳労働』を担当しているんだ」
俺は持参したバインダーに数式を書き込みながら、推し量ったように頷いた。
「いいかキャルル。流体の流量 Q は、水路の断面積 A と流速 v の積、すなわち Q = A \cdot v で表される。お前が力任せにヘドロを砕いて断面積 A を広げたおかげで、滞留していた汚水が一気に流れ出し、流速 v が劇的に改善された。素晴らしい物理的アプローチだ」
「小難しい理屈はいいから、そのバインダーで一発でもヘドロを叩きなさいよ!! 月末までに300万G必要なんでしょ!?」
キャルルがキーキーと怒るのも無理はない。
彼女のこの「地下水路清掃特別バイト」の日給は、危険手当込みでわずか500G。300万Gのローン返済には焼け石に水だが、少しでも現金を稼がなければならないのが今の我がシェアハウスの悲惨な現状だ。
「よしよし、よくやってるぞキャルル。その調子で、あの奥にある不自然に隆起した岩壁もぶっ壊してくれ。あそこが一番のボトルネック(水流の妨げ)になっている」
「あーもう、わかったわよ! パパッと終わらせて、早くマイホームの広いお風呂に入るんだから!」
キャルルはトンファーを構え直し、不自然に隆起した水路の岩壁に向かって猛ダッシュした。
「粉砕ッ!! 『双竜・重力破』!!」
ドッゴォォォォォォォンッ!!!
キャルルの渾身の一撃が岩壁に直撃した瞬間、地下水路全体が大きく揺れた。
岩壁はただのヘドロの塊ではなく、本物の岩盤だったらしい。分厚い岩が蜘蛛の巣状にひび割れ、轟音と共に崩れ落ちる。
「……げっ、やりすぎた!? 水路、壊しちゃってないわよね!?」
むせ返るような土煙の中で、キャルルが慌てて後ずさる。
だが、俺の目は、崩れ落ちた岩壁の奥から漏れ出す「異常な光」を捉えていた。
「……おい、キャルル。あれを見ろ」
「え……? うわっ、何これ。眩しっ……」
土煙が晴れたそこには、水路の暗闇とは無縁の、まばゆい空間が広がっていた。
崩れた壁の奥には巨大な空洞があり、壁面や地面の至る所に、黄金色に輝く水晶のような鉱石がびっしりと群生していたのだ。
「これは……『高純度マナタイト鉱石』……しかも、見たこともないほどの極上品だ」
俺は崩れた穴から空洞に入り、壁から突き出た黄金の鉱石を一つ手に取った。
ただの教師である俺でもわかる。これは、信じられないほどの価値を秘めた『金脈』だ。
「マ、マモル! これってつまり……お宝ってことよね!? これを掘り出して売れば、300万Gなんて一瞬で……!」
キャルルの目が「G」の形になっている。
「ああ。この規模の鉱脈なら、300万どころか、王都の城が買えるレベルの金額になるかもしれない」
「やったぁぁぁっ! これでドブさらいとも、貧乏パンの耳生活ともおさらばよ!!」
歓喜のあまり、俺に抱きついてピョンピョンと跳ねるキャルル。
だが、俺の前世(理系)の冷静な空間認識能力は、ある恐るべき事実に気がついてしまっていた。
(……待てよ。この地下水路の位置から計算して、この巨大な鉱脈が伸びている方角と深度……)
俺は青ざめた顔で、頭上の岩盤を見上げた。
(ここ……うちの『マイホーム』の、ど真ん中の地下じゃないか……!?)
自分の土地の地下に眠る、莫大な富。
一見すれば幸運に見えるが、ここは法律がガバガバの異世界だ。こんな莫大な資源が眠っていると国(王都)にバレれば、強引な理由をつけて土地ごと接収されるに決まっている。
「キャルル……喜んでいるところ悪いが、この金脈のことは、絶対に他言無用だ。キュララの配信にも絶対に映すなよ」
「えっ? なんでよ? これでローンを一括返済……」
「いいから黙って、さっき崩した壁を石で塞ぐんだ! 早く!!」
「な、なによ急に!?」
俺たちは慌てて証拠隠滅を図った。
だが俺はまだ知らなかった。この時、すでに王都の『次元融資部』と『徴税局』の恐るべき探知魔法が、我がマイホームの地下に眠るこの莫大な魔力反応を、正確に捉えてしまっていたことに――。
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