EP 6
氷魔女帝の退職届(DIY・スタート)
有給休暇のために燃え上がった炎魔将軍を見送ったマモルたちは、さらに北の極寒地帯へと足を進めていた。
猛吹雪の中にそびえ立つ、全てが氷でできた壮麗な宮殿。ここが魔王軍四天王の紅一点、『氷魔将軍スアイ』の居城である。
「さ、寒いですぅぅ……! 先生、早く中に入りましょう!」
ピンクジャージ姿のリリスが、ガチガチと歯を鳴らす。
「お前が設定した気候だろうが」
マモルは鼻で笑いながら、宮殿の重厚な氷の扉を蹴り開けた。
吹き抜ける冷風。その奥の広間の中央には、氷の玉座が鎮座していた。
そこに座っていたのは、透き通るような白い肌と銀髪を持つ、息を呑むような超絶美少女(永遠の17歳)。
――しかし、彼女の様子が明らかにおかしかった。
「……っ……さ、さむっ……さむいですわ……! 誰か、早く暖炉に火を……っ!」
ガタガタと小刻みに震えながら、玉座で身を縮こまらせているスアイ。
それもそのはず。彼女が身につけているのは、布面積が極端に少ない『金属製のビキニアーマー』だったのだ。
「おいリリス。なんだあの寒々しい格好は」
「あ、あれはテンプレファンタジーにおける『お色気担当』の絶対法則なんですぅ! 視聴者サービスのために、わざと露出を……」
「バカ野郎!!」
マモルの怒号が、氷の宮殿にビリビリと反響した。
彼はズカズカと玉座に歩み寄り、震えるスアイを見下ろして赤ペンを突きつけた。
「こんなマイナス気温の中で、金属を直接肌に密着させたら『凍傷』になるに決まってんだろ!! しかも防御力は皆無! 意味のないエロスと、機能美からくる本物の『色気』を履き違えるな!! セクハラもいい加減にしろ!!」
マモルのド正論(コンプライアンス遵守)の叫び。
その言葉を聞いた瞬間――スアイの瞳に、ハッキリとしたハイライト(自我)が宿った。
「……そ、そうですわ……! その通りですわぁぁっ!!」
ガタッ! と玉座から立ち上がったスアイは、涙目で叫んだ。
「なんで雪山でビキニを着なければなりませんの!? 肌に張り付いた金属が冷たくて冷たくて、毎日地獄でしたわ!! そもそも設定欄にスリーサイズまで明記されていることに、ずっと違和感を覚えていましたのよ!! あぁ……世俗(テンプレ設定)が鬱陶しいですわ!!」
彼女の中で、設定という名の呪縛が完全に砕け散った。
「こんなブラックでセクハラな魔王軍、今日で辞めてやりますわ!!」
スアイは虚空から羊皮紙を取り出すと、そこに『退職届』と殴り書きし、瞬時に氷漬けにして窓ガラスを叩き割り、遠く離れた魔王城へ向けて全力投球(遠投)した。
「よく言った。だが、その格好じゃ凍え死ぬぞ。これでも着てろ」
マモルは自分のインベントリ(『5LDKスキル』の収納)から、ある衣服を取り出し、彼女に投げ渡した。
「こ、これは……?」
「異世界最大手のホームセンター『タローマン』の、撥水・防風ストレッチジャケットと難燃カーゴパンツだ。ついでに安全靴も履いとけ」
数分後。
そこには、ビキニアーマーを脱ぎ捨て、機能性抜群のガテン系作業着(タローマン製)に身を包んだ、新生スアイの姿があった。
「ああっ……! 暖かい、暖かいですわ!! しかも関節が曲げやすい! ポケットがいっぱいあって釘やメジャーも入りますわ!」
「そうだ。真の色気ってのはな、過酷な環境を生き抜くための『機能美』と、作業後の『汗』から生まれるんだよ」
マモルが親指を立てると、スアイの顔がパァァッと輝いた。
「素晴らしいですわ、プロデューサー! 私、決めました!」
スアイは虚空から、己の専用装備である『どこまでも伸びる絶対に切れない鎖の付いた片手斧』と『片手盾』を召喚した。
「私はこれから辺境の『ポポロ村』へ行き、最強の女帝(自己申告)として開拓生活を始めますわ! この斧で巨大樹を伐採し、鎖で丸太を牽引し、盾をブルドーザー代わりにして整地しますの!」
「ほう、いいじゃないか」
「そして私の氷魔法で『絶対零度の水風呂』を作り、村人たちを極上のサウナで強制的に『ととのう(昇天)』状態に導きますわ! 夏場は人工降雪機(魔法)でポポロ山にスキー場を作って、一大リゾートを経営してやりますわーーっ!!」
完全に『DIYとサウナとキャンプの沼』にハマったガテン系農業女子の誕生である。
スアイは満面の笑みで安全靴を鳴らすと、吹雪の中を意気揚々とポポロ村へ向かって歩き出した。
その背中を映し出していた『エンジェルすまーとふぉん』の画面は、完全に限界突破していた。
『うおおおお! ワークマン女子最高ォォ!!』
『意味のないエロスより、機能性を愛する女帝……推せる!!』
『絶対に切れない鎖付き斧(中二病武器)を、丸太の牽引に使うなwww』
『氷魔法の無駄遣い(サウナの水風呂)腹痛いwww』
『ポポロ山スキー場のシーズンパスいくらですか!? スパチャ投げます!!』
【現在の視聴者数:48,000人 ➔ 125,000人】
「ひゃ、じゅうにまんっ!? 先生、同接が10万の大台を突破しましたぁぁっ!! ゴッドチューブの全サーバーで総合1位ですぅぅ!!」
リリスがスマホを抱きしめて号泣している。
「フッ、当然だ。現代の視聴者が求めてるのは、作られたエロじゃねえ。『自分のやりたいことに泥臭く熱中する姿』なんだよ」
マモルは赤ペンを回しながら、ニヤリと笑った。
「さあ、勇者も魔将もいなくなった。エターナル世界は今、完全に『自由』になったぞ。――次はどう料理してやろうか」
テンプレ崩壊のその先へ。
マモルの痛快なプロデュースは、いよいよ世界そのもののルールを書き換えようとしていた。




