EP 7
欲望の交差点(ポポロ村経済特区、爆誕)
カーン! カーン! ギィィィィン……!
辺境の地『ポポロ村』。
かつては閑散としていたはずのその村は今、凄まじい活気に満ち溢れていた。
「そこのオーク! 丸太の牽引が遅いですわ! 私の『絶対に切れない鎖』をもっと上手く使いなさい!」
「はいっ、スアイ現場監督(女帝)!」
タローマン製の作業着に身を包んだ元・氷魔将軍のスアイが、村人や周辺の魔物たちを巻き込み、超絶スピードでログハウス(サウナ施設)を組み上げていた。
そこへ――ドタドタドタッ! と、土煙を上げて一人の青年が駆け込んでくる。
「ここだ!! 豚の脂と、上質な小麦の匂いがするぞ!!」
「えっ? あなた、設定画像で見た『勇者ユート』ですわね? なぜこんな辺境へ?」
どんぶりを片手に目を血走らせる勇者ユート。
彼が嗅ぎつけたのは、スアイがキャンプ飯のために品種改良して育てていた「ポポロ豚」と「寒冷地仕様の強力粉」だった。
「待ちなさいユートぉぉっ! 私の財布(金ヅル)が勝手に動くんじゃないわよ!」
さらにその後ろから、猛ダッシュで追いかけてきた聖女リリナが到着する。
そして――
「見つけたぜ、バカ勇者ぁぁっ!! 俺の有給休暇のために死ねぇぇっ!!」
ドゴォォォォンッ!!
上空から炎の隕石のごとく落下してきたのは、過労でブチギレた社畜・炎魔将軍グレンだった。
「ひぃっ!? 四天王のグレン!? なぜ勇者と魔将が私のDIY村に集結していますの!?」
スアイが丸太を抱えたまま叫ぶ。
勇者、聖女、氷魔将軍、炎魔将軍。本来なら世界の命運を懸けて血で血を洗う死闘を繰り広げるはずの4人が、ポポロ村の広場で睨み合う形となった。
「いくぞ勇者! この『地獄の業火』で灰にしてやる!!」
グレンが両手に超高熱の炎を宿し、ユートに向けて放とうとした、その瞬間。
「……待て。その炎、最高じゃないか」
「……そうですわ。その熱量、素晴らしいですわ」
ユートとスアイが、全く同じタイミングでグレンの炎を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「ああん? 何言って……」
「その火力があれば、豚骨を三日三晩煮込む『超濃厚・豚骨スープ』が数時間で作れる!! 頼む、俺の寸胴鍋を熱してくれ!!」
「その熱があれば、サウナストーンを極限まで熱する『極上のロウリュ』ができますわ!! 頼むからその炎、私のサウナ釜に提供してくださいませ!!」
敵対するはずの勇者と元同僚から、まさかの『熱源としてのヘッドハンティング』。
殺気を削がれたグレンがポカンとしていると、そこに――スッ、と一つの影が滑り込んできた。
「もったいないですね。争いはゼロサムゲームですが、あなたたちの『需要と供給』を繋げば、ここは世界最大の利益を生む【経済特区】になりますよ」
仕立てのいい真っ黒なスーツ(マモルのプロデュース)に身を包んだ15歳の少年、シオンである。
彼は裏社会のブローカーのような洗練された笑みを浮かべ、羊皮紙の契約書をバサッと広げた。
「俺の試算によれば、スアイ様がリゾート(ハコ)を作り、ユート様がラーメン(キラーコンテンツ)を提供し、グレン様がエネルギー(熱源)を担えば、莫大なシナジーが生まれます。……グレン様、魔王軍で安い給料でこき使われるより、うちの『専務取締役(エネルギー担当)』になりませんか? 役員報酬は今の10倍。……当然、週休3日の有給取り放題です」
「有給、取り放題……だと!?」
グレンの目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「やる! やらせてくれぇぇっ!! もう始末書も稟議書も書きたくねぇんだ!! 俺はラーメンの汁とサウナの石を温めて生きていくぅぅっ!!」
炎魔将軍(超絶ブラック企業出身)、まさかの即日転職。
その光景を見ていた聖女リリナは、頭の中で凄まじい速度でソロバンを弾いていた。
「……ちょっと、シオン君って言ったわね? 私をCFO(最高財務責任者)にしなさい。この村でヒール(回復魔法)のサブスク契約を結べば、サウナで倒れた客からさらに金を毟り取れるわ……! 私の計算じゃ、この村の年商は国家予算を超えるわよ!!」
――ここに、奇跡の共同体『ポポロ村経済特区』が爆誕した。
勇者はスープを煮込み、氷と炎の魔将がサウナの温度管理を徹底し、聖女が金を数え、元スリの少年が物流を牛耳る。
少し離れた小高い丘の上。
そのカオスすぎる光景を『エンジェルすまーとふぉん』で配信しながら、リリスは泡を吹いて倒れかけていた。
「同接が……30万人を突破しましたぁ……! 天界の神々が、ポポロ村のサウナの予約とラーメンの整理券を求めてサーバーがダウン寸前ですぅぅ……」
「ハッ、見ろよあの活気。これが本当のRPGだ」
マモルは赤ペンを回しながら、眼下の村を見下ろしてニヤリと笑った。
「 Role Playing Game(役割を演じるゲーム)じゃねえ。Real Profit Generation(真の利益創出)の略だ。あいつらはもう、誰に押し付けられた設定でもなく、自分自身の欲望で世界を回してるんだよ」
誰一人、世界を救う気などない。
だが、結果としてその村は、世界で一番豊かで熱狂的な場所になろうとしていた。
「さて……表の連中も裏の連中も、すっかり俺の息がかかったな。残るは、あそこの『玉座』に引きこもってる大将だけだ」
マモルの視線の先。
北の最果てにある魔王城へ向け、かつてないほど鋭い、プロデューサーとしての眼光が放たれていた。




