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EP 9

天界闇金! マグローザ漁船の恐怖とプロデューサーの鉄拳

 魔王ゼノンが「インドア派モデラー」としてポポロ村へ走り去り、完全に空っぽになった魔王城の玉座の間。

 見習い女神リリスは、手元の『エンジェルすまーとふぉん』の画面を見て、歓喜の涙を流していた。

「先生ぇぇ! やりました、やりましたよぉぉ! 同接50万キープ、しかもゴッドチューブの『総合ランキング1位』を獲得しましたぁぁっ!! これで私のチャンネル削除(左遷)は回避ですぅぅ!」

「ハッ。言っただろ、俺がガチでプロデュースしてやるってな。……ん?」

 マモルが赤ペンをジャージのポケットにしまおうとした、その時だった。

 ――ピピピピピピーーーッ!!! 警告(WARNING)!!

 突如、リリスの持つエンジェルすまーとふぉんから、鼓膜をつんざくようなけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 画面が真っ赤に点滅し、システム音声の『内蔵AI・賢者君』が、冷酷な声で告げる。

『警告。課金上限の100万円に到達しました。これより、天界金融による強制徴収プログラムを起動します。お支払いは月額68,000円の36回払いとなります』

「えっ……? あ、あああああっ!!?」

 リリスの顔から、一瞬にして血の気が引いた。

 勇者の覚醒、聖女の属性変更、魔将の衣装チェンジ……マモルの指示通りにバンバン「ステータス変更アプリ(1回10万円)」を乱用していたツケが、ここに来てついに爆発したのだ。

「ど、どうしよう先生! 払えません! 私、見習いだから月のお小遣い3千円しか……っ!」

 バリィィィィンッ!!

 リリスがパニックになった瞬間、玉座の間の空間がガラスのようにひび割れ、そこから**「屈強な三人の男たち」**が姿を現した。

 黒いタキシードに身を包み、真っ黒なサングラスをかけた、筋肉隆々のハゲ頭の天使たち。彼らこそ、天界が誇る容赦なき取り立て屋である。

「リリス様。お迎えに上がりました」

「ひぃぃぃっ!!?」

 リーダー格の黒服天使が、無機質な笑顔で巨大な『スーツケース』をカパッと開いた。

「滞納者は規定により、宇宙空間を泳ぐ巨大マグロ『マグローザ』の一本釣り漁船にて、元金と利息(年率15%)を完済するまで強制労働していただきます。さあ、こちらへ」

「いやぁぁぁっ! 漁船に乗せられたら、みたらし団子もポテチも食べられなくなっちゃいますぅぅ!! 助けて、ルチアナ先輩ぃぃ! マモル先生ぇぇ!!」

 黒服たちは暴れるリリスの襟首を掴み、問答無用でスーツケースに詰め込もうとする。

「……おい。ちょっと待てや」

 その時。

 低く、ドスの効いた声が玉座の間に響いた。

 紫色の芋ジャージを着た男――加藤マモル(25歳)が、首の骨をボキボキと鳴らしながら、黒服天使たちの前に立ち塞がっていた。

「部外者は下がっていただこう。我々は天界の正当な債権回収業務を――」

「生徒(教え子)が目の前で怪しい業者に連れ去られそうになってんのに、見過ごす教師がいるわけねえだろ」

 マモルはふう、と短く息を吐き出すと、凄まじい踏み込みで黒服天使の懐へと潜り込んだ。

「なっ……!?」

「学校(俺のプロデュースした世界)に、土足で乗り込んでんじゃねえよ」

 ドンッ!

 マモルはリリスを掴んでいた黒服の腕をとり、手首を返して円を描くように体重を乗せた。

 完璧な『合気道』の理合。体重100キロを優に超える筋肉の塊が、ふわりと宙を舞い――

 ドゴォォォォンッ!!

 黒服天使は、魔王の玉座を粉砕しながら、頭から床に突き刺さった。

「ば、馬鹿な!? 我々の上位神格の筋力を、ただの人間が投げ飛ばしただと!?」

「てめえら、まとめてかかってこい。教育的指導(物理)をしてやる」

 残る二人の黒服が猛然と襲い掛かるが、マモルは涼しい顔でその拳を躱し、次々と鮮やかな投げ技を決めていく。

 物理攻撃無効の元魔王すらボコボコにしたマモルの基礎ステータスと達人の武術の前に、天界の取り立て屋など赤子も同然だった。

「がはっ……! ぐぅぅ……!」

 たった数十秒後。三人の黒服天使たちは、全員仲良く床に転がり、うめき声を上げていた。

「せ、先生……! かっこいいですぅぅ!」

 スーツケースから這い出したリリスが、目を星にしてマモルを見上げる。

「フン。だが、借金は借金だ。踏み倒すのは教育上よろしくねえな」

 マモルは床に転がるエンジェルすまーとふぉんを拾い上げ、黒服のリーダーの顔面に突きつけた。

 画面には、現在進行形で爆発的に伸び続けている『ゴッドチューブ』の配信画面が映し出されている。

「見ろ。現在同接50万。しかも世界中の神々から、ポポロ村のキャラクターたち宛てに『お供えスーパーチャット』が滝のように飛んできてる。おまけにこの再生数なら、広告収益も桁違いだろ」

「……あっ」

 黒服天使がサングラスをずらし、画面の『収益ダッシュボード』を凝視した。

 そこには、マモルのプロデュースによって跳ね上がった、信じられない額の数字が表示されていた。

「これだけで、100万なんて秒で完済できるどころか、天界の国家予算レベルの黒字だ。……そうだろ?」

「……は、はい! おっしゃる通りでございます、プロデューサー様!!」

 黒服天使たちは一瞬で態度を豹変させ、マモルに向かって綺麗な土下座を決めた。

「借金は全額相殺! むしろ余剰利益につきましては、後日リリス様の口座へ振り込ませていただきます! 本日は大変失礼いたしましたぁっ!!」

 シュバババッ! と、黒服たちはスーツケースを抱え、逃げるように空間の裂け目へと消えていった。

「終わったぞ、リリス」

「先生ぇぇぇ!! ありがとうございますぅぅぅ!」

 リリスはマモルのジャージの胸元に飛び込み、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらすがりついた。

「これで……私、マグローザ漁船に乗らなくて済むんですね!? お菓子も食べ放題なんですね!」

「あー、汚ねえな! 鼻水つけるな! だけどまぁ……よく頑張ったな」

 マモルは少しだけ呆れたように笑い、泣きじゃくる見習い女神の頭をポンポンと優しく撫でた。

「お前が作ったテンプレ世界は、たしかに最初は酷かった。だが、お前が諦めずに俺を呼んだから、あいつら(キャラクター)は自分の意思で生きる最高の居場所(ポポロ村)を見つけられた。……これは間違いなく、お前のプロデュースの成果だ」

「……はいっ!!」

 泣き笑いの表情で頷くリリス。

 こうして、予算100万円で作られたポンコツなエターナル世界は、マモルの赤ペン添削によって、天界で最も熱狂と利益を生み出す『神コンテンツ』へと見事な大逆転を遂げたのであった。

「さてと。大仕事も終わったし、アルニア領のマイホームに帰るか。今日の晩飯は、龍魔呂が作る特製ハンバーグらしいからな」

「あっ、私も帰ります! ルチアナ先輩のコタツでアイス食べたいです!」

 最強のプロデューサーとポンコツ女神は、完全に自由となった世界に背を向け、いつもの「極上のスローライフ」が待つマイホームへと、満足げに帰還していくのだった。

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