EP 4
大放送事故! 葉巻のお兄さんとポンポコ節
「テレビの前のアルニア領のおともだちー! はじまるよーっ!」
日曜の朝、パステルカラーの可愛い森のセットに、野太いダミ声が響き渡った。
カメラの前に立つのは、派手な柄シャツに純金のネックレスをギラつかせたゴルド商会会長、オロチ(50歳)。
その手には極太の葉巻が握られ、口からはモクモクと紫色の煙が吐き出されている。
「ワシが今日から新しく赴任した『オロチお兄さん』や! お前ら、泣く子も黙るお小遣い(札束)の時間やでぇ! ガハハハハ!」
「きゃあぁぁぁっ!?」
「ママー! こわいよぉぉぉっ!!」
スタジオの観覧席に集められた純真な子供たちが、本物のヤクザ顔負けの威圧感と葉巻の煙に一斉に泣き叫び始める。
「ちょ、オロチおじ様! 子供たちが怖がってますの! ここはアイドルである私に任せてくださいですの!」
そこへ颯爽とカットインしてきたのは、芋ジャージに健康サンダル姿のリーザである。
「おともだちのみんな! 私が新しい『歌のお姉さん』のリーザですの! 今日はみんなのために、とっておきの歌とダンスを披露しちゃいますの!」
「おおっ! さすがワシのずっ友や! さあ、歌えリーザちゃん!」
リーザは自信満々にうなずくと、ジャージのポケットから「五円玉」を二枚取り出した。
「まずは、この五円玉を……こうですのッ!!」
ズボッ!!
彼女は躊躇することなく、その美しい鼻の穴に二枚の五円玉をねじ込んだ。
アイドル(元人魚姫)の顔面が、一瞬にして放送コードギリギリの珍獣へと変貌する。
「なっ……!?」
「ひぃぃぃっ!?」
子供たちの泣き声が、悲鳴へと変わった。
しかし、リーザの暴走は止まらない。彼女は健康サンダルでステップを踏みながら、自らのお腹を両手で勢いよく叩き始めた。
パーン! ポンッ! ポポポポンッ!!
反復横跳びで鍛え上げられた無駄に良い音の腹鼓が、マイクを通して全国のお茶の間に響き渡る。
「ミュージック、スタートですのーーっ!!」
♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン!
♪月よ~月で~頭は ハーゲハゲでピーカピカ~!
アップテンポな三味線のメロディに合わせ、五円玉を鼻に詰めたリーザが腹を叩きながら熱唱する。
「(ソレ! ヨイヨイ!)」
オロチが合いの手を入れながら、子供たちに向かって純金の小判をばら撒き始める。
♪お尻はツールツル~ ターマターマはマ~ルマル~!
♪は、は、葉っぱを乗せても ドロンとドンドン!
「(ア、ドッコイ! もっと拾わんかいガキども!!)」
「ママーーーッ! たすけてぇぇっ!!」
「うわぁぁぁん!!」
♪化けよ~化けで~尻尾は ボーサボサでチョーロチョロ~!
♪おヘソはデベソだ~ ターマターマはユーラユラ~!
日曜の朝8時に、「ターマターマ」というド直球の下ネタフレーズが、人魚の美しい無駄な美声に乗せてリフレインする。
スタジオのプロデューサーは泡を吹いて気絶し、フロアディレクターは髪を掻き毟りながら「止めろォォォッ!! 電波を止めろォォォッ!!」と絶叫していた。
* * *
同時刻、マモルたちのシェアハウス。
「……」
「……」
俺とキャルルは、コーヒーカップを持ったまま完全にフリーズしていた。
画面の中では、オロチが葉巻を咥えたまま謎の盆踊りを踊り、リーザが鼻息で五円玉を鳴らしながら腹太鼓のクライマックスを迎えている。
「や、やばいよマモル先生!!」
ソファの上で、キュララがスマホを握りしめながら金切り声を上げた。
「ゴッドチューブのアルニア領サーバーが、エラー吐いてる! トレンドワードの1位から10位まで、全部『ポロロロン』『放送事故』『ターマターマ』『葉巻のお兄さん』で埋め尽くされてるよぉっ!!」
「当たり前だ!! なんだあの地獄の狂宴は!! 世界樹の呪い(ずっ友ロコシ)、恐ろしすぎるだろ!!」
俺が頭を抱えて絶叫した直後。
テレビ画面が突然、『しばらくお待ちください』という、のどかな風景の静止画に切り替わった。
放送局が限界を迎え、ついに物理的に電波を遮断したのだ。
「……あーあ。切られちゃいましたわね」
ルナが呑気にスムージーをすすりながら呟く。
「終わった……。アルニアTVの歴史が、今日終わった……」
俺はソファに崩れ落ちた。
しかし、これは単なる始まりに過ぎなかった。
この歴史的放送事故は、瞬く間に切り抜き動画として世界中に拡散され、アルニア領における最大の『炎上事件』へと発展していく。
「ふふふ……これ、最高にバズる匂いがするね」
キュララの背中に、黒い天使の羽が見えた気がした。
彼女は不敵な笑みを浮かべ、特定班に向けて号令をかける。
「さぁみんな! あの葉巻のオジサンとリーザちゃんの間に、どんな『黒い癒着』があるのか……特定班、全力で洗い出して!! 明日の配信で、突撃取材を敢行するよーっ!!」
権力者の成金と、強欲アイドル。
『ずっ友ロコシ』が生み出した最悪の共犯関係は、現代ネット社会の容赦なき「特定」と「炎上」の業火に包まれようとしていた。
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