EP 3
聖女リリナのヒロイン面談(圧迫面接)
「俺、ラーメンを探す旅に出ます!!」
そう叫んで、勇者ユートが東の空へと消えていった。
村の広場には、土煙と、静寂と、そして――一人ポツンと取り残された、純白の修道服を着た美少女だけが残されていた。
「ユート、様ぉ……? あれ? どちらへ……?」
彼女こそが、このエターナル世界のメインヒロイン。
勇者に無条件で付き従い、愛と癒やしを与える存在である『聖女リリナ(20歳)』だった。シナリオの都合上「勇者の後ろをついていく」という行動ルーチンしか設定されていないため、勇者が村からダッシュで消えた今、完全に挙動不審に陥っている。
「よし、次はあいつだな」
「ま、マモル先生! お手柔らかにお願いしますね!? これ以上メインキャラの根幹設定を壊されたら、私の世界が崩壊しちゃいますぅ!」
リリスがエンジェルすまーとふぉんを構えながら涙声で懇願する。
しかし、マモルは一切聞く耳を持たず、赤ペンをカチカチと鳴らしながら聖女の目の前へと陣取った。
「おい、そこのヒロイン」
「は、はいっ!? わ、私は聖女リリナ! ユート様の愛と平和の旅に、どこまでも尽くす者ですわ!」
リリナはビクッと肩を揺らし、プログラムされた『模範的な自己紹介』をスラスラと読み上げた。
「ふーん。で、お前はユートの『どこ』が好きなんだ?」
「えっ?」
マモルの唐突な質問に、リリナがフリーズした。
「勇者が好き」という設定はあっても、「なぜ好きなのか」という理由は、予算100万の手抜き世界には組み込まれていないからだ。
「えっと……そ、それは……ユート様は、お優しいからですわ!」
「薄いな」
ペチッ! と、マモルが赤ペンでリリナのオデコを叩いた。
「い、痛っ!?」
「優しさなんてのはな、テンプレ主人公の標準装備なんだよ。他にはないのか」
「そ、それでは……勇気があるところですわ!」
「ペチッ! ペラペラだな。勇気がない勇者なんざ、ただの無職だろ」
「だ、だから……えっと、顔がカッコいいところ、とか……?」
「ペチッ! ペチッ! お前、いま適当に言っただろ! お前の言葉には『魂』がねえんだよ!」
マモルによる、血も涙もないヒロイン圧迫面接。
リリナはオデコを押さえながら涙ぐむが、マモルはさらに一歩踏み込み、鋭い眼光で彼女の核心を突いた。
「正直になれよ。お前、本当はあいつのことなんか『どうでもいい』と思ってるだろ?」
「なっ……! そ、そんなこと、ありませんわ! 私は聖女として、彼を……!」
「嘘をつけ!!」
マモルの怒号が広場に響き渡る。
「お前が好きなのは『ユート』じゃない! 将来有望な『勇者という肩書き』だろ! 違うか!?」
「っ……!?」
「毎日毎日、無給で村人のケガを治すブラック労働! 泊まるのは安宿ばかり! そんな底辺の聖女ライフから抜け出すために、一番金を持っていそうな『勇者』に目をつけて、玉の輿に乗ろうとしてるだけだろ!! 自分の『欲望』から目を逸らすな!!」
――ピキッ。
その瞬間、清楚だったリリナの笑顔に、ハッキリとした亀裂が走った。
彼女の中で、抑えつけられていた「設定」の枷が、マモルの言葉によって粉々に砕け散ったのだ。
「……るさい」
「ああん?」
「うるさい、うるさい、うるさいわねぇぇぇぇっ!!!」
ドゴォォォンッ!!
聖女の体から、神聖な白……ではなく、ドス黒い【黄金色(金欲)】のオーラが天高く噴き上がった。
「あんたの言う通りよ!! なーにが愛と平和よ! こっちはねぇ、朝から晩までジジババの腰痛をヒールして、報酬は野菜だけなのよ!? ふざけんな! 私だってフカフカのベッドで寝て、高い化粧品買って、高級フレンチが食べたいのよぉぉっ!!」
「……」
「だから私は、あのバカ勇者を魔王討伐という名のデスゲームでこき使って、その報奨金と退職金で、一生遊んで暮らしてやるって決めたのよ!! 文句ある!? ねぇっ!!」
肩で息をしながら、隠し持っていた本性(ゲスい欲望)をブチまけたリリナ。
清楚な聖女の面影は消え失せ、そこには己の欲望に忠実な『超絶リアリストの守銭奴女』が誕生していた。
マモルはしばらく黙って彼女を見つめ――やがて、深く頷いた。
「……百点満点だ。それでこそ、ヒロインってもんだ」
「えっ?」
「自分を偽って笑うお人形さんより、金のために目を血走らせてる今の『お前』の方が、1万倍魅力的だぜ。せいぜい、あのラーメンバカの財布の紐をしっかり握ってやることだな」
マモルがニヤリと笑って親指を立てると、リリナはハッとして、慌てて修道服の裾を翻した。
「そ、そうよ! あいつ、私の財布(金ヅル)のくせに、ラーメンなんか探してどこ行く気よ! 逃さないわよぉぉ!! 待ちなさいユートぉぉっ!!」
聖女リリナは、勇者を超える猛烈なダッシュで、東の空へ向かって土煙を上げて消えていった。
その背中を見送りながら、リリスの手元にある『エンジェルすまーとふぉん』は、大変なことになっていた。
『wwwwwwwwww』
『最高にゲスくて草』
『この腹黒聖女、推せるわwww』
『ヒロイン(物理)の圧迫面接ww プロデューサーの手腕ヤバすぎだろw』
『ラーメン勇者と守銭奴聖女のパーティーとか面白すぎる』
【現在の視聴者数:1,520人 ➔ 8,900人】
「は、はちせんきゅうひゃくっ!? 先生! 同接がもうすぐ1万人を超えちゃいますぅぅ!!」
「フッ、当然だ。これが『キャラクターが生きている』ってことなんだよ」
マモルは赤ペンを指先でクルクルと回しながら、不敵に笑う。
「さあ、この村の連中はあらかた料理したな。次は……そうだな。このテンプレ世界で唯一、マトモに『生きてる』奴に会いに行くか」
マモルが見据える先には、薄汚れた路地裏。
そこには、弟妹を養うために泥水をすすって生きる、スリの少年『シオン』の姿があった。




