EP 10
炎上からの収益化! 頂点と底辺
「離せやコラァ! ワシを誰やと思っとるんや! ゴルド商会のオロチ会長やぞ!!」
アルニア領の中央警察署前。
無数のフラッシュが瞬く中、手錠をかけられたオロチが警察官たちに引きずられていく。
特定班によって裏帳簿や賄賂の証拠が完全に暴かれた彼は、もはや言い逃れのできない状況に追い込まれ、アルニアTVへの不正介入および数々の余罪で一発実刑(ざまぁ完了)となった。
「おのれリーザ……! あの芋ジャージの小娘、絶対に許さんからな……ッ!」
完全に「塩対応化」したオロチは、かつてのずっ友に呪詛を吐きながらパトカーへと押し込まれていった。
この様子もまた、上空からキュララによって生配信され、ネット上のヘイトを見事に吸収する極上のエンタメとして消費されていくのだった。
* * *
一方その頃。アルニア領、シェアハウスのリビング。
「……この度は、わたくしの軽率な行動により、多くの皆様にご迷惑をおかけし、誠に、誠に申し訳ございませんでしたの……ッ!!」
カメラに向かって、深々と頭を下げる少女。
芋ジャージではなく、俺が用意した「いかにも反省しています風の清楚な白いワンピース」に身を包んだリーザである。
彼女の目からは、ポロポロと大粒の涙が溢れ落ちていた(※直前にキャルルが玉ねぎをすりおろした匂いを嗅がせている)。
「オロチおじ……いえ、オロチ容疑者に『テレビで歌わせてあげる』と騙され……わたくしは、ただ皆さんに歌を届けたい一心で、あのような恐ろしい癒着に巻き込まれてしまったのですの……うぅっ……」
震える声、可憐な涙、そして「大人に騙された純真な被害者」という完璧なシナリオ。
画面の端で配信を管理しているキュララが、俺に向かって無言でガッツポーズをした。
『リーザちゃんは悪くないよ!』
『パチンコ親父に騙されただけだ! 可哀想に!』
『俺たちがリーザちゃんを支えるぞ!!』
ピコンッ! ピコピコンッ! ピロロロロロリーンッ!!!
同接500万人のチャット欄に、すさまじい勢いで虹色のスーパーチャット(高額投げ銭)が飛び交い始めた。
その額、なんと開始5分で一千万Gを突破。
同情と炎上が入り混じった現代ネット社会の錬金術、『涙の謝罪生配信(スパチャ全解放)』が大成功を収めた瞬間である。
(……キタ、キタキタキタですのーーッ!!)
頭を下げながら、リーザは前髪の奥で『強欲』の笑みを爆発させていた。
(チョロいですの! 所詮リスナーなんて、少し泣いて見せれば財布の紐がガバガバになるATMですの! これでパンの耳生活とは永遠におさらば! タワーマンションの最上階で高級寿司を毎食……!!)
「はい、配信終了ー! お疲れ様でしたーっ!」
キュララがカメラを切り、配信の終了ボタンを押す。
その瞬間、リーザはバッと顔を上げ、ワンピースの裾を翻して歓喜のダンスを踊り始めた。
「やりましたの! マモル先生! 見ましたかあの額! トータルで五千万Gを超えましたの! 私、大富豪ですのーっ!!」
「ああ、お疲れさん。見事な泣き演技だったぞ」
俺はソファから立ち上がり、手元の『収益ダッシュボード』を操作しながらリーザの前に歩み寄った。
「で、では! 早速その五千万Gを私の口座に……!」
「あ? なに言ってんだ?」
俺は冷酷な笑みを浮かべ、赤ペンでリーザの額をペシッと叩いた。
「アルニアTVへの番組乗っ取りの違約金と慰謝料、2千万G。VIP病棟の扉および備品の破壊代、1千万G。シェアハウスの窓ガラス修理代、5万G。そして――俺のプロデュース料および炎上ペナルティ、残り全額だ」
「…………え?」
リーザの動きが、ピタッと止まった。
「しゅ、収益は……」
「全額没収(相殺)に決まってんだろ。お前が勝手にやった不始末だ。むしろこれでも足りないくらいだから、感謝してほしいね」
チャリーン。
俺は唖然とするリーザの手に、いつもの見慣れたスーパーのビニール袋を握らせた。
「ほら、明日の朝飯だ。スーパーの特売で余ってた『パンの耳』と、ルナがその辺の雑草で作った『草サラダ』だ。……お前はまだ、そこからやり直せ」
「あ……あ……」
リーザはその場で膝から崩れ落ち、ビニール袋を抱きしめた。
オロチとの癒着で得た一時の栄光も、謝罪配信で得た五千万のスパチャも、すべては幻のように消え去った。残されたのは、いつもの芋ジャージ(洗濯済み)とパンの耳だけ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 私の愛と富(Love & Money)があぁぁぁっ!!」
本物の、心の底からの絶叫がシェアハウスに響き渡る。
「はいはい、うるさいわよ。明日も朝からポポロ村でドブさらいの依頼入ってんだから、さっさと寝なさい!」
キャルルが呆れ顔でリーザの首根っこを掴んで引きずっていく。
「ふふっ。やはりお金とは恐ろしいものですわね。私も気をつけませんと」
純金100kgの仕送りを毎月もらっているルナが、どの口が言うのかという顔で笑う。
「ねえマモル先生! 私のチャンネル登録者数もミリオン超えたよ! 明日、お祝いにお寿司頼んでもいい!?」
ちゃっかり一番おいしいところを持っていったキュララが、無邪気に飛びついてきた。
「寿司だと? お前ら全員、明日の朝は納豆と白飯だけだ!」
俺はため息をつきながら、赤ペンをポケットにしまった。
狂気と欲望が渦巻く、アルニア領のシェアハウス。
全く手のかかる連中だが……俺の「プロデューサー」としての仕事は、まだまだ終わることはなさそうだ。
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