EP 8
強制入院とプロデューサーの塩揉みカチコミ
アルニア領・王立特別病院。
その最上階にある、限られた特権階級と王族しか立ち入ることを許されない『VIP病棟』の特別室。
「ガハハハハ! ちょろい、ちょろすぎるでぇ! マスコミも特定班のガキどもも、ここまでは絶対に入ってこれんからな!」
先ほどまで「謎の体調不良」で白目を剥いて倒れていたはずのゴルド商会会長・オロチは、最高級シルクのパジャマ姿でふんぞり返り、メロンジュースを呷っていた。
「流石はオロチおじ様ですの♡ 最高の『強制入院』でしたの!」
その隣の豪華なベッドでは、芋ジャージの上から病院着を羽織ったリーザが、ルームサービスで頼んだ特上寿司を頬張っていた。
二人の間には、依然として禁断の魔植物『ずっ友ロコシ』による、強固な癒着関係(ピンク色のオーラ)が漂っている。
「ネットの炎上なんて、三日も引きこもっとればみんな忘れるわい! ほとぼりが冷めたら、またワシらの力で新しい番組を作ったるで!」
「一生ついていきますの! ずっ友バンザイですのーっ!!」
病室は、完全に勝ち組の祝勝会ムードに包まれていた。
厳重なセキュリティと、扉の前に立つ王室直属のエリート近衛兵たち。このVIP病棟は、アルニア領において最も安全な「逃げ切り要塞」のはずだった。
――ズドォォォォォォンッ!!!
突如、要塞の絶対的な安全神話を粉砕する、凄まじい爆音が鳴り響いた。
「な、なんや!?」
「ひぃっ!? 地震ですの!?」
特上寿司の皿が宙を舞う。
そして次の瞬間。厚さ10センチはある鋼鉄製の特別室の扉が、まるで紙切れのように内側へと吹き飛び、壁に激突してひしゃげた。
「け、警備ィィ!! 外の近衛兵は何をしとるんや!!」
オロチが叫ぶが、吹き飛んだ扉の向こうからは、ピクピクと痙攣して気絶しているエリート近衛兵たちの山が見えただけだった。
「……悪いな。外の警備は、うちの『村長』が軽くストレッチ(顎砕き)の相手をさせてもらった」
もうもうと立ち込める土煙の中から、低く、ドスの効いた声が響く。
現れたのは、紫色の芋ジャージを着た男――俺だ。
その後ろには、トンファーを構えて首をポキポキ鳴らしているキャルルと、優雅に日傘を差しているルナの姿がある。
「マ、マモル先生ぇぇっ!?」
リーザが悲鳴を上げ、ベッドのシーツを被って震え上がった。
「誰や貴様ら! ここはVIP病棟やぞ! 不法侵入で警察に……ッ!?」
ドサッ。
俺はオロチの言葉を遮るように、担いでいた『業務用の粗塩(5キログラム)』を、ドンッと大理石の床に置いた。
「不法侵入じゃねえよ。俺は『プロデューサー(大家)』として、契約違反を犯したタレントに、手厚い教育的指導(お見舞い)をしに来てやったんだ」
俺は赤ペンを指先でクルクルと回しながら、勝ち誇っていたはずの二人を見下ろした。
「てめえら、俺の許可なく勝手に番組を乗っ取り、勝手に炎上し、あまつさえ『シェアハウスの同居人(俺たち)』のせいにして逃げようとしたな? プロデューサーを差し置いてビジネスするなんて、随分といい度胸してんじゃねえか」
「ヒィィィッ!!」
マモルから放たれる、魔王すら震え上がらせた『絶対的強者のオーラ(怒り)』。
オロチとリーザは、自分たちが逃げ込んだ先が安全なVIP病棟などではなく、「最強の猛獣の檻の中」であったことにようやく気がついた。
「あの、マモル様。その『ずっ友ロコシ』の呪いは、大量の塩で中和しないと解けませんのよ」
ルナが純真無垢な笑顔で、恐ろしいアドバイスを送る。
「ああ、分かってる。だからわざわざ、スーパーで一番粒の荒い粗塩を5キロも買ってきてやったんだ」
「や、やめて! 先生、やめてくださいですの! 私とオロチおじ様は、ずっ友なんですの!」
リーザが涙目で訴えるが、俺は一切の慈悲もなく、5キロの粗塩の袋をビリッと破り開けた。
「悪いな、リーザ。炎上タレントには『炎上商法』って使い道があるが……そのためには、まずお前らのそのふざけた『癒着』を物理的に引き剥がさなきゃならねえ」
俺は袋いっぱいの塩を両手で鷲掴みにすると、悪鬼のような笑みを浮かべて二人に歩み寄った。
「さぁ、口を開けろ。たっぷり……塩揉み(浄化)してやるからよ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
VIP病棟の最上階に、汚職コンビの絶叫が木霊する。
ずっ友ロコシによる最悪の癒着関係が、いま、大量の塩化ナトリウムによって強制終了されようとしていた。
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