EP 5
特定班動く! キュララの突撃取材予告
歴史的放送事故から、わずか3時間が経過したアルニア領。
シェアハウスのリビングでは、天使族のT-チューバー・キュララが、空中に展開した複数の魔導ホログラム画面を恐ろしい速度でフリックしていた。
「はい、特定班優秀すぎー! ゴルド商会のダミー会社の口座履歴、バッチリ抜けたよ! スパチャ1万G、ナイスゥ!」
彼女の配信枠(チャット欄)は、今やアルニア領全土から集まった暇人……もとい、凄腕の「特定班(インターネットの亡者たち)」によって埋め尽くされていた。
『オロチの車のナンバー特定しました』
『アルニアTVのプロデューサーに賄賂が渡った瞬間の隠し撮り映像、アップ完了です』
『例の芋ジャージの人魚、最近まで公園で鳩と喧嘩してました。証拠画像置いときます』
次々と寄せられる、おぞましいまでの個人情報と裏帳簿のデータ。
それらを眺めながら、俺は顔を引きつらせていた。
「お前ら……国家の情報局よりえげつねえな……」
「へへっ! 炎上の火種を嗅ぎつけたネット民を怒らせたら、魔王軍より怖いんだからね!」
キュララはニヒッと笑うと、『エンジェルすまーとふぉん』のカメラを自分に向け、生配信のボタンをターンッと叩いた。
「アルニア領のみんなー! 待たせたね! 今日の朝の『ポロロロン♪大放送事故』、みんなもトラウマになったよね!?」
画面の向こうで、数百万の視聴者が一斉に同調のコメントを打ち込む。
「ただの放送事故じゃないよ! 優秀な特定班の調査で、あの葉巻のオジサン『ゴルド商会・オロチ会長』が、テレビ局に莫大な裏金を渡して、何のコネもない芋ジャージの女の子を無理やり出演させた『真っ黒な癒着』が発覚しましたーっ!!」
ドンッ! と、キュララの背後に証拠の裏帳簿データがデカデカと表示される。
「というわけで! 怒れるお茶の間の皆さんに代わって、正義の天使キュララが、今からオロチ会長の豪邸に『突撃生取材』を敢行しちゃいまーす!!」
同接数が爆発的に跳ね上がり、画面がスパチャの虹色で埋め尽くされる。
「お、おいキュララ! 相手はアルニア領トップの商会会長だぞ! 権力者に無許可で突撃なんかしたら、名誉毀損で消されるぞ!」
「大丈夫だよマモル先生! 現代のエンタメにおいて、『同接数(リスナーの数)が多い方が正義』だから!!」
資本主義と承認欲求のバケモノに成り果てた天使は、俺の制止を華麗にスルーすると、背中に純白の翼を広げ、窓からアルニア領の高級住宅街へと飛び立っていった。
* * *
一方その頃。アルニア領の一等地にある、オロチの黄金の豪邸。
その豪華絢爛なリビングでは、大放送事故の元凶である二人が、高級ワインとメロンジュースで乾杯していた。
「ガハハハ! 最高やったなリーザちゃん! ワシの葉巻の煙と小判の雨、最高のステージ演出やったやろ!」
「ええ、オロチおじ様♡ 私の『ポンポコ節』のターマターマも、子供たちの魂に深く刻み込まれたはずですの!」
禁断の魔植物『ずっ友ロコシ』の洗脳効果により、二人の脳内では先ほどの地獄の生放送が「歴史に残る感動のステージ」として美化されていた。
「これで私も、地上波のトップアイドルですの! おじ様、次はゴールデンタイムの音楽番組を買い取ってくださいの!」
「おうとも! ワシら『ずっ友』の力があれば、この国のエンタメはワシらのモンや!!」
二人が満面の笑みで固い握手を交わした、その時である。
――ドゴォォォォォンッ!!!
豪邸の玄関を守る、厚さ20センチの純金製の門扉が、外からの物理的衝撃によって吹き飛び、リビングの壁に激突した。
「な、なんやァァッ!?」
「ひぃっ!? テロですの!?」
もうもうと立ち込める土煙。
その中から、スマホを片手に構えたキュララが、天使の笑顔でズカズカと踏み込んできた。
「はいどーもー! 真実を暴く突撃天使、キュララだよーっ! 同接は驚異の200万人突破ァ!!」
「き、貴様……ワシの家になんの用や! 警備員!! 警備員はどこや!!」
血相を変えるオロチと、その後ろで芋ジャージのポッケに高級メロンを隠すリーザ。
キュララはスマホのカメラをオロチの顔面にドアップで突きつけると、ニヤリと笑って言い放った。
「さぁ、観念しなよオロチ会長、そしてリーザちゃん! 怒れるお茶の間の前で、真実のお時間だよーっ!!」
――逃げ場なしの公開処刑。
ここから、あの伝説の『政治家の言い訳コンボ』が、怒涛の勢いでアルニア領に生配信されることになる。
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