EP 3
権力濫用! 子供番組『ポロロロン♪』乗っ取り
「ええっ!? ほ、本番5分前ですよ!? 今からメインキャストを交代するなんて、いくらなんでも無茶苦茶です!!」
「うるさいわボケェ! 誰の金でこの番組が作られとると思っとるんじゃ!!」
日曜の朝。アルニアTVの第1スタジオに、怒号が響き渡っていた。
パステルカラーの風船や可愛らしい動物の着ぐるみたちが並ぶ、ファンシーで平和な子供向け音楽番組『ポロロロン♪』のセット。
しかし、その中央には、分厚い葉巻をふかし、純金のネックレスをジャラジャラと鳴らす強面――ゴルド商会会長のオロチがドカッとパイプ椅子に座り込んでいた。
「オ、オロチ会長……! ス、スタジオ内での喫煙はコンプライアンス的に……!」
「あぁん? ワシの葉巻の煙はマイナスイオンが出とるんや! ガタガタ言うなら、明日のスポンサー料の振り込み、ストップしたろか?」
「ひぃぃっ! 灰皿をお持ちしろぉぉっ!」
プロデューサーが土下座せんばかりの勢いで部下に指示を飛ばす。
セットの隅では、本来出演するはずだった爽やかな『歌のお兄さん』と『歌のお姉さん』が、理不尽な降板宣告を受けて段ボール箱を抱えながら泣き崩れていた。
完全なる権力の暴力。
その傍らで、入念にアキレス腱を伸ばし、喉の調子を整えている芋ジャージ姿の少女がいた。
「リーザちゃん! 調子はどうや!」
「完璧ですの、オロチおじ様♡ 発声練習も、公園での鳩との縄張り争いでバッチリ仕上げてきましたの!」
「ガハハハ! さすがワシのずっ友や! 地上波の電波を使って、アルニア領のガキどもに『本物のエンタメ』を教えたるで!」
かくして、事前のリハーサルも台本チェックも一切無視した、狂気の生放送の準備が整ってしまった。
* * *
同時刻。アルニア領、マモルたちのシェアハウス。
「ふわぁ……よく寝たわ」
休日で遅起きしてきたキャルルが、パジャマ姿のままリビングのテレビをつける。
ソファでは、キュララがスマホ片手に朝の雑談配信中であり、俺はコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
『さぁ、アルニア領のおともだち~! はじまるよーっ!』
テレビから、陽気なオープニングテーマが流れ出す。
しかし、画面に映し出された映像を見た瞬間、俺は口に含んだコーヒーを盛大に噴き出した。
「ぶふぉっ!?」
「きゅら!? マモル先生、汚い!」
「お、おい! ちょっと待て! なんでリーザがテレビに出てんだ!? しかもあの隣にいるヤクザみたいなオッサンは誰だ!!」
俺の叫びに、キャルルとキュララもテレビ画面を凝視する。
ファンシーな森のセットの中央。そこには、純金ジャラジャラで葉巻をふかすオロチと、謎の自信に満ち溢れた芋ジャージのリーザが、満面の笑みで並んで立っていた。
「あら」
そこへ、キッチンから優雅に紅茶のカップを持ったルナが顔を出す。
「どうやら、私の『ずっ友ロコシ』の魔法が完璧に効いたみたいですわね。あの男性、ゴルド商会のオロチ会長ですわ」
「……お前、マジで冗談じゃねえぞ。あの二人が生放送で絡んだら、放送事故じゃ済まねえぞ……!!」
俺が青ざめる横で、キュララは目を輝かせて自分の配信カメラ(エンジェルすまーとふぉん)をテレビ画面に向けた。
「みんな見て見て! うちの同居人のリーザちゃんがテレビ出てる! え? 隣のオジサン誰かって? 絶対ヤバい匂いがするよねー! 特定班、今のうちに録画の準備よろしくっ!」
すでにネットの海では、お茶の間の困惑と特定班の興奮が入り混じり、不穏な熱狂が渦巻き始めていた。
* * *
再び、アルニアTV第1スタジオ。
「本番、5秒前! 4! 3! 2……!」
ディレクターの震える指が、キューサインを出す。
カメラの赤いランプが点灯し、アルニア領全土の何百万というお茶の間へと、その映像がリアルタイムで配信され始めた。
「ガハハハハ!」
オロチは葉巻の煙をプハーッとカメラに向けて吹き出し、隣のリーザと力強くハイタッチを交わした。
「さあ、カメラ回ったで! ワシとリーザちゃんの、最高のステージの始まりや!!」
「アルニア領の皆さん、そして金づるの……いえ、愛するファンの皆様! 私の魂の歌、とくとお聴きなさいですのぉぉっ!!」
日曜日、午前8時。
罪なき子供たちのトラウマとなる、伝説の大放送事故の幕が、今まさに切って落とされた。
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